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E114:だって今日は昭和の日

今日は29日目です


この話をすると誰も最後まで聞いてくれない

みんな途中、半笑いで困ったような顔する

そして、頃合いを見計らって次の話題へ行ってしまう

ねぇ、今どさくさに紛れて話題変えただろ?

わかってるんだからな…

今日こそ、どうか最後まで話を聞いてくれないか?

フェチ?
その、つまんない分類はもうやめてくれないか?

違うんだ、違うんだ!

つまり、僕はいっぱい思い出すんだ



日が昇る前から忙しく働いていた祖母とか

その祖母が手際よく擦るマッチの音とか

点火の時、やたらボコボコ言うあの妙な音とか

そこで加湿器代わりに置いていた沸騰したヤカンとか

そこで焼いていたあんこ餅とか

そばに置いていたこたつとか

こたつの上のみかんとか

こたつの上のチェルシーとか溶けそうなセシルチョコレートとか

こたつの上の辞書とか参考書とか赤本とかノートとか

こたつの上のゴールドブレンド赤ラベルとかクリープとかニドとかブライトとか

ネスレ?何言ってんだ、ネッスルだよ!

こたつの上の年賀状とか、プリントゴッコとか

これから書く年賀状の上にみかんの汁が飛んで大騒ぎしたあの日とか

あの言葉に納得いかなくて、呆然とそこで手をかざしていたあの日の自分の青ざめた顔とか

その近くで遊んでいてうっかり火傷してしまって慌てて塗られた令和ではあっさり否定されるアロエの葉っぱのネバネバ成分とか

誰かが仕切りのふすまを閉め忘れて背中から冷気を感じて「誰やねん、ちゃんと閉めろやー!」と文句を言ったあの日の短気な自分とか



なんのはなし…って、いや待って、そうじゃない!

ね、もう少し話を聞いて、
まだ、コニシ木の子さんを呼ばないで…

いや、だから…

そんな、言ってみれば、細かいことの寄せ集めみたいな「細かくてくだらないかもしれないけど泣きそうになる思い出」が全部詰まった、そういう感覚を一瞬で思い出してしまうから

だから、僕は……

「石油ストーブをつける時と消す時の、あの匂い」が好き……


というより、今でも胸をわし掴みにされるんだ…

これでもまだ僕を「フェチ」って言うのかい?

ねぇ、ちょっとでもわかってくれた?

……ホントに?

ありがとう

でもどうしてそろそろ衣替えでもしようかという、こんな時に石油ストーブの話をするの?だって?

ああ、まだ、わかってくれないのかな…

僕は石油ストーブの匂いの話だけをしてるんじゃない
僕は「昭和の香り」の話をしているんだ…

令和もいいけど
昭和だって捨てたもんじゃないんだよ!

これだけ話しても、まだ聞くのかい?

そうか、いいさ、わかったよ…

さあ、聞くがいいさ、言うがいいさ

…なんのはなしですか?

ってね……

でも、
僕が何気なく挙げた項目の中から
何か1つでも、あなたの心に刺されば
僕は、それでいいんだ…。

【66日の29日目】

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