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被害者は片目を失明。それでも被告人を深く思う理由とは? 傍聴小景 #99(傷害)

裁判において度々「宥恕」という言葉が出てきます。法律関係でない人だとどれくらい読める、知ってるものなのでしょうか。
これは「ゆうじょ」と読みます。寛大な心で罪を許すという意味です。

示談が成立している際などによく使われるのですが、個人的にはどれほどの人が寛大な気持ちを持てているのかは疑問です。あんま言いたくないですけど、そう言わないと示談としてまとまらないこともあるのでしょうし。

ただ、今回紹介する裁判においては、その宥恕の思いが恐らくとても深く、考えさせられてしまったのです。


はじめに ~罪名と年齢とその見た目と~

罪名 :傷害
被告人:70代の男性
傍聴席:平均4人(全3回)

傷害事件と聞くと、どうしても血気盛んな方を想像してしまいます。年配の方もたまにいますが、それでもやはり血気盛んな方というイメージからそう外れることはありません。
しかし、刑務官に挟まれ入廷した被告人からは、そういった気配は感じられるどころか、相当疲れている印象を受けます。まぁ年齢相応といえばそうなのですが。

とても事件内容が思い浮かびません。


事件の概要(起訴状の要約)

被告人は自宅にて深夜、同居している50代の息子に対し、刃の長さ10cmのナイフで右目、右腰部を刺し、眼球破裂により右目は失明、全治二週間の腰部の刺し傷を負わせた。

見た目に反してとんでもない事件でした。しかし、その事件内容を聞いてもなお、この被告人が行った姿が全然想像できません。

罪状認否においては、被告人は罪を認め、弁護人も認めたものの「もみ合いになった際に生じたもので、特定の部位を狙ったものではない」と認否を述べました。

家族内のトラブルということでしょうか。だとしたらその原因は?ナイフはそもそも持っていたのか、近くにたまたまあったのか、などなど気になるポイントが多いです。


採用された証拠類

検察官請求証拠
被告人は20代半ばで結婚、その2年後に今回の被害者である子が産まれます。
被害者は高校のころから精神疾患を抱えるようになり、家から外に向けて大声を発するなどを頻繁にしており、家族として対応を思い詰めていた。

事件の日は、被害者の部屋からいびきが聞こえているのを確認し、ナイフを持って寝室へ。起訴状記載の犯行が行われたのち、被害者は隣に住む親族宅へ逃げ込んで110番通報した。

被害者は、「こういうことをされたが父には感謝をしている。心から反省しているなら厳しい処罰は望まない」と取調べにおいて供述した。

被害者は精神疾患をお持ちの方で、相当に苦労されたとのこと。しかし、そんな被害者からこんな言葉出るとは。どこで、何がすれ違ってしまったのでしょうか。この時点でうるっと来てしまいます。

年配の親の介護に苦労して…、という裁判はたまに見ますが、子の対応に苦労してというのは、僕はあまり裁判で見ません。
50代までは一緒に暮らしてきたのに、という見方もありますが、やはり自身の年齢的に対処しきれなくなったのか、それとも何か被告人の思いが爆発する出来事があったのか。

聞いたら辛い思いになるんだろうなと予想しつつも、傍聴席を立つことなどできるはずもなく。


証人尋問 ~隣の家だけど黙認するしかなく~

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