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貼り合わされる穏やかさは、暮らしに寄り添う/前橋文学館『ちぎらまりこのはりえぐらし』

6/17(土)より、前橋文学館で前橋在住の作家・ちぎらまりこさんによる展示「ちぎらまりこのはりえぐらし」が開催される。その会場に流れる貼り絵の制作映像を担当した。

ちぎらさんはchaiさんという名も持ち、かわいすぎない動物や親しみのある人物などの彼女の貼り絵を見たことがあるという群馬県民は多いのではないかと思う。前橋駅には彼女の貼り絵をマニアッカーズデザインがグラフィカルにデザインした壁画もあり、その壁画には赤城山の裾野に赤城神社や敷島公園、るなぱあくの木馬から朔太郎まで、様々なものが表現されている。

僕がちぎらさんを知ったのはずいぶん前で、聞けばマニアッカーズデザインのお二人や僕も関わっていた「ジョウモウ大学」(場所を持たず、県内あちこちでワークショップを行った集い)でも授業を持ったことがあったという。ちぎらさんに会った誰しもが思うように、彼女のほがらかさは、彼女が作る貼り絵に通じているものだと思う。今回の展示に合わせた映像は、僕が別の仕事で文学館と関わっていて、担当学芸員さんから「ちぎらさんのアトリエに制作風景の撮影に行くんです」と聞いて同行したことが結果、仕事になってしまった。ありがたい。

前橋市に限らず、ちぎらさんは県内各地の地方との仕事も多くされていて、僕が担当した高山村のポスターでもチームとなった女子二人の「ちぎらさんにロゴを作ってもらいましょう!」という要望があった。高山村の仕事は有難いことにマイペースに進めさせていただけるので、ちぎらさんも村に招いてプチ高山村ツアーをして、美味しいご飯も食べた。そうしてできた高山村のまんまるなロゴイラストは「小野子山などの山を遠くに、村人なのだろう親子が若木を愛でる」温かみのあるものになった。今回の展示では、その高山村の貼り絵も含めて、ちぎらさんの絵を通して群馬県の各地を知れるコーナーもあった。

ちぎらさんが切って貼るのは、古い英字新聞や色紙、風合いのある和紙など様々な紙。ひとつひとつが手間のかかる作業だが、静かなアトリエで終始穏やかに作業をする様子が印象的だった。彼女の作家業を支えるのは、主に個人やご家族からの「私の、私たちの、私とペットの肖像を貼り絵にしてください」という依頼だという。なぜ、多くの人が彼女の貼り絵を好むのだろうか。

2023年、急速にAIがぼくらの前に顔を出し、絵のイロハは全く知らずとも、言葉を入力することで、何年何十年も絵を描いてきた絵師と呼ばれる人たちの微細な絵に似た絵がポンポンと生成されている。その良し悪しは今後も言い合われることと思うが、1つ確かなことは「クリックひとつで生成された絵を生涯愛せる人はいないだろう」ということである。

ちぎらさんの貼り絵には、彼女が今までに培ってきた「穏やかさ」が含まれている。1枚絵とも違う、パーツパーツでは満たない紙たちが寄せ集まって1つの絵として重なり合う様子も、実に有機的だ。そういう絵だからこそ、描かれた人たちの暮らしに寄り添えるだけの存在感・強度がある。

「ちぎらまりこのはりえぐらし」で感じることの多くは、人はまだまだ大丈夫、という安心感なのかもしれない。

ちぎらまりこのはりえぐらし
2023.6.17~9.3


ちぎらまりこインスタグラム

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