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2023年11月26日の乾杯

新しい乾杯。今年の秋は寒暖の波が激しく気がつけば朝晩に冷え込む毎日。一緒に観劇した吉例顔見世歌舞伎夜の部の話にはじまっておじさんが観た埼玉世界芸術祭での倉田翠『指揮者が出てきたら拍手をしてください』、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『松井周と私たち』などの作品について、いろいろにたくさんに駄弁も挟みつつ話します。

👨演劇のおじさんと
👩おねえさんです。
👨よろしくお願いいたします。
👩お願いします。
👨なんか急に寒くなりましたね。
👩そうですね。冷え込んでいますね。やっと冬かという感じはしますけれど。
👨やっと暦に季節が追いついて来た感じがしますよね。
👩そうですね。
👨そういえば、もう先々週になるけれど、私たち、歌舞伎を観にいきましてね。
👩はいはい。
👨そのころに比べてもだいぶ気候が変わりましたね。

歌舞伎座

👩『松浦の太鼓』。忠臣蔵の外伝のような話でしたけれど、よかったですねぇ。面白かった。
👨やっぱり、松嶋屋さんというか片岡仁左衛門丈がいらっしゃると舞台がひと味ちがいますものね。
👩仁左衛門さんはやっぱり観ていて楽しかったし面白かったし。生きている感じなぁという感じがした。当たり前と言えば当たり前なのだけれど、こう、生きている人の間というか奥行きがあって。
👨演じられていることは自体は昔からの戯作のままなのだろうけれど。
👩そうですね。
👨でも、おねえさんがおっしゃっていたとおりでそこに血が通うんだよね。なんだろ、お人柄というのか、赤穂浪士の討ち入りを待つお殿様の気持ちがもろに伝わってくるんだよね。
👩うんうん。
👨歌舞伎というのは、またには観にいくものですよ。
👩そうですね。おもしろかった。
👨二部制だと見応えも半端じゃないしね。最後の舞踏三題も見応えがあった。
👩はい。
👨もう既に来年2月の猿若祭二月大歌舞伎まで演目なんかも決まっているみたいで。十二月には坂東玉三郎演出、中村七之助ご出演での天守物語もあるし。2月は「新版歌祭文」でお染久松の物語がかかったり、「義経千本桜」のすし屋とか「連獅子」もみることが出来るみたいだし。もちろん全部を観にいけるほどおねえさんも私もお金持ちではないけれど、歌舞伎はちょっと無理をしても、叶う限りに観に行きたいですよね。
👩そうですねぇ。皆様にも是非に観ていただきたい。
👨はい。でもなんかねぇ、11月は世間も私も妙にバタバタしていて。一時期よりもコロナがおさまってきたじゃないですか。
👩でも、その代わりにインフルエンザが猛威をふるっているみたいで。
👨それはそうですね。まあ、私はきっと死ぬまで毎年コロナワクチンとインフルエンザの予防注射を打ち続けるのだろうなぁとは思うのですけれど。
👩でも、大事なことです。
👨知ってます?最近の病院での予防注射事情。
👩いや、それはどういうことですか?
👨あのさ、コロナワクチンを打ちにいくでしょ、そうするとインフルエンザの同時接種を強く、お勧めされるの。
👩あぁ、そうなんだ。
👨なんかさ、どういうプロモーションなのか知らないけれど、コロナワクチンと一緒にインフルエンザの予防接種を受けると割引があるんだよ。
👩えぇ、そんなことになっているんですか?それは年代に拘わらずですか?
👨うん、年代に拘わらず。同時に打てばそれぞれの年代で決まっている料金から500円引き。病院のけっこう目立つところにコロナワクチンとセットでインフルエンザワクチンを接種すると500円引きってけっこう目立つようにポップがはってあるの。
👩へぇ。
👨でさ、なんか病院もそれ用の準備をしていて。処置室にはいって椅子に座ると両腕めくってくださいって言われて、看護師さんが左右から注射針をプチプチって刺すの。
👩へぇ。でもそんなにボンボンって一度に打って良いの?
👨まあ、大丈夫なんでしょうね。左右別々だから関係ないでしょうみたいな感じでしたよ。
👩そうだけど。でも、やだなぁ。それはやだなぁ。痛いじゃないですか。
👨でもね、痛さがどっちから来たのかがよく分からないというメリットはあるのね。で、なにうよりも早い。私が行った日にもけっこう人がきていたけれど、順番の来るのが早いこと。サクサクと終わったし。
👩なるほど。
👨そうやってね、産業革命じゃないけれど病院でも様々な効率化というのは進んでいくのですよ。
👩うん。まあね。さてと話を戻して、私が最近観たのは歌舞伎くらいですけれど、おじさんは最近どんなものをご覧になったのですか?
👨なんかね、昔に戻ったというか、公演自体もすごく多くなっていて、けっこういろいろに観たのだけれど、その中でもとてもおもしろかたったのが・・、あの倉田翠さんって前に一緒に公演を見に行ったダンサーの方がいらっしゃるじゃないですか。
👩あぁ、いらっしゃいますねぇ。
👨彼女が『指揮者が出てきたら拍手をしてください』というタイトルで公演をされて。
👩『指揮者が出てきたら拍手をしてください』・・・。なんかワクワクするような。やっぱり指揮者が出てきたら拍手をするんですか?
👨まあ、それはあくまでもタイトルなんですけれどね。それはそれなんだけれど。まず会場がすごくて。昔のというか旧埼玉会館おおみやなのだけれど。まあ、いまは大宮のあたりにもいくつか綺麗なホールができいているけど、それらが出来る前の埼玉を代表する大ホールで、1970年代に出来たのかな。そこが11月末をもって閉館になるというので、その前にやりたい放題の大改造がされていて、そこがさいたま国際藝術祭の会場のひとつになっていたのね。

