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パリ市庁舎前のキスの"長さ"

【スキ御礼】パリ市庁舎前でキスをした訳

ロベール・ドアノーの写真「市庁舎前のキス」は、1950年に『ライフ』誌にはじめて掲載された。
その記事の写真のキャプションには次のように書かれている。

THIS WAS SHORT KISS , ❝A KISS RAPIDE ,❞ SAYS PHOTOGRAPHER
(これは短いキス。撮影者は「急速なキス」という。)

『ライフ』誌にはじめて掲載された「市庁舎前のキス」
アプトインターナショナル『ロベール・ドアノー写真展カタログ』1996年
※日本語訳は筆者

これと比較されているのが、記事の1ページ目に頁の4分の3ほどの大きさを占めるドアノーの写真「オペラ座のキス」(1950年)である。

Robert Doisneau 「オペラ座のキス」 1950年
ROBERT DOISNEAU LA MUSIQUE PARIS ポストカード


その写真のキャプションには次のように書かれている。

❝MY CAMERA EXPOSURE FIVE SECONDS. THE KISS TOOK SOMEWHAT LONGER, ❞ SAYS PHOTOGRAPHER. PASSER-BY CAUSED BLURS
(「私のカメラは露出が5秒だ。このキスはそれより幾分長くかかっている。」と撮影者は言う。通行人がぼかされている。)

同上

記事の1頁目を飾る「オペラ座のキス」の長さは5秒以上。
2枚目の「市庁舎前のキス」の長さは、それよりも短いという。
「市庁舎前のキス」では、奥の通行人だけが少しブレている。実際にカメラの露出時間がどれくらいなのかは専門家にお任せするしかないが、「オペラ座のキス」よりは短いはずである。

「市庁舎前のキス」と同じく「オペラ座のキス」もまた演出写真なのかどうかは確かではないが、そうだとするならば、どちらの写真もキスの長さを想定して露出時間も決めていると思われるのである。

オペラ座の前ならば、歌劇の舞台を連想させるようなそこだけが時間が止まったような長いキスを、パリ市庁舎前では、朝の通勤途中の慌ただしい時間の中での短いキスを、という風にそれぞれ事前に場所と情景の構想があって撮影されているのだろう。

このドアノーの演出写真とはどういうものか、論文に触れられているので、そのまま引用する。

厳密なドキュメンタリー写真というよりはむしろ、数年かけて培った技術を駆使した演出写真とも言えるべきものが若干ある。そこには日常生活の中にこそ素晴らしいもの不思議なものを見出すことへの彼の歓喜の情が見えてくる。何かが起こる様子を十分観察しながらそれをすぐにはカメラに記録せず、後になってそれを再現しようとした。「市庁舎前のキス」などがそうである。

ピーター・ハミルトン「ロベール・ドアノー」訳:武田美智子 正代アンダーソン
アプトインターナショナル『ロベール・ドアノー写真展カタログ』1996年

ドキュメンタリー写真でも、演出写真であっても、ドアノーが日常生活の中から何かを見出して表現しようとする姿勢には変わりはないのである。

☆革命記念日(パリ祭)に続いて、ムーンサイクルさんのオペラ座のレポートです。素敵な写真がたくさんあります。記事3回に分けられていますが、ここでは1回目をご紹介します。2回目、3回目も写真がいっぱいあって素敵です。

(岡田 耕)

写真/岡田耕 
    (東京都写真美術館)

ありがとうございました。


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