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映画ゲゲゲの鬼太郎が凄く良かった(ネタバレあり)

ゲゲゲ6期1話と、鬼太郎の誕生という漫画だけ読んで、ほぼゲゲゲ初見で見にいった。
全体の感想としては、90分という短い時間でキャラクターの魅力が凄く伝わる良くできたストーリーで面白かった。

私は公開2日目に行ったので、事前にTwitterの評判など見なかったが、見ずに行った方がいいと思う。

時代背景とストーリーの好きな点

•因習村ミステリー
龍賀家の関係性がいい。少人数の登場人物で、各人そこまで出番があるわけではないが、少しの描写で関係性がよくわかるストーリー展開だった。都会から隔離された閉塞感と近親相姦という村の嫌さが詰まっている。

その閉じた村で次々人が死んでいくが、それが純粋に怪異なのか、怪異を操る人間の仕業なのかは分からないという作りも好きだ。

•犯人の意外性
全員が等しく裏で何かしていそうな描写があり、私は沙代が犯人だと全然気が付いてなかったので、地下のシーンはびっくりした。
大人しい女の子の豹変と、「全員死ね!」という叫びと共に狂骨で龍賀の黒幕たちを襲いまくるところはとても好き。

•昭和の時代感
戦後昭和という設定がとても良かった。敗戦後、急速に発展をする日本で、多少の倫理観は置き去りにしながら企業戦士たちが日本を世界に近づけて豊かな未来を作ろうと必死な時代だ。
当時のサラリーマンの中に、水木のような徴兵の生き残りがいて、戦争のトラウマを抱えながらも切り替えて普通の生活に戻らざるを得ない。

地下のシーンで沙代が死んだあとの水木が、悲しみとやるせなさで叫ぶがすぐ気持ちを飲み込み、次に切り替えるのは戦士の名残だと思った。水木の食事の取り方が早くて雑なのも好き。

また、昭和という時代感として、村について当然のようにタバコをポイ捨てするところも、細かいが今と違う価値観だなと思う。

•血液の使い道
血液をサラリーマンに輸血すると、不眠不休で働けるようになり、日本の発展につながるという目的が斬新だった。
やばい神様や妖怪で悪いことをするとか、世界を壊すとか、そういう話ではなく、戦後の高度成長期を思わせる妙に生々しい目的が良い。
時貞のやり方は心底胸糞悪いが、目指す日本の姿は当時の人々と同じなのがタチが悪い存在だ。

•水木の変化
水木も時弥くんに東京タワーの話をしたり、日本はこれから大きくなると夢を語っていたが、実は時貞と同じことを言っている。
村に来た時点の水木は時貞側の人間なのだが、最後にその水木が時貞の陰謀を滅ぼすのは、自分を変えられたという意味かもしれない。

•エンディング
原作漫画の一話を読んでいってよかった。記憶を失っても心が覚えていたのか、水木が鬼太郎を抱きしめるシーンで泣いた。
ゲゲ郎の美しいビジュアルがどうやって原作のあの姿に繋がるのかと思っていたが、そういう事だったのかと。

•ご都合なハッピーエンドではない
ここは人によって好みが分かれるが、ご都合なハッピーエンドではないのが良い。弱者は弱者ゆえに虐げられるというテーマに対して、水木とゲゲ郎は時貞を打ち倒す一方、龍賀家の人々は誰も救われないし、村人も全員死ぬ。
水木も会社員としての目的は失敗しており、あの後の人生が救われたのかは分からない。
特に沙代と時弥は最後まで可哀想なままだった。時弥は最後肉体を取り戻すと思っていたから、狂骨に喰われたのは流石に驚いた。

ご都合主義な展開を挟んで大団円にすることが出来ただろうが、手放しに良い結末じゃないのも好きだ。
作家の新川先生がnote講演会で「ハッピーエンド以外の物語を作る方が大変」と言っていたが、納得感のあるビターな終わり方にしていたのは、製作陣のこだわりを感じた。

