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2023年J1第34節鹿島アントラーズ-横浜FC「終わらない歌」

時を超えた青いリボン

時は鹿島戦の前に遡る。第33節湘南戦でクラブが試合会場で配布していたフラッグにプリントされていた、横浜のエンブレムの中央上部にある青いリボンがゴッソリ抜け落ちていたことが話題となった。原因究明や再発防止策の議論はさておき、ここで初めてその青いリボンの意味を知る事になったサポーターも多かったようだ。あれは横浜フリューゲルス存続活動いわゆる青い翼運動にて、参加者が揃って身につけていた青いリボンになぞらえてのものだ。
合併の話が出てから青い翼運動が広がっていくが、合併中止は現実的に厳しくなっていく。その反面、無情にも試合は毎週末やってくる。終焉へのカウントダウンが始まっている中で、合併発表後チームはリーグ戦全勝。そして同時に開催していた天皇杯も優勝。結局解散という形になってしまったが、あの青い翼運動こそ、横浜が持っている諦めが悪いことの原点だと私は思っている。(クラブは、青いリボンの意味を忘れないというのであれば、2002シーズンの時の様に、ユニフォームの裾に青いリボンのデザインを施すべきだと思う。差異化、アクセントにも良い。)

青いリボンの認知が深まり、横浜の一部のサポーターはオリジナルで青いリボンを旗に付けたり、配る者まで現れた。25年の時を経て青い翼運動が再現された気がした。諦めの悪いサポーターはカシマスタジアムの一角を青く染め上げた。2年前も秋にカシマスタジアムで試合があった。でもあの時とは比にならない濃さだった。そして青空を見上げるとふと思い出す。1999年1月1日満員の国立競技場の横浜フリューゲルスゴール裏に広がった横断幕の一節を。

この想いは決して終わりじゃない
なぜなら終わらせないと僕らが決めたから
いろんなところへ行ってきて いろんな夢を見ておいで
そして最後に、、、君のそばで会おう

銀色夏生「君のそばで会おう」改変

当時の横断幕は銀色夏生さんの詩「君のそばで会おう」を再編集しているもの。銀色夏生さんの詩は当時なんとも思わなかったが、調べたら調べるほど深い詩が多い。

力をください 気持ちをください
終わりのない歌をください

銀色夏生「そしてまた波音」より

自分に今から時を戻す程の神のような力があったら、弓折れて矢尽きてもたじろがない強い心を持っていたら、横浜が残留するまで笛の吹かれない試合がやってきたらと。独りよがりで妄想家で情けないくらい自己中だけど、自分たちから終わりを認めたくはなかった。
きっと選手たちも同じ気持ちだったと想像している。この試合は勝つだけではダメ。さらにゴールをどれだけ重ねられるか。いつもより全身に漲る力と、隙あらば相手に飛び掛からんとする程の強い気持ちと、そして常に奮い立たせるチャントがあれば願いはかなう。「出る前に負けること考える馬鹿いるかよ」の世界である。
33試合終わっても、残り1試合で得失点差が12であっても、数字上可能性が残っただけと言われても、可能性は限りなく低いと周りに言われても、カシマスタジアムで鹿島サポーターに「J2横浜」と罵られても、34試合3060分終わるまでは何も受け入れたくなかった。

目の前に広がる現実

最終節に大量得点で勝利するしか可能性がない横浜はこれまでとスタメンを変えた。両ウィングバックは山根、林という守備と走力に強みのある選手から、近藤と橋本と突破力とクロスが武器の2人に。ボランチは出場停止のユーリに代わって長短のボールを捌ける三田に。小川の位置にはよりドリブルが武器の坂本に。第11節からの5-4-1のシステムはそのままながらより攻撃的になった。
前半立ち上がりから攻勢だったのは横浜。こういう流れでポロっと1点入るとゲームは流れが変わると思っていた。鹿島は優勝やACL出場権も絡んでおらず、クォン・スンテの現役引退やピトゥカの(多分)鹿島でのラストゲームであることはあってもそれで極端にモチベーションが高くなるとは思っていなかった。鈴木優磨は相変わらず嫌らしいが、それ以外は思っていたより悪い感じではないが、そういう先制点への背伸びした思いが足を掬われてしまった。前半18分、井上から三田への横パスは三田の背中に当たり鹿島・佐野が回収すると、ボールを前線に運んでいく。パスを受けた鹿島・師岡のシュートは一度はマテウスが弾くも、詰めていた鈴木が押し込んで鹿島先制。

前半41分にはハイボールのクリアを鈴木が回収して、師岡に展開。グランダーのクロスに詰めたのは鹿島・松村。これで2点の先行を許してしまう。

失点の仕方はどちらも同じだった。井上、三田はシーズン序盤にボランチを組んでいた2人。この2人の相性が良くないのはどちらも裏のスペースへの意識が薄いこと。ひっくり返された時にどちらも必死に追いかけない。2人とも攻撃に強みがある選手で、大量得点が欲しいからこその起用であるが最終節でシーズン序盤のような失点を見せられてしまう。

