#6 少年。
少年が12歳になった頃、父親は家族を捨てた。父の家系は代々優秀な人間が多く、父の弟も、祖父も、曽祖父も、皆法律家の道に進んだ。父自身は大学で工学を学び、就職した合衆国最大の電機メーカーでは将来を有望視されていた。しかしさらなる富と成功を追い求め独立。妻と4人の子どもたちを引き連れ各地を転々としたのち、とうとうひとり家を出て行った。
取り残された家族は何年も貧困に喘ぐはめになる。母親が複数の仕事を掛け持ちする一方、少年は毎日夜明けとともに起き、新聞配達のアルバイトに励んだ。少年は一家唯一の男として明るく振る舞ったが、父親の喪失は紛れもなくその心に影を落としていた。
16歳になった彼は高校でレスリングに打ち込む。決して豊かな才能があった訳ではないが、運よく試合に出れることに。しかし自分の体重が階級の範囲からオーバーしていることに気づき、減量のため激しいトレーニングに勤しむが、不幸にも自宅の階段で足を滑らせ膝の腱を痛めてしまい、試合どころか他のスポーツも出来なくなってしまう。
絶望のどん底にあった彼を救い出したのは、幼少期より母の影響で密かに思い描いていた、役者になるという夢だった。「なんとしても映画俳優になる」と決心し、演技の練習をこなしながらオーディションを受けては落とされる過酷な日々が始まる。が、その端正な顔立ち、生まれ持った芝居のセンス、成功への貪欲さから、デビューまでそう長くはかからなかった。彼はそこから次々に役を勝ち取っていき、デビュー3年目にして、とある作品で記録的な大ヒットを飛ばす。
しかし、名声を手にした彼は予期せぬ攻撃を浴びせられた。それは、大衆の排出する好奇心にこたえんとするマスコミの容赦ない取材や、貧しい辛かった青年時代についての詮索、私生活への侵入などである。そんな困惑する彼の元に、思いもよらない知らせが届く。
「父が見つかった。」
およそ10年ぶりにあった父は、すでに危篤状態だった。家族と別れた後、殆どホームレスのような状態であちこちを放浪した挙句、今やその身体は病に蝕まれていた。父に再会した喜び、もう一度絆を取り戻したいという健気な想い、見捨てられたことへの怒り、成功を叶えられなかった一人の男への哀れみ。さまざまに矛盾した感情が出口を失い窒息してしまいそうになる息子を見かねた父は、自分の過ちを認め、謝罪の意を表した。父が深い自責の念を抱いて生きてきたことを彼は理解した。父と子は涙を流し合った。
再会から少しして、父は息を引き取った。
彼は過去のいかなるスターも試みたことがないやり方で、厳重なマスコミ対策・取材規制の策をとるようになる。自分を語らない。沈黙こそが彼という役者をなによりも物語るようになっていく。そして父が亡くなった2年後、ある挑戦的な企画が彼の元へ飛び込んでくる。なんでも海軍全面協力のもと戦闘機パイロットを主人公にした映画を作るという。”マーヴェリック”は飛ぶことに危険なまでの情熱を捧げる勝ち気な男。だがその反面、父親を失ったという暗い過去も背負っている。自らとの共通点に惹かれ、『トム・クルーズ』はすぐさま彼を演じると決めた。
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