キャラクターの良さ

•水木のキャラ
公式としても力を入れているキャラクターなのが伝わる、本当に素晴らしいキャラ造形だと感じた。
戦争の生き残りで深く心身に傷を負ったという設定が、作中何度も描写される。
戦場の体験は、この先彼の人生で元に戻らないほど彼の価値観を上書きしてしまっているのに、普通の会社員として社会に馴染むことを強いられているのが良くわかる。
貪欲に求めなければ弱者は虐げられる、という思想はこの作品のテーマだった気がする。

•水木の優しさとドライさ
映画を見て、水木を優しいと感じただろうか。

水木はどんな手段を使っても成り上がるという野心家だが、おそらく根っこは優しい人に思える。冒頭の電車シーンは車内で唯一咳き込む少女を気にかけていたし、ゲゲ郎を見捨てきれないのも性格が出ている。

ゲゲ郎と出会いながら彼自身も人のために何かを出来る男として変わっていくのだが、手放しに優しいわけではないのが魅力的だった。
作中通して、沙代に対して非常に薄情だ。沙代の水木に縋る想いは本物だったが、本気で向き合う素振りもなく表面で適当にあしらっていた。ゲゲ郎に見抜かれ、注意されていたが、誰かの愛し方が分からないという発言をしてたように思える。
実際、彼女の過去を知り同情と哀れみを覚えていたが、好きになってあげる事は出来ない、という態度が一貫していたのがリアルだ。

ゲゲ郎の目的は、武力(斧や銃)でサポート出来るので積極的だが、彼女に対しては出来る事はないと諦めている様子なのが対照的と思う。

•ゲゲ郎
映画視聴後、目玉親父を見ると込み上げるものがある。水木がやや人間臭く最初は薄情さも持ち得ているのに対し、ゲゲ郎は不気味な雰囲気を持ちながらも妻と子と、友を愛する聖人と描かれているのが良い。
人間に対しては、妻が好きだから好きという距離感もいい。

困惑ポイント

全体を通して面白かったが、90分という尺の都合で唐突な展開も勿論ある。作品の面白さを損ねるようなものではないが、気になる人もいるかもしれない。私はこれも含めて良かったと思う。

•陰陽師たち
幻治(糸目の石田彰という名称の方が有名になって、名前で呼ばれてなくて悲しい)の陰陽師展開がまさにそれで、屋上で正体を明かして襲われるところは流石に「?!」となる。
幻治は裏切りそうではあったが、急に知らん手下を連れて呪術バトルが始まるのがちょっと面白い。とはいえ、あのバトルシーン最高だった。ゲゲ郎がとてもかっこいいのと、人間の水木が手も足も出ず、ただゲゲ郎がやられるのを見るしかない無力感が良い。
その後、水木がゲゲ郎を助け出せるシーンの爽快感を増してくれる。

それはそれとして、やっぱり幻治は好き。妻も子供もいるのに匂わされる奥様との関係性。

•時貞退場のあっけなさ
あれだけ、胸糞悪いが倒せないラスボス感を演出しておきながら、瀕死の水木にあっさり近づかれ、特に逃げることもなく狂骨のツボ?を壊されるのは呆気なさもある。ほぼ無抵抗で水木に破壊されるので「さっきまでのイキリは?!」となる。

後半、尺都合もあり時貞はちょっと舐めプしすぎだ。木を破壊しようとする二人をしばらく放置したり、わざわざ妻とゲゲ郎を会わせたり、油断して負ける敵のムーブすぎる。自分の死を察して事前に時弥の体を乗っ取る準備までしていた男とは思えない。
視聴者のヘイトを集めるという観点では、あの舐めプは非常にムカつくので、演出として正解かもしれない。

•妖怪があまり出ない
ゲゲゲの鬼太郎映画のはずが、結構人間側の展開が多いので実は妖怪があまり出てない。なも知らないバケモノ的な存在はちょっと描写されるが、主にはゲゲ郎とネズミ小僧と狂骨だ。
ゲゲ郎もネズミ小僧も人間に近いビジュアルなので、妖怪がもうちょっと見たかった!

冒頭にも書いた通り全体としてとても満足した!原作を読みたくなった。(原作を知りたくなる映画はいい映画)

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