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メンヘラおばさんに追い回されて   《Can you celebrate?な夜》第-2話

 前に住んでいたアパートでの話。
そのアパートの作りは採光重視で窓がやたら多く、サイズも大きめだった。特に上下方向が長めだった。1999年建築であったが、その頃は人工照明より自然光をたくさん取り入れようという思想だったのかもしれない。南、西、北に大きな窓があった。まあ、夏は西日が入って大変暑かった。夏は軽く40℃を超えていた。(近頃の夏なら、もっと恐ろしい状態に違いない。)       あの頃の私は、失業給付期間が終わり、デイトレに近い感じの株の短期トレードをしていた。15時に相場が引けた後、晩御飯の食材を買いにスーパーに出かけていた。
 ある時から、道路をはさんで向かい側に住んでいるおばさんが、私が出かける時に待ち構えているようになった。私の方をジロジロ見ながら口をモグモグさせて何か言いたそうだった。
 出かける前に部屋着から外行き用の服に着替えていた。まあ、部屋着?のまま買い物に出てくる人もいるが。2階部分に住んでいたが、まわりの家と高さが同じなので、一応人目を気にして着替える時はカーテンを一旦閉めていた。15時過ぎに一旦カーテンを閉め、その後開いてから数分後出発するという、非常に単純な行動パターンを取っていた。おばさんはそれを観察していて、タイミングを見計らって出て来ていたのだろう。
 そのうち駐車場内まで入ってくるようにもなった。そしてついに、ipadを持ち出して来て、車で走り出てくる私を前方から撮影を始めた。顔がしっかり映るようにという感じで。やがて側面になり、そして後ろのナンバープレートがしっかり映るように。その時は旦那も出て来ていて、そちらの方はiphoneで撮影をしていた。
 
 いったい何故そんなことをするのか、と考えてみた。
そうか。あれか。座間市の白石事件か。もしかしてあれと同じ類の人間だと思っていたのかも。ちょっとメンへラっぽいおばさんではあった。娘が一人いたが、こちらの方は投げキッスをしながらキックボードで近所を走り回っているような開放的な少女であった。
 
 これではなんだか落ち着いて住んでいられないなあと思い、引っ越しを考えた。これだけが要因ではなかった。3月末に直下の部屋、4月上旬に隣の部屋が引っ越していた。ネットで何気なく賃貸物件情報を見ていたら、自分が支払っている家賃より1万円以上安い金額で募集がかかっていた。10年余りの間、引っ越しのことなど一度も考えたことがなかった。更新がないのでこんなことになっていたのだった。
 今住んでいるところも同じような2DKの間取りだ。専有面積は前に住んでいた物件の方が若干広いが、階段が内部にあるためで、実質的にはほとんど変わらない。建築が9年新しいし、追い炊き機能はあるし、24時間換気装置などなどがついている。エントランスはオートロックだし。それでいて、当時支払っていた家賃より安いのであった。駅と駅とのちょうど中間にあり、不便なイメージがあるが、当時の私には全然関係がなかった。田んぼの真ん中にあり日当たりが良く開放的な感じでしかも静かそうだ。(実際に静かであるかどうかは住人による、ということは後で思い知らされるのだが)
 時々住人が入れ替わる時に賃貸情報を覗いてみているが、現在は家賃は横ばい状態である。歩いて1,2分のところにスーパーがあるためだろうか。
 すぐに部屋は埋まる。

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