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〇エミリの小さな包丁/森沢明夫

「庭の青唐辛子を一ミリくらいの輪切りにしてな、
それを少しの間醤油に浮かせて、
辛みを醤油に移してやるんだ。
カサゴって魚は山葵醤油で食べてもいいが、
夏は特に唐辛子の辛みも合うからな。」

エミリの小さな包丁

一方、ふつうのサイズの四匹は、
大きな鍋で茹でて出汁を引いた。
まずは甲羅を剥がし、カニ味噌をスプーンですくって
小皿に取り分けておく。
そして、ガニと呼ばれるエラをむしりとり、
胴体を真中で真っ二つに割って鍋に入れ、
水からじっくりと茹でていくのだ。
浮いたアクは丁寧にとるように、
おじいちゃんに言われた。
沸騰すると鍋からは、なんともいえない香ばしい
磯の香りが立ち上ってくる。

エミリの小さな包丁

おたまでイソッピの出汁をすくって
半分をボウルに移し替えた。
それをしばらく冷ましてから冷蔵庫に入れることにする。
鍋に残った半分には味噌を溶き入れていく。
味噌で味を整えたら、長葱を入れて一煮立ちさせ、
最後に、小皿にとっておいたカニ味噌を浮かせれば完成だった。

エミリの小さな包丁

おじいちゃんの釣ったキスは、
包丁の先端で小さな鱗を落とし、
背中から開いて頭と内臓をとり、
背骨も取り分けた。
開いた白身は天ぷらではなく、フライにした。
さらにおじいちゃんは、
塩と山椒の粉をまぜて花椒塩という
中華の調味料を作った。

エミリの小さな包丁

お昼ご飯は「サバの炊かず飯」だった。
細かく叩いた生のサバの身に、
塩、酒、醤油で軽く味付けしたものを、
炊き立てご飯にしゃもじで丁寧に混ぜ込み、
炊飯ジャーの蓋をして三分ほど蒸らす。
そして最後に、白胡麻と刻んだ三つ葉を散らせば完成だ。

エミリの小さな包丁

アオリイカの醤油漬けは、
防波堤で釣った大きなアオリイカを素麺にして、
それを濃口醤油とお酒に漬け込んだものだ。
アルミホイルにのせて、オーブンで焼いて、
マヨネーズと七味をかけてもいいし、
生のまま卵黄を混ぜても絶品だ。
もうひとつのチダイの酢〆も素晴らしい。
チダイとは、真鯛によく似た小さめの鯛のことで、
ハナダイとも称される。
白身には繊細な旨味があり、
その旨味を酢で〆ることで引き出してやるのが、
この料理の肝だった。調理法はシンプルだ。
まずチダイの身を三枚におろして小骨を抜き、
軽く塩を振ってボウルの周辺にペタリと貼り付けておく。
すると、身の中の水分が落ちて底に溜まってくる。
ある程度水気が抜けたら、
その身を酢と水半々に混ぜた液できれいに洗い、
魚のくさみを取ってやる。
そしていったんキッチンペーパーで水気を拭き取ってから、
あらためてたっぷりの酢に漬けて、
ひと晩、冷蔵庫で寝かせれば完成だ。

エミリの小さな包丁

わたしはサワラの切り身を取り出した。
この切り身は、輪切りにした柚子と煮切った酒、
醤油、味醂を混ぜ込んだタレに、
朝から四時間ほど漬け込んである。
それを魚焼き網の上で焼いていく。
焼いている途中、数分おきに漬け込みダレを
三回ほどかけて、さらに焼く。
今度は漬け込みダレにマーマレードを混ぜ、
トロリとしたそれをかけては焼き、かけては焼きを
三度ほど繰り返していく。
焦がさないよう、丁寧に焼いていくのがポイントだ。

エミリの小さな包丁


日本の料理らしいメニューが沢山出てくる。
魚がたくさんとれるからこその
メニューだよなあと羨ましく読んだ。
お酒が飲みたくなる一冊。


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