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Citizen Science:アマチュアによる科学的調査および研究

Civic Techという言葉がある。似たような言葉でCitizen Scienceがある。両者は似ているがその意味するところはかなり違う

AFPが伝えた下記の記事はCitizen Scienceの典型的な例だ。ドイツのドイツ・ライン地方の田園地帯で、世間から変人扱いされながら30年近くにわたってこつこつと8000万匹の昆虫を採集してきた昆虫学愛好家グループが、この地域に生息する飛行昆虫の全生物量(生物体の総重量)が調査期間内で76%も急減していることを発見したというのだ。

Citizen Scienceは「アマチュアによる科学的調査および研究」とでもいえばよいだろうか。上記の記事もそうだが、従来は市民の非常に地味な作業によって行われてきた分野だ。日本でいうと『神奈川県植物誌2018』(*1)をまとめた神奈川県植物誌調査会が有名だ。
(*1) https://www.sagami-portal.com/city/scmblog/archives/19529

昨年、神奈川県立生命の星地球博物館で行われた特別展「植物誌をつくろう!~『神奈川県植物誌 2018』のできるまでとこれから~」(*2)にはこう記されている。
(*2) http://nh.kanagawa-museum.jp/exhibition/special/ex161.html

日本で2番目の人口を抱え、面積は5番目に狭い神奈川県。地域の植物がくまなく調べられている点では、日本で1番かもしれません。

神奈川県は全国で最も植物相(ある地域に生育する植物の構成)が解明されている地域です。この背景には、1979年から続く市民グループ「神奈川県植物誌調査会」を中心とした市民による調査活動と、博物館を中心とした県内10以上の協力機関の存在があります。

調査結果のまとめとして、これまでに刊行された「神奈川県植物誌1988」、「神奈川県植物誌2001」は、いずれも全国の研究者や植物愛好家から高い評価を受けてきました。同時に、国や県などによるレッドデータや外来植物対策、生物多様性地域戦略のための基礎資料としても、なくてはならない存在となっています。


ちなみに『神奈川県植物誌2018 電子版』は下記(*3)からダウンロードできる。cf)『神奈川県植物誌2018 電子版』

しかし、Citizen Scienceの領域は、生物学の分野だけに限らない。英国ではUCL(University College London)が車椅子ユーザーの協力を仰いで車椅子にセンサーを取り付け、路面の微妙な傾斜を測定したりしていると聞く。

市民が動的なセンサーとなるCitizen Scienceはネットワークや機器の小型化により新たなフェーズを迎えている。私はそれを個人的にはインターネットの3rd インパクトの一部だと思う。慶應大学の井庭さんがよくいう創造社会とはこのような活動も広く含まれると考えるからだ。3rdインパクトは1st インパクトが引き起こした.comバブルや2ndインパクトがもたらしたGAFAに象徴される世界に比べると地味だ。しかし、3rdインパクトにもまた2つの先立つインパクトによる行動変容と同様、人々の行動に関する本質的な変化が垣間見える。

変化の兆し。変曲点は曲率が大きければ大きいほど、その渦中にいる我々には見えにくい。楽しい時代だ。

追記:
上記の記事をFacebookにアップしたところ、九大の矢原徹一教授に下記を教えていただきました。矢原さん、ありがとうございます。

矢原 徹一) 日本の植物レッドデータブックは全国の500名を超える市民科学者の調査データに基づいて編集されています。個体数水準と減少率に関する半定量的データに依拠し、コンピュータシミュレーションで絶滅確率を評価して作成された世界で唯一のレッドデータブックです。


訪問していただきありがとうございます。これからもどうかよろしくお願い申し上げます。