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漁師談

もう10年よ漁師になって。 その前はさ、建設関係にいたんだけど、50歳でクビんなっちゃって。

まあ、カミサンと二人で食べていくのがやっと、ていうかトントンだね。 油代が5年前の2倍になっちゃってさ、今だってリッター100円ちょっとだもんな。 だからさあ、油代だけで月に2万もかかっちゃうの。 で、エサ代が1回1500円でしょ、するともう、トントンなわけよ。

釣れる魚はまずアジね。 で冬は鯛やマトウダイ。 今の時期だったらイサキね。 やり方はウキ流しでさ、そうさねえ、長い時で120メーターばかしは伸ばすね糸を。 ここいらは大体水深が25メーターばかしあってさ、底から5メーターばかし上げたところあたりに流すわけ。

例えばホラ、あすこの山から風がこっちに吹いとるとするでしょうが。 そして、潮の流れは海からあすこの山に向かっとるとするでしょうが、そしたらさ、風と潮の向きのガッチャするけんが、波の立つとやもんね。 そしたらシカケのこっからコッチにスーッって流れてしまうけん良くなかとさね。 風と潮の流れの向きの一緒やったらね、そりゃ仕事はやりやすかとよ。 まあ仕事っていうか趣味のごたるもんばってんがね。

夜釣りがよかとやもんね。 昼間もよかとばってんがさ、ホラ、ウチの船が釣れよるてバレればさ、寄ってくるとやもん別の船が。 そいで「この辺で釣らせてもらってもよかですかね」とか聞いてくる。 そしてそれが顔見知りやったりするやろ、そしたらもう、断りきらんもんね僕は。 こん年なってイチイチ喧嘩するともイヤでしょうが。

だけん「どうぞ」て横で釣らせるとばってんがさ、そしたらそん船が今度はバカバカ釣りだしたりするとやもん、そん時は「こん畜生!」てハラワタニエクリカエルとさね。 ばってん喧嘩するともイヤでしょうがこん年なって。

夜やったら見えんけん寄ってこんでしょうが誰も。 そもそも夜釣りに出る人間もあまりおらんし良かとさね。 夕方から五島沖に船ば出せばさ、夕日の沈むとのキレカとよ。 もう一面ファーっと夕焼け。 で漁場についてアンカーば落として灯りばつけるやろ。 そして釣りよったらさ、ワタリガニの寄ってくっとやもんね、500グラムぐらいのとのファーって泳いでくるワケよ。 そしたらサッと網ですくうと。

茹でればさ、ミソのさ、もうこがん山んごと入っとってさね、旨かとやもんねー。 カミサンと二人で喰うわけよ。 何、市場に出さないのかて? 出さん出さん、おまけやから、ご褒美やからワタシの。

イカも寄ってくるね。 でも大体イカも警戒して船から5メーターばかし離れた所ば泳ぐとやもんね、獲られんごと。 でも20に1ぐらいの割合でさ、ホヤホヤーって撒き餌に気ばとられてそこまで来とるとのおるとさね。 それを網でサッとすくうわけよ。 これもご褒美やね、ワタシの。

夏場のアジは針ば口の奥まで飲み込むけん、30釣れば5ぐらいは破損さすね。 破損すればもうイケスで泳がせても生きらんもんね、損失。 冬場のアジは口先で針ば加えるけんが、ほとんど破損せんとさね、楽。

どうして安かもん。 叩かれとるもんね! こがん型の良かアジば大漁してくるでしょうが、そいが500円ばい500円。 何一匹?チガウ! キロ500円よ600円よ! もう油代餌代ば考えたらもう、トントンやね。 年に何度かは、75センチで5キロの鯛の釣れるけど、太かとは叩かれると! キロ500円よ・・・だけん鯛は2キロまでやね。

たまにタチウオのかかるとばってん迷惑よ。 歯の鋭かでしょうが歯の。 歯で糸ばダメにされるとやもんね、からまって。 一番ヒドかとはフグねフグ。 海ん中ば泳ぎよって、糸に頭の当たった瞬間もうガブリやもん。 どがんしたっちゃ切れん糸の、もうプッツリやらるっと。

そしたらああた、シカケの作り直しでしょうが。 カゴからテンビンから糸から針から計算すればざっと2000円の損失ね。

アンカーのあるでしょうが、アンカーば上げようてしたらさ、時々どうしても上がらん時のあるとやもんね、瀬にかかって。 どがん引っ張っても上がらんとさね。 そしたらもう、ロープば切るしかなかわけよ。 ノコでギコギコやるわけよ。 そしたらもうハイ2万円の損失ね。 年一回は落とすね。

孫の生まれてね。 送ってやんのよ魚を冷凍で。 今ほら明後日の午前中には着くでしょクールで埼玉にも。 一度に50枚開きにすればさ、もう手のブルブル震えっと。

こがんことばかりしとるけん、まあ月に二十日漁に出たとしてもまあ、トントンやね。

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