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裁判の判決ばっか集めちゃいました(7月版) 傍聴小景 #33

刑事裁判の進行には大きく分けて以下の3種類あります。

新件→一回目の裁判。事件内容などが分かる。
審理→前の回で終わらなかった裁判の続きの実施。
判決→その名の通り、判決を宣告する回。

つまりは、裁判の途中の様子は全然わからないけど、「判決」の部分だけ傍聴するのことができるのです。多くの裁判が判決だけなら5分~10分程度で終了します。
そこだけ見ても…とお思いかもしれませんが、どうしてその判決を下すにいたったかの理由を説明するに際し、事件の内容はおおまかに説明するので(裁判官によっては割愛しますが)、短期間で事件内容に多く触れるという意味では結構勉強になるのです。

という訳で、「なんで?」という疑問は残るものもありますが、判決のみ裁判特集です。
先月の判決は特集はこちらから

No.9 プリプリする女

罪名 :窃盗
被告人:40代の女性

被告人は、黄色い看板の古書店で漫画コミック30冊自身のカバンに入れて店外に持ち運んだ疑い。棚から商品がごっそり抜けており、防犯カメラを確認したら、その犯行の様子が映されていたとのこと。最初はもう少しいこうとしていたものの、入りきらず戻したことも判明しています。

個人的には意外だと思っているのですが、古書店での万引き事案ってちょこちょこあるんですよね。どうして新刊書店でないのか、謎でしかないのですが。
被告人は窃盗での前科が2犯あり、初犯は執行猶予判決、2回目は実刑で執行猶予の取り消し、今回はその出所から2年ほどの犯行とのことでした。犯行動機は、商品が欲しかったからという、もはや清々しいまでの自分勝手な理由です。

判決
主文 懲役一年六月

誰がどう判断しても実刑やむなしな案件なのですが、判決が下された瞬間、被告人はその場で「え~、うそ~」と納得ができなかったご様子。被告人の頭の中ではどうなるつもりだったのか、全くもって謎です。
判決が下されたあとに、いろんなリアクションをする被告人はいますが、この「え~、うそ~」は初めての反応。正直ツボってしまいました。本人はそれどころじゃないでしょうが。納得いかないのか、プリプリしながら法廷を出ていってしまいました。

とりあえず刑の重さについて、なにかワンチャン狙うくらいだったら、そもそも罪を犯さないことに全力を注いでほしいと、あまりにも普通な感想を抱いてしまいます。

No.10 バーサーカーになった男

罪名 :道路交通法違反
被告人:50代の男性

被告人は制限速度80kmの道路上において、126km/hで走っていた疑い。
弁護側は、途中のパーキングエリアでトラブルを起こした結果により、後続車から車間距離を詰められパッシングされるなど煽られたためであり、同乗者の危険も考えられる事態であったことから、緊急避難が成立すると主張していたようです。

ちなみにこの公判自体は、たまたま入った普段と違う小さな裁判所での話。開廷がされない日も多い裁判所なので傍聴人も普段はあまりいないのでしょう、裁判官が入廷するなり、すごく私の方をジロジロ見られた気がします。
そして、弁護側が無罪主張している通り、結構揉めた公判を重ねてピリピリしていたのでしょうか、保釈され一人でトコトコ来た被告人も入廷するなり私のことをジロジロ見てきました。
私は、こういう視線を感じるのは慣れていますが、傍聴が初めての人にとってはちょっと嫌かもしれませんね。特に裁判官の方に見られると、「ここ座ってちゃいけないのかな?」と誤解してしまいそうですし。

さて、判決です。

判決
罰金十万円 完納できない場合、1日5千円として労役場に留置する

弁護側の主張は認められず有罪となってしまいました。
主張が認められない理由として以下の通り告げました。

・道路上の防犯カメラ等で被告人が主張するような車両が見当たらない
・被告人の証言について曖昧な点が見受けられた

仮にそのような車がいたとして(同乗者である証人と被告人が概ね証言が一致していたことから)
・速度超過したと思われる区間には非常緊急帯が9ヶ所ほどあったので、そこで追い抜かせるべき
・同乗者から携帯電話で通報や、料金所に助けを求めるべき

上記を踏まえ、緊急避難行為はほかに方法がない場合に認められるという最高裁判決がある

こういった説明がなされました。
判決しか聞いていないので、これだけではなんともと思っていたのですが、ここで被告人は「納得できませんわ!」と大声で異議の申し立て。

こっちは相手の服装や特徴、何を言われたかまで証言して、証人も似たようなこと言っているのに、それを認めないって言うんですか!
そんなエラいスピードで車間距離詰められ走られている状況で、どこかに連絡したところで何か対応してもらえるんですか!