流れは横浜にあるのに安いミスから安い失点を計上し、さらに攻勢に出るが固められて試合終了のパターンだろうか。

それでも前半終了間際、自陣深い位置でボールを奪ったカプリーニが鹿島の守備陣の裏に走る坂本目がけてのロングパスが通る。ペナルティエリアに入ろうかとまさにその瞬間、トラップが乱れボールを左側に置き去りにしてコントロールしなおす間に鹿島守備陣に囲まれて万事休す。坂本が中々活躍できていない今年を象徴するようなシーンだった。やや深い芝の問題なのか、技術の問題なのかはわからないが、GKと1対1になろうかというシーンでシュートすら放てない状況に落胆する横浜。前半終了の笛が吹かれハーフタイムになった時に坂本は天を仰いだ。

あと14点必要だ。でも、、、

後半から伊藤翔が坂本に代わって入る。戦えない選手は下げるしかないのである。後半開始早々に鹿島は横浜の息の根を止めに来た。松村のクロスに鈴木が飛び込むもポストに弾かれ、そのボールをクリアするが中途半端になり、ピトゥカがミドルシュートを放ってゴールを射抜いた。2点差でも苦しいが後半立ち上がりの失点は横浜を絶望感が覆うには容易いものだった。
が、直前にシュートを放っていた鈴木がオフサイドポジションにおり、GK永井のプレーに影響したとしてゴールは取り消しに。

後半18分、横浜にチャンス。三田の縦パスを受けたカプリーニが左足でミドルシュートを放ち鹿島ゴールを陥れた。まず1点。ここから横浜は両ウィングバックを交代させ、中盤の選手も代えて同点、そして逆転を目指したのだが。。。

各々のしたいことが違うのか、ゴールを挙げて勢いが出たはずなのに、逆に横浜は停滞し始めてしまった。鹿島は逃げ切り体勢に入る。3枚一気に代えたのを皮切りに、鈴木も佐野もお役御免とばかりにベンチに下がっていく。それでも攻勢にならない横浜。時間は刻一刻と減っていく。1分で1ゴールでも13点も奪えない。

死に際の美学

試合はそのまま2-1で終了し降格が正式に決定した。2023シーズンも横浜はJ1に残ることが出来なかった。J1でたった1枠だった降格枠は横浜。横浜はJ1に昇格しても、その度に最下位で降格している。2007、2021、そして2023。やっぱり、当然、当たり前と思われている。たった1年でJ1に復帰しても、またしても最下位降格。恒例行事のようだ。

それでもだ。1年で復帰できるレベルになったともいえる。2006シーズンに、怒涛の快進撃で昇格してから、次の昇格まで13年かかった。それがたった1年で昇格できるまでのクラブになった。クラブの予算もJ2ではトップレベルにあり、J1でも最下位ではなかった。一歩一歩上っているともいえる。

引き上げてくる選手たち。最下位で降格したのであればブーイングや罵声も止む無し。負けたのだから批判は当たり前。プロなのだから結果だけが評価。悪いものに悪いと言って何が悪い。そういう文化だった。それが当たり前だった。選手たちもどこまで知っているかわからないがそういった汚い言葉が飛んでくるのを覚悟していたはずだ。

しかし、タイムアップの笛で一時チャントは止んだが、その後自然発生的に生まれたのは「立ち上がれハマの友よ」のチャント。選手も悔しい、サポーターも悔しい。それでも前を向こうとするところに今シーズンは生まれ変わってきた。私が試合を現地で見た限りでは、試合後負けても選手をブーイングや罵声で迎えたのは片手で数える程しかない。事実上の降格が決まった湘南戦でも拍手で迎えた。

その歌声は選手全員が控室に下がっていくまで続いた。鹿島の試合後のセレモニーの開始が迫り、運営が中止の依頼で走ってきていた。それほどサポーターの終わらない歌はスタジアムに響いていた。自分の頭の中では、「終わらない歌」がグルグル回っていた。

終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため
終わらない歌を歌おう 全てのクズ共のために
終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため
終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように

THE  BLUE HEARTS「終わらない歌」

「もう一つの横浜」、「あっちの方」とか「マイナーな方」と横浜はのけ者呼ばわりされてきた。それに慣れてはいけないし、綺麗ごとかもしれないが熱く応援する方向を間違えなければ、その扱いはちょっとは変わるのかもしれない。

最下位でどうしようもないチームで、また来年やりなおしだし、運営は相変らず人足りていないし、また変なこと考えそうだし、三ッ沢は相変わらず雨に弱いし、年食ってるサポ増えてきたから次は隣の誰かがいなくなるのかななんて思う前に自分の心配したり。世の中の全員にわかってもらえなくてもいいけど、自分の人生の半径1メートルの範囲にいる人に少しでもわかってもらえたらそれでいい。

長年横浜を見続けてきたけど、歌が終わらないのは今年が初めてだった。降格したけど、横浜は小さな宝物を手に入れた気がする。終わらない歌は、シーズン通して応援してきた自分を奮い立たせた。明日には笑えるように。

奇しくも、終わらない歌を歌ったのはブルーハーツ。つまり僕らの胸にある「青い心」

来年はJ2。大変だし苦しいだろうし、甘くないJ2沼。それでも、また僕らの終わらない歌はスタジアムに響き渡るだろう。J1から降格したからといっても終わってないし、J3に行っても終わらせない。なぜなら終わらせないと僕らが決めたから。


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