旧埼玉会館おおみや

👩ほうほう。
👨その大ホールにしても、もはや普通の状態ではなくて。上手側の一ブロックの座席を外されてそこに鉄柱が立ち、最後尾から舞台まで観覧デッキのようなものが作られているの。
👩へぇ
👨ホールの最後尾からはいるとステージの上手袖までホールを眺めながらいけるようにブリッチが繋がっていて。一応アクリル板でホールとは仕切られているのだけれど、たとえば開演前の準備風景なんかも見ることが出来るようになっていて。
👩それもワクワクしますね。
👨うん。あと、舞台の後ろまでアクリル板で仕切られた通路になっているし。だから開演前にそのあたりをお散歩すると演出と照明が打ち合わせをしていたり、出演者がストレッチをしていたり、スタッフが下手側の舞台袖で準備をしていたりするのも観ることができる。
👩そうなってくるとそれは準備じゃないよね。準備のようでもうそういう見世物だからそれは準備じゃないよ、やる側からすると。まあ観る側にとってはおもしろいのだろうけれど、やる側からするとそれはもう大変だろうなぁって。その見世物感も含めて大変だろうなぁって思ってしまう。
👨まあ、それはそうなのだけれどね。しかも上手袖から楽屋への通路も同じようにアクリル板ごしで隔てられていて、普通に通ることもできて。なにか楽しげな笑い声が聞こえてくるなぁとおもっていたら、アクリル板越しに見たその部屋の扉には「女子楽屋」って書いてあったりもして。
👩うふふふ。
👨もうああなってくるともはや劇場の魔改造だよね。
👩うふふ。
👨でね、公演の内容に戻ると、その出演者たちはみんなある時期にバレエをしていたひとたちなのよ。倉田さんが過去のバレエ経験者ということでオーディションをやったらしいのだけれど。
👩へぇ。
👨彼女たちが何故バレエをやめたのかとか、どんな感じで生きているのかとか、バレエに対して今どんな思いがあるかみたいなことを倉田さんが一つの舞台に仕上げていくのだけれど、やっぱりね、一度バレエに足を踏み入れたというかバレエの身体の使い方を鍛錬した人って体にバレエが残っているのですよ。バレエって普通子供のころからやっているでしょ、そうすると体にバレエが染みついているというか
👩一生ものだよね。
👨そう、一生ものなのだと思う。もちろん上手いとか下手とかいうのは確かにあるのよ。長くとか最近までやっていた人は当然に上手いし、かなり前にやめてしまった人はそういう人の拙さもあるのだけれど。でも全てを忘れているわけではない。親の反対とかいろんな事情もあって続けられなかったとかいろんな事情はあるのだろうけれど、そうであっても身体はバレエを憶えているの。そうやってダンサー達が自分のなかに取り込んだバレエがどうなっていくのか、またそれを抱えて生きていくことがどういうことなのかを観ていくのがすごくおもしろくて。
👩うんうん。
👨ベタな言い方になってしまうけれどそこに人生があったりするわけじゃない。
👩はい。
👨倉田さんって前にも丸ノ内のオフィス街で働く人達を切り取ってコラージュして作品にしたことがあるのよ。公募して、インタビューをして、あの街で働くことを描き出したことがあって。バレエにしても丸ノ内勤務にしても、彼女にはひとつの体験の括りのなかでそこに息づく人生を切り出して立体化させていく手腕があってね。特にバレエは彼女を括るトリガーでもあるのでますますおもしろかった。
👩あの、観たいところに手が届くじゃないけれど、そういうのってあるね。
👨たしかに。また今回舞台に溢れたのはそうして倉田さんを介さないとダンサーたちが自らが表現に引き出せないものでもあるような気がするのね。それを上手く引き出してもいるのだけれど。その上で最後にそれぞれがくるみ割り人形を乱舞のように踊る姿は感動的でもあった。彼女もまだ三十代だし、この先もまたいろんなものを見せてくださるのだろうなぁとも思うし。
👩まだまだワクワクがいっぱいなんだ。
👨ほんと、いろんなものを探し出してくるのが上手いなぁとも思うし。
👩それだけいろいろにアンテナをはっているのでしょうね。
👨うん、ビンビンにはっているのだろうと思う。しかもなにかがそれに触れるとしっかりと掴まえる力もそれを形にする力も備わっているし。なによりも人間に興味があるというのもあるのも大事な要素なのだろうしね。
👩そうですね。
👨えーと、あと観たものとしては、そうそう前回もお話をしていた4時間30分演劇も観てきましたよ、ムニの『ことばにない 後編』。