被告人の怒り

メチャクチャ怒っています。
こんなときでも顔色変えずに被告人をなだめたり、進行をしようとしている裁判官は、場慣れしていると捉えるべきか、慣れ過ぎてネジが吹っ飛んでしまったと捉えるべきなのか。

判決宣告の最後のお決まりの言葉を言います。

裁「この判決は有罪の判決ですので、
  不服がある場合は控訴することができます。
  その場合は、」
被「そんなん控訴ですわ!今、ここで控訴ですわ!

裁「ここではできないから、ちゃんと聞いてくださいね」
被「そんなん聞くまでもありません!今、控訴しますわ」

裁「だから、ここではできませんから。
  明日から数えて14日以内に大阪高等裁判所宛の
  控訴申立書をこの裁判所に送ってください。
  弁護人とよく相談して決めてください」
被「相談なんていりません!今すぐ、控訴します!」

裁「それでは、判決の宣告を終わります」

専用の扉からスタスタと帰っていく裁判官。
僕もとっとと帰ればよかったのですが、メモすることが多過ぎて、ちょっとそのまま居座ってメモの補完をすることに。その間に、被告人は弁護人に連れられて法廷の外に出ていきました。

すごいものを見たなと思っていたら、廊下に出た被告人の声が法廷の中まで。外でも怒り狂っています。
こりゃ大変だと思っていたのですが、裁判所の職員の方が、もうこの日の裁判が終わったので、法廷を閉めるから出てってくれと言い出す始末。出た、公務員クオリティ!
そりゃ関係ない僕に危害を加えることはないでしょうが、外にはバーサーカーがいるんですよ。その一方で、僕とは違って起訴することで恨みを買ってるかもしれない検察官はというと、自席でピクリとも動かず行儀よく座っています。さすが検察官は姿勢がピシッとしてる。
そんな検察官も職員さんから出ていくように促され、私と検察官でドアの譲り合いなどしながら、被告人に見つからないように、そそくさと法廷を出ていったのでした。

もし控訴していたら、どんな結末になるか傍聴したかったんですが、残念ながら追うことはできませんでした。
もし被告人が僕の顔を覚えていたらの話ですが、地方の小さい裁判所の傍聴人が、大阪の高裁まで追いかけてきたら、それはそれで恐怖だったかもしれませんね。

No.11 病院に行きたい男

罪名 :暴力行為等処罰に関する法律違反
被告人:50代の男性

暴力的な行為に関する罪名っていくつかあって、その違いが分からないでいます。しっかり調べたらわかるのでしょうが。
傷害暴行、そして今回の暴力行為等処罰に関する法律違反と。

今回の罪状は、手に持った包丁を相手の顔面に向けながら「刺すぞ」と脅した行為とされています。うーん、今回の罪状だけ聞くと、脅迫罪との区別もつかないなぁ。公判を一から傍聴していれば、具体的な理由もわかるのでしょうが。

判決
主文 懲役十月、未決勾留日数中100日を参入、執行猶予三年

どうやら被告人は精神系の病院に入退院を繰り返している人とのこと。
今回、アルコールがかなり入った状態で、「俺はこれで、また措置入院すんねん」と言うなど、普段の生活に悩みを抱えており、病院へ連れて行かれることを目的とした犯行だった様子。
傷つけることが目的ではなかったものの、善悪を判断できる上での犯行なので、通院の実績などを踏まえ執行猶予などがついたそうです。

凶悪な連続殺人のニュースが流れたりすると、結構な割合で責任能力がどうのこうのという話になり議論になったりします。
当然、この精神鑑定というのは大きな事件だけの話ではありません。言い方よくないですが、被害がホント数千円とかの事件でも、そのような訴えがある場合、診断書のチェックや医師の尋問などが行われて審議されます。

今回は僕も判決を傍聴しただけなので、実際どれほど審議された結果かはわかりませんが、ニュースで一言で済まされる内容であっても、当然のことながら多くの人が頭を悩ませて行って成り立っている事象であることを知ってもらいたいなと思ったりもするのです。


今回の判決特集は動画にもしています。是非、こちらもご覧ください。


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