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「荒井 渡舟ノ図」−にゃむにゃむ君が和ませる–『東海道五十三次』

最近くずし字を読み解くことで1日をつぶしていますが、今日はある1文字がどうしても読み解けずに2、3時間苦戦していました。
辞書を1ページごとに当てはまる文字はないかと眺め、最後の方のページにやっと見つけられました。
くずし字って、「なんでそうなる?!」というような形をとっていることもあるので答えを見つけられた時に「だよねー汗(強がり)」の一方で「それは無理だろっ」という気持ちも湧いてきます。

そんなくずし字に悩まされる今日も広重。今回は『東海道五十三次』「荒井 渡舟ノ図」です。

東京富士美術館

◼️ファーストインプレッション

ここもまた浜名湖なのかな?
一番手前の船には何人もの人間が乗り合っていて、ぎちぎちです。
その奥にはどこかの家紋が記された帆を立てた船が浮かんでおり、おめでたい雰囲気が漂います。
背景の山岳も宿場の様子もモノクロで刷られ、ここに生気は感じられません。
やはり手前の船2隻に視線を置くことを目的にしているからなのでしょう。

もう少し船に注目してみましょう。
手前の船は人を渡しているような船で、船頭たちは顔を見せずに両手を使って一生懸命に漕いでくれています。
そんな中、ぎちぎちの船の中に丸まっている男性たちはうずくまっている人もいれば、伸びとあくびをしている人もいます。
清々しいくらいの大あくびです。一体どこからきた集団なのでしょうか。

その奥の船には人は乗っているでしょうけれどその影は見られません。
人を運ぶためというより何かを祝賀したり権威を表したりするために運航しているのでしょう。
家紋があることを指摘したのもそうですが、白いボンボン(笑)が挙がっていたり、鯉のぼりのような(笑)ものも浮かんでいます。
物の名称を知らないことは恥ですが、こうした象徴的なモチーフがあることでここで起こっている状況が分かりやすかったりしますね。

今回は荒井の場所とこの2隻の船の果たす役割についてみていきたいと思います。

◼️荒井

今回は浜中湖の中の様子です。昨日は岸の上部から俯瞰するように描かれていましたが、宿場の場所が対岸なのでしょうか。

前回の舞阪は地図の右下に見えます。
そこから対岸に目をやると荒井=新居宿があります。
少し離れたところに新井関所があったようです。

確かこの新居関所は「入り鉄炮に出女」というワードがセットだった気がします。

江戸幕府が諸大名の謀反を警戒して設けていた諸街道の関所で、鉄砲の江戸への持ち込みと、江戸に住まわせた諸大名の妻女が関外に出るのを厳しく取り締まったこと。

デジタル大辞泉

いや、別に新居に限った話ではなさそう。

新居に限らず関所であればこうした取り締まりがあったということです。

この取り締まりに関して以前読んだ本を参照します。
安藤優一郎氏『江戸の旅行の裏事情』より。

そもそもこの入り鉄炮というのは江戸に鉄砲が運び込まれることで、出女というのが江戸に人質となって置かれている大名たちの妻が江戸から出ていくことです。
これらが街道を通って地方の国から入ることや、自分の国に戻ってしまうことを防ぐためにいくつかある宿場に関所として取り締まりをしていたということです。

そんな出女は変装すれば抜け出すことが簡単にできてしまうわけですが、そんな甘い物ではないみたいです。
ちゃんと厳しいチェックが行われ、しかも正式に通っていいという証明書がないと通してもらえないことが多々。
その証明書が「往来手形」というもので檀那寺で発行され、ちゃんと自分の身分を証明してくれる物です。この往来手形は旅をしたい時に発行してもらいますが、関所を通らざるを得ない時に発行してもらう「関所手形」という手形で、幕府に申請をしないといけなかったそう。

女性がこうした手形を発行するには少し手間がかかりました。
やはり出女ではないことを証明しないといけないので、いくつか段階を踏まないといけません。
この段階の多さに異を唱えたのが8代吉宗で、この段階を少なくしようとしました。
すると旅をしたいという女性が急増したみたいです。
そりゃ簡単に旅に出られるようになったらたまにはいきたいですよね。今でもGOTOトラベルが発行されて旅費が安くなってみんな行くようになったようなものでしょう。

で、なんでこんなに出女と関所の話をしたかというと、今回の絵の2隻が関係しているわけです。

この2隻のうちの後ろの船が御座船という船で、大名を乗せたもの。
その手前の船が中間というお供の者を乗せた船でどこかの国の部下たちがぎちぎちにひしめき合って乗り合わせているというわけです。

なのでこの大名の船がこれから向かうのは新居の関所ということです。
御座船に人の影が見えず、これから取り調べを受ける準備で緊迫感が漂う中、後ろのお供たちのゆるゆるでねむねむな雰囲気がこの絵の中で調和をとってくれているわけです。
関所となる新居の宿場はモノクロで、色さえ持たない様子ですが大あくび男が緊張感をほぐしてくれているのです。


私が江戸時代の人だったら、こんなに手形の発行をしないといけない中で旅行するかなあと考えると、しない可能性の方が高いですね。
緩くなった吉宗時代には友達と一緒に行くかもしれませんが。

今回は新居の関所という性格から2隻の船の役割について見ていきました。

今日はここまで!
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