こまばアゴラ劇場

👩あぁ、お疲れ様です。
👨はい。それが歌舞伎の次の日でね。
👩いやぁ、大変。
👨歌舞伎って4時間半だったじゃないですか。
👩うん。
👨次の日も4時間半だった。。
👩うわぁ、流石に無理ですね、今の私には。嫌いになってしまうかもしれない、うふふふ。
👨なにが?演劇が?
👩いや、演劇を嫌いになることはないんだけれどね。でも、ちょっと暫くいいかもって思っちゃうかも知れないね。体力が落ちているから。
👨まあ、体力はねぇ。
👩でも、見始めたらそんなことはないのよね、きっと。
👨うん。
👩ただ、私は腰が痛くなるんだよなあ。休憩時間を入れて欲しい。しっかりと。
👨まあ、ムニの公演にも歌舞伎ほどではないけれどちゃんと休憩時間はとられていてね。1時間強の上演の合間に10分間ずつはとってもらっているし。
👩でも10分かぁ。短いなぁ。歌舞伎は演目の合間に30分とか20分とか休憩があるから。
👨この間も35分と20分の休憩があったけれどね。ご飯も食べなければいけないし。その点ムニはたしかにぎゅっと詰まってはいるのだけれど。
👩まあまあ、2時間くらいを休憩なしで見るのは普通ではあるからね。
👨そう。休憩無しでもっと尺のながい作品もけっこうあるし。
👩でもたとえば2時間近く観たあとに、さらに2時間を観るのはけっこう。まあ小劇場ではなく、大きな劇場での公演ではそこそこ休憩をいれているなぁ。まあ、とはいえなぁ。
👨いや、大きな劇場で尺が長いとけっこう20分とか25分とか休憩を入れているよ。
👩やっぱり欲しくなってしまうんだよなぁ。体力的なこともあるから、こちらの問題だからね。それをどうこうして欲しいとは全然思わないのだけれど。でも、全部を集中して観るために20分くらい、せめて15分は欲しいなぁって思うけれど。
👨でもね、とある大きな劇場での公演をするところの制作の方に伺ったことがあるのだけれど、あれは観客をどれだけ休憩させるかというよりは、観客の皆様のトイレ事情なんだって。
👩うん、そうだよ。そうですよ。
👨特に大きな劇場の女性の観客が多い演目では、尾籠な話で申し訳ないのだけれど、全員にすっきりとしてもらって席にお戻しするというのはもはや神業なんだって。
👩うん、まあまあ。確かに難しいよ。
👨男はねぇ、まあ、回転も速いし。
👩いやいや、その辺りは詳しく話さなくてもいいよ。わかるよ、それは。まあ、お手洗いの場所とかもあるから、数とかもあるから。歌舞伎座とかって数がとんでもなくあるからね、一ヵ所だけではないし。それはまあ、しょうがないことではあるけれど。
👨それと、大劇場に足を運ばれる方ってご高齢のかたもいらっしゃるから。
👩まあ、それはそれでどうでもいいけれど。で、作品としてのムニはどうだったのですか?
👨あはは、ごめんごめん。話を戻すね。そうはいっても、何人かいる登場人物を作・演の宮崎伶奈さんが、ひといろに括ることなく、それぞれにとても丁寧に描いているのね。なんというか、ひとりずつの事情があって、その顛末を端折ることなくそれぞれに個性を丸めることなく描き出していく律儀さがあって。同じ語り口で描くのではなくてそれぞれにあった紡ぎ方で重ねていくから、観ていてまったく飽きないし、煮詰まることも冗長に感じることもない。ずっとひとりずつに興味や関心をもって観ていくことができるから観ていても時間という負荷がないのね。それは前編を見たときにも気がついていたことだけれど、一年経って彼女は更に腕を上げた感じもあって、ひとつずつの描き方と他の紡ぎ方、それらを包括してどのように舞台を持って行くかとか、いろんなことが一層研がれたようにも感じた。そうして2年ごしで8時間を観たという疲労感はとても良い意味でもあまりなくて、ただ後付けでの達成感は若干あるのだけれど。うん、少なくとも疲労感は全くなかったのね。劇場を出て暫くするまでは。
👩それは凄いなぁ。凄いし良い体験というか面白かったのだろうなぁって。そういうのってありますものね。集中できたりというか。
👨そうそう。
👩作品と良い関係での観劇をすると長く感じないというか。まあ、逆もありますけれど。長く感じるとか短く感じるとか体感が変わるというか。
👨長いと言うことが事前にわかっていても、あとどのくらいとかいうことは殆ど考えないで観ていたものね。ずっと目の前にあるものを追いかけているうちに、休憩が入ってまた休憩が入って終わったねみたいな感じだったのよ。
👩うん。
👨別に宮崎伶奈さんに長いものばかりを作れと言っているわけではないけれど、また彼女が新たなテーマをみつけて、それがいろんなことを書かなければ表現し得ないものであったとしても、彼女は書ける気がするし観客はそれを観ることが出来る気がするものね。まあ、やってる方にとっては死ぬほど大変なことなのかもしれないけれど。
👩うふふ。
👨書き終わって暫く死んでいるかもしれないけれど。でも、少なくとも観ている方はちゃんと受け取ることができているよって伝えてあげたい。そういう感じだった。
👩うん。
👨まあ、椅子にはクッションもちゃんとついていたりもしたし。全席クッション込みだったしね。4時間越えで大変だなっていろいろと観る側への配慮がされていたような気がするし。
👩観る方もやる方も大変だった思う。
👨アゴラといえばあともうひとつ、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクが、あの、松井周さんっていらっしゃるじゃないですか、彼と『松井周と私たち』という公演をしたのね。

