#1 シャレの通じない男もやっぱりおもしろい。
お笑いコンビ紳助竜助が、かつて漫才でこんなやり取りをしている。
こんなに明快で楽しい理屈が他にあるだろうか?少なくとも誰かに「飛行機ってどうして飛ぶの?」と訊かれたら、すかさず紳助論を話そう。自分で思いついたみたいな顔で。
ただ仮にもしあなたが、この理論しか知らないまま生きていくとなると、いつか思わぬところで小石に蹴つまずき足を滑らせてしまうかもしれない。この世に生まれて24年、ついに私にそんな不幸が起こってしまった。
小石の正体は何だったか。それは私の大好きな”クレイジー俳優”トム・クルーズが、新作『トップガン マーヴェリック』のインタビューを受けている中で放った次のような発言だった。
人間は空を飛べない生き物だから代わりに飛行機を使って飛ぶ、だから「自然に逆らう」。これは分かる。じゃあ「自然を利用する」って何? 飛行機ってそもそもどういう理屈で飛ぶの…?これが、紳助論だけを信じて健気に生きてきた私を、突如として転倒させた小石の正体である。トム、許すまじ!
「飛行機と空気」
飛行機が飛ぶのには2種類の力、揚力ようりょくと推力(前進力)が必要である。車や電車などは、基本的に前に突っ込むだけの推力しかないわけだが、これだけだと飛行機は浮かない。トムの言う「自然を利用する」というのは、つまり揚力に関係することなのだ。
「自然」というのは…?空気のことである。
空気には、流れる時の速度が速いぶん圧力が小さくなり、速度が遅いぶん圧力が大きくなるという性質がある。空気は上向きになっている翼に触れた瞬間、上面を通る風と下面を通る風にすぐさま分裂する。上面を行く空気はこれまで通りのスピードで走るが、翼の抵抗を受けた下面の空気はスピードが落ちる。そうなると、上下両面の圧力の差によって翼および機体を上方にぐんっと押し上げる強烈な力、すなわち揚力が生まれるのだ。飛行機は、このような自然法則をうまく利用し、あの巨大な機体を浮かすことができている。
当然のことながら紳助の理屈の方が楽しいことには楽しい。「滑走路が切れるから飛行機は飛ばなしゃーない」。こういうシャレや嘘がおおいに歓迎されるのがエンターティメントと呼ばれる世界の実におもしろいところである。しかしながら、この「シャレを楽しもう」という場所の1つである映画界に「シャレを持ち込むことを許せない」恐ろしい男がいる。先ほどから名前を挙げている、トム・クルーズだ。
CGやCGI、VFXなどの視覚効果技術の進化がローコストでハイスケールな映像を作り出すことを可能にしている現代に、彼はなるたけスタントを使わず自らアクションシーンを撮影し、猛スピードでバイクを運転したり、実際にヘリコプターを操縦して上空何千メートルで敵と戦ったりする。
「映画?いや社会現象」
そんなトム・クルーズの新作『トップガン マーヴェリック』。
これがまた強烈である。トム・クルーズお馴染みの”リアルへのこだわり”が常識の域を超えている。
私はひょんなことから小石に蹴つまずいてしまったが、それをきっかけとして、この映画の中に落ちている大小さまざまな謎に関心を持つようになった。ならば、もちろん『トップガン マーヴェリック』はパッと見でも十分に心震わせてくれる素晴らしいエンタメ作品だが、映画をもっと楽しめる余白がどこかに身を潜めているのかもしれない…
そういうことなら!と、私は鑑賞中に気になったことや疑問に感じたことを基に、図書館で調べたり某航空博物館にメールで質問したりして、情報を集め始めた。すると戦闘機やGフォース、空母、トム・クルーズという男の半生、映画の制作背景についての知識が増えるにつれ、ますます映画それ自体が輝いて見えてくるようになる。
映画『トップガン マーヴェリック』の「おもしろい!」を解体する旅になるよう、私が調べた結果をこれからお話していこう。そして最後には、それら全てを踏まえ、私なりの『トップガン マーヴェリック論』も紹介させて欲しい。
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