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強盗犯の家に眠っていた謎の大金とは(犯人隠避) 傍聴小景#62

別に僕はレア罪名ハンターではないですが、普段見ない罪名が開廷表に書かれているのを見ると、傍聴したい欲にかられます。

やはり珍しいということは他の方はしない行為ということなので、それが凶悪過ぎるのか、条件が特殊過ぎるのか、思いもよらない犯行なのかなどいろいろと想像したくなるのです。

はじめに 〜レア罪名を犯す大人しめな女性〜

罪名 :犯人隠避
被告人:50代の女性
傍聴席:平均11人(全2回)

似た罪名で「犯人隠避教唆」というのは定期的に見ることがあるんです。
このほとんどが、交通事故を起こしたが、無免であったりする事情を隠すために、同乗者などに犯人であることを名乗らせるなどして犯人を隠すことを唆すというもの。

一方で隠す側である、この「犯人隠避」という罪名はほぼ見ることはありません。上記の例で言うならば教唆の方が犯意が強く、唆されて隠した方はやむ無しという判断となることが多いのでしょうか。

では、この事件はどんなものなのか。
被告人は50代の女性。年齢通り、大人しそうな女性。なんとなく隠したのは夫か子どもか、など想像してしまいますが、果たしてどうでしょうか。


事件の概要(起訴状の要約)

被告人は、息子が強盗事件の被疑者として逃走中と知りながら、ATMを使って9回合計463万円の振込を行い、逃走資金を提供した疑い。

想像以上にデカい罪の人を隠していました。500万弱もあったら、どれだけ長い期間、そしてどれだけ遠くに逃げることができるのでしょうか。

ちなみに、この裁判のあとで、被告人の息子について調べてみました。
大阪府内で高齢者宅に押し入って、手足を衣服で縛るなどして3,000万円が入った金庫を盗んだという疑いがかかっているようです。

逃走期間は約2週間で、この振込を行ったのは事件発生から1週間後のことで、その1週間後に逮捕されたようです。

この被告人自体に強盗で起訴されていないので、この振込のみの我が子かわいさのための犯行かと推測されますが、それにしても結果は重大です。想像はいろいろ広がりますが、実際のところどうだったのか裁判の続きです。


検察官が提出した証拠類 〜警察から要請はあったが〜

被告人は離婚しており、一人で子3人を育てた。強盗の疑いがかけられているのは長男で、事件前まで同居をしていた。

警察官が家に来て、署で強盗事件の話を聞き「公開捜査になる前に出頭させてほしい。もし連絡があれば通報してほしい」と要請を受ける。
しかし、その後に被告人から連絡が来るものの警察に告げず、タンス預金から振込を行ってしまう。逮捕当初は「事実に身に覚えはありません」と供述していた。

タンス預金からの払いで500万弱ですと?この人の家自体が強盗団から狙われなくて良かったですね、といった感じです。

それにしても、僕は結婚もしていないのでなんともわかりませんが、子どもがいるご家庭ではこの事件ってどう捉えるのでしょうか。子が無罪であることを信じるというのはいいと思いますが、子どもかわいいにしてもやり過ぎと感じてしまいます。


証人尋問 〜含みがある検察官の質問の意図〜

被告人の母が証人として出廷。
事件当時は一緒に住んではいなかったようですが、被告人の健康に不安ありというのと監督とで、今後は一緒に住むことにするようです。

例えば窃盗とか、借金からの犯罪だったら、今まで一緒に住んでいたときから、「傾向があったから改めて指導し直す」という主張も納得ですが、さすがに若い時分から「犯人隠避の傾向あり」という人はまずいないので、どうも質問も「普段はいい子なんです」というものばかりだった気がします。

その中で一つ紹介。

弁「今、被告人にかけたい言葉などありますか」

証「子どもの可愛さでパニックになった結果とは思うのですが、こういう時こそ人に頼ってほしいのと、まだまだ長い人生なんだから前向きに背負いすぎないようにと思います」

ここで被告人号泣。
いちいち関係者の涙に反応していては、傍聴人としてやっていけませんが、このポイントで泣くというのは、少なくとも当時のパニック状態に刺さったからなのかなと感じました。
そこにどういう背景がありうるかというのは別にして。

普通、監督を誓約する証人への検察官の質問なんて、監督に不安な面がないかくらいなんです。でも、今回はあんま監督云々は関係ない話ではあるので、何を聞くのかなと思っていたところ...

検「被告人の生活状況は把握していましたか?ゆとりがあったかなど」
証「ゆとりというか、贅沢な暮らしはしてきたことはありません。私の着れなくなった服をあの子に着せるような環境でしたから」

検「生活費の援助をしていたようですね」
証「若くに離婚して、何もないので住む場所と公共料金くらいのお金は」

検「いくらくらいですか」
証「13万円くらいです」

子ども3人を育てるのに多過ぎるってことはないですが、一応被告人も会社員として働いているんですよね。子らもそれなりの年齢だったし(長男は30手前)、働いている人に仕送りする額としてはやや多い気も。

さて、ここで多少の推測も含みますが、検察官はここで何を聞きたかったのか。
検察は500万円のタンス預金の出どころを疑っているのです。
タンス預金などでなく、息子が強盗で得た現金を被告人が預かって、それを逃走資金という名目で送ったのではないか
と。だから、500万円ものお金が貯まる生活環境だったかを聞きたかったんですね。

さて、被告人質問でどう展開していくのでしょうか。

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