駒場アゴラ劇場

👩はい。
👨原案としてジェローム・ベル『ピチェ・クランチェンと私』というのがクレジットされていて、それはジェローム・ベルさんがタイの舞踏家であるビチェ・クランチェンさんと芸術的実践について互いに問いかけあい検証をするという舞台だったらしいのだけれど、それを踏襲して、演劇の作り方について互いにインタビューをしあうというものだったのよ。ほんと素舞台に椅子が3つ置かれていて、そこに普通に座って話をするという感じで始まって。まずは松井周さんがインタビューを受ける側で、名前を訊かれるところから始まって、たとえば演劇を始めたきっかけはとか、どういうものを作ってきたのかとか、どういうものを作りたいのかとか、いろいろに訊ねられていくのよ。松井周さんの作る演劇って、私から見るとどこか突き抜けている部分があって、それは凄い褒め言葉なのだけれど、どこか気色の悪い部分というかそのままには呑み込みにくいところもあるのね。なんだろ、上手く言えないのだけれど、私にとってこう生理的に負荷のかかるけど逃げられないようなものを登場させたり表現したりとか割とするんですよ。それが元々どういうことがあってどういう風に表現したことなのかというのを前半に松井さんがけっこう話してくださって面白かった。それは原案となった作品を踏襲したやり方にも思えたし。
👩なるほど
👨後半は松井さんがスペースノットブランクのふたりに作り方を問うのね。で、どのように作品をつくっているのですかという問いに対して彼らがいうのは、まあ色んなことをおっしゃっていたのだけれど、特に印象に残ったことのひとつは思いつき話したことを全て記録するということ。そうやって記録したものをそのままに再現していくというメソッドを持っていてそれで演劇を作っていくという説明をされて。実際に以前STスポットで彼らの『本人たち』という公演をみたことがあるのだけれど、そう言われるとなるほどと腑に落ちたりもして。
👩はい。
👨動きにしても、まず観たり心に浮かんだものをずっと見てそれをとって動きにして、またその動きを次の人がよく見て「とる」んだって。で次の人がその動きを見ていて更に
「とる」、でまた次のという具合にとって繋げていって、そうやってできあがって一連の出来るということやっているのですよとおっしゃって。
👩へぇ。
👨そこから実際にやってみましょうかみたいな話になって、松井さんが加わって、三人で順番で「とる」ことをしていくということになって。で、実際にそれをやっていくなかで、私に浮かんだ疑問があって、最初には従前に小野さんが取った動きが提示され、それを松井さんがとり中澤さんがとっていったのだけれど、では小野さんが取ったものの原点はなにかというと提示されなかったのね。
👩うん。
👨ただ、それがわからなくても、その動きの繋がりが提示されたときに、観客はなにも感じないわけではなくて、それどころか間違いなくなにかを感じてしまったりもしているわけで。あともうひとつ浮かんだのだけれど、普通というとちょっと違うのかもしれないけれど、私たちが一般に慣れ親しんでいる演劇では、作家がそれを自らの中でしているのだろうなって。
👩そうですね。
👨うん。さっきの言い方であればとって作品を作っていくということなのだけれど。普段私たちに供される演劇では、それを単純に別の人がとって繋いでいくということではなくて多かれ少なかれ劇作家や演出家の中で処理してしまっている部分もあるじゃない。組み、繋いで生まれるものがあるじゃない。
👩あぁ、あるかな。
👨作り手は何かを見て、それをとって、俳優達に渡して、俳優達はそこからとったものを身体に落とすわけじゃない。
