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13個

緊急事態宣言後、次女だけが朝、小学校へ登校した。

他の子供たちは皆休校になっているものの、市の方針で今日まで小学生は登校する事になっているのだ。

彼女は今学校で机に向かいながら、気になっている事がたったひとつだけある。

それは近頃大のお気に入りであるチョコレートの安全である。

このチョコは珍しい事に、子供達全員が一斉にトリコになるほど我が家でブレイクを果たした26粒入りのどこにでも売っている箱入りのもの。

試しに一粒貰ってみると、なるほどたしかにクリーミーだ。

ひとりに一箱当てているので、子供らは在宅勉強中、気がむいては冷蔵庫を開いてマイチョコを取り出し口に一粒ポイと入れてまた机へ戻る、という行動をよく目にする。

「それってキチンと自分の箱だと皆認識しているの? 間違ったりしない?」と聞けば、置く場所で誰のか分かる仕組みになっているらしい。

昨晩次女は、冷蔵庫を開くなり金切声を上げた。

なんでも自分が思っていたよりも、なんだかチョコの数が少なくなっているらしい。

「ねえ私のチョコ食べなかった?」ときょうだい達に聞きに回るも皆知らないと言っているそうで。

その報告を受けた妻は、独自の調査に乗り出した末、ついに事実を突き止めた。

食べたのは次男だったのである。

とっておこうと考えながらも一粒食べたら止まらなくなり、自分のチョコを全部食べ切った後、きょうだいの箱を狙ったのだった。

兄と姉の箱を狙うとバレそうで怖いから、妹のチョコを2つ食べて知らん顔していたらしい。

まだチョコが半分くらい残っている箱だったと次女は言うが、それにしてもよく気がついたものだ。

きびしく咎められた次男はペナルティとしてチョコの配給一回停止の処分を受けたのである。

人一倍警戒心の強い次女はこれは一度では済むワケがないと対策を講じた。

自分の箱に黒マジックで名前、残りの粒数、調べた日時と時間、もしも誰かが食べた際の報復方法が記されてある。

それを見つけた妻が先程目の前に「ウケる見てこれ」と現物を差し出してきたが、その筆跡にはただならぬ想いが込められている事を私は父として深く理解し、その徹底ぶりに敬意を表しながら今こうして在宅ワーク中にも関わらず、寄り道してこの文章を書いているのだった。

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