👩あぁ、まあまあそうですね。
👨その彼がとった世界を彼が繋いで舞台に具現化して行くのだと思うのね。それに対してスペースノットブランクは出演者が互いにとって繋いでいくところがとてもおもしろくて。そこには一期一会の斬新さも感じるのだけれど、そうやって観察して「とる」とうことはその場のことじゃない。でも、そうしてとっていくことを含めて、今回、この舞台は5回公演なのね。ということは、松井周さんの話も含めて互いにインタビューをして互いのメソッドを確認しあうその姿が、一つの演劇作品として演じられているわけ。
👩ああ、なるほどね。
👨彼らが言うこうやって演劇を作るのですよという姿が、実際に作られた演劇のコンテンツとし表現されているわけ。それって、入れ子っていうとちょっと違うのかなぁ、なんか表が裏になり裏が表になっているような話を見せられたような気もしてね。それがこの舞台の演劇としてのからくりになっているようにも思えて。「とる」ということも、さっき言ったように演劇を作る人は多かれ少なかれやっていることだとは思うのだけれど、その繋ぐ姿を繋いでそれを具体化して作品にするというのは凄いなぁとおもって観ていたのだけれど。
👩うん。
👨松井周さんとスペースノットブランクの二人って20才くらい違うみたいなのだけれど。松井周さんが51才でふたりは31才って言っていたから。でもそういう中でも、スペースノットブランクのふたりの意図を知って、賛同して、ひとつのものを作っていく松井さんの感覚というかセンスにも凄みがあって感動しましたけれどね。まあアゴラというのは刺激的なことが起きやすい劇場だし。
👩ふふ。
👨あのさ、今はとある劇団の主宰をされている方がいらっしゃって。。
👩はいはい。
👨昔々というかまだ私がアゴラでお芝居を観始めてそんなにたっていない時だったのだけれど、彼がやっぱり演劇とはどういうものかというのを演じたことがあって、そこには演者をそこから動けない状態に追いこむような演劇の規律の表現が仕掛けられていて、実際に彼が舞台上で固まったということがあったのよ。
👩はい。
👨で、そこからなにが起こったかというと、固まった俳優とそれをいつまで観ていられるかの観客の根比べになってね。
👩はぁ。
👨最初は客席もどうしてよいか分からなかったのだけれど。そのうち拍手をして帰るひとがいたり、席を中央に移してずっと見つめている人がいたりしてね。
👩あはは。
👨まあ、それが紛うことない演劇の表現であることは、当時演劇を観だしてからそんなに時が経っていない私でもわかったから。というか演劇というのは観客と演者が共にあって成り立つものだということが分かりだしてきた頃だっだから。これは終電が駄目だったらタクシーで帰ろうと思ってそっと財布の中味を確認したりもしてね。
👩いやぁ、そういうときには最後まで見たいものね。
👨そうそう。そういう演劇の煮詰められた場にいるときの高揚感って間違いなくあるのですよ。
👩うん。あるある。
👨なんか、そのうちにスタッフの人が客席の掃除を始めてね。座っていない椅子をかたづけたりとかもして。で、それとなく促したりもしてね。そうして少しずつ人が客席から去っていって、私もそろそろ潮時かなぁとおもって、あと俳優の方の体力も気になって、その俳優の方に向かって感謝の気持ちの念を送って劇場から出たのだけれど。演劇というもは普通に観ればそれはもう楽しいのだけれど、それだけではなくて演劇の仕組みをつかっていろんなことを、たとえば芸術とはなんなのかとかを考えさせる一面もあるじゃない。
👩うん、ありますね。
👨今回のスペースノットブランクについても、そういう意味では「表現ってなんだろ」ということをすごく思ったのね。それは表現の手法でも演劇にできるということでもあったし、あとさっき言ったように一番最初にあるものがなにか分からなくてもなにかを感じられるということにも気がついたし。なんというかある意味チャレンジングな、中世だったら一般大衆に異端と石を投げられるかもしれないような、
👩そんなことはないでしょ、なんという言い方をするの。
👨物語ることで成り立つだけの演劇を求めている方にはなかなか受け入れられないというか。
👩ああ、それはそうかもね。それは悪いことではないけれど。
👨まあ、そういう演目ではありましたけれどね。でもまあ、そういうことを体験するたびに、演劇というのは一度その沼に入ったらいろんな意味で抜けられなくなっていくものだろうなぁととも思ったけれどね。
👩濃密な演劇体験をしたというか良き演劇経験をしたということですね。
👨はい。それはもう。いうても11月といえば芸術の秋のど真ん中ですから。ただ、私的には11月より12月の方がよりスケジュールが混み合っていてね。
👩そうなんだ。
👨ちなみに例によっておすすめの話をすると、まずは横浜のSTスポットで『コーラル&ストロベリー』というショーケース公演があって。12月12日と13日。STスポットが35周年(さんご=コーラル)、急な坂スタジオが15周年(いちご=ストロベリー)ということらしいのだけれど、6団体の参加があっていずれもみたいところばかりで。モモンガ・コンプレックスなどもご出演で、暫く拝見していないので是非にみたい。
👩はいはい。
👨まあ、これがアップされるころにはチケットもソールドアウトしてしまっているかとはおもうのだけれど。それとね、こふく劇場という団体があるのですよ。そこは観ていて心の芯があたたまるような演劇を作られるところで。
👩へぇ、初めて聞くなぁ。いつですか?
👨キラリ☆ふじみのマルチホールで12月9日と10日ですね。でも12月はそれ以外にもお芝居が死ぬほどあります。
👩ふふ。
👨師走はね、そりゃ先生も走るだろうけれど、観客だって走るのですよ。
👩演劇人も走るということですね。12月は確かに多い。多いから自分が出ていたりすると他を観にいけないということもよくあった。忙しいって。
👨あぁ、それはそうだよね。俳優が忙しいときには観客などにはなり得ないものね。
👩そうそう、なり得ない。
👨そうかぁ。
👩12月はいつも忙しいというイメージがありますね。
👨いやぁ、稼ぎ時ですなぁみたいな。
👩そうそう。
👨でももう12月かぁ。はやいなぁ。
👩早いですねぇ。
👨あっという間の1年だったなぁ。
👩そうですね。
👨もう来年の3月まで観劇の予約を入れてはいるけれど。
👩早いな、というkそれは凄いなぁ。でもそうか、舞台って予約が早いからね。
👨しかも、公演が多くなってきたので観客のスケジュールも詰まってきていて、そうなると作り手の方もたくさん観る奴のスケジュールは早めに押えておけみたいなご案内の掛け方にもなってきていて。
👩あはは、取り合いですね。
👨取り合いというか青田刈りだよね。しかも私の場合青田のような美しさはとうに失せているから枯れ草刈りだよね。
👩そんなことはないよ。
👨お気遣いをいただきありがとうございます。まあ、お心遣いをいただいたところで、今日はこんなところですかね。
👩そうですね。
👨では、そろそろ終わりにしましょう。それでは、演劇のおじさんと
👩おねえさんでした。
👨みなさんお風邪など召しませぬように。

歌舞伎座

(ご参考)

・吉例顔見世大歌舞伎
2023年11月2日~25日@歌舞伎座
一、松浦の太鼓
両国橋の場、松浦邸の場、同玄関先の場
仁左衛門、松緑、猿弥
隼人、鷹之資、吉之丞
橘太郎、松之助、米吉
歌六
二、鎌倉三代記
絹川村閑居の場
時蔵、梅枝、高麗蔵
歌女之丞、梅花、松江
東蔵、芝翫
三、顔見世季花姿繪
〈春調娘七種〉
種之助、左近、染五郎

・さいたま国際芸術祭2023
・倉田翠「指揮者が出てきたら拍手をしてください」
2023年11月11日~12日@旧さいたま市民会館おおみや
演出:倉田翠
出演:大村早紀、大森彩子、岡部那里恵、
甲斐ひろな、加賀田栞、河野桃子、
里見真梨乃、下岡そら、鈴木絵美里、
長澤佑美、西久保成子、平石祥子、
福元かおり、三木万侑加、宮澤光太朗、
宮本順子、吉田幸恵、渡部桜子、
倉田翠、ハラサオリ

ムニ『ことばにない 後編』
2023年11月9日~19日@こまばアゴラ劇場
作・演出:宮崎玲奈
出演: 石川朝日、浦田かもめ、黒澤多生(青年団)、
田島冴香(FUKAIPRODUCE羽衣)、豊島晴香、
南風盛もえ(青年団)、藤家矢麻刀、古川路(TeXi’s)、
巻島みのり、ワタナベミノリ、和田華子(青年団)

・小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
『松井周と私たち』
2023年11月23日~27日@こまばアゴラ劇場
演出・出演:小野彩加、中澤陽、松井周

(今後のおすすめ)
・コーラル&ストロベリー
2023年12月12日~13日@STスポット
―岩渕貞太 関かおり
作・演出・振付・出演:岩渕貞太 関かおり
―中野成樹+フランケンズ
『魚屋ハムレット(from『EP2』)』
原作:シェイクスピア『ハムレット』2幕2場より
誤意訳・演出:中野成樹
出演:福田毅、竹田英司、野島真理、石橋志保、
佐々木愛
―譜面絵画
『ホームライナー新津々浦1号』
脚本・演出:三橋亮太
出演:小見朋生、宮ヶ原萌
―マームとジプシー(映像上映)
映像作品「apart Marine Life/Dinosaur」
作・演出:藤田 貴大
声の出演:青柳いづみ
―モモンガ・コンプレックス
『ご多分にもれず、モモンガ・コンプレックス。』(仮)
構成・演出・振付:白神ももこ
出演:臼井梨恵、仁科 幸、白神ももこ
―涌田悠『ヤッホー、跳べば着く星』(short ver.)
/ヤッホーのホーが銀河に突き刺さる路地より遠い跳べば着く星
企画・作・演出・出演:涌田悠
共同クリエイション・共同演出・出演:
石原朋香(俳優)、田上碧(ヴォーカリスト)

・こふく劇場『ロマンス』
2023年12月9日~10日
@富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
脚本・演出:永山智行
出演:かみもと千春、濵沙杲宏、有村香澄、
池田孝彰、大西玲子(青☆組)

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