見出し画像

2024年J2第1節横浜FC-レノファ山口「立ち位置が変われば正義が牙をむく」

開幕戦で久しぶりに聞いた罵声

試合後一部の観客からブーイングや罵声に近い声が聞こえた。J1から降格した直後のシーズンの開幕戦で、昨年残留争いをした山口相手に1-1の引き分けでは、文句の一つも言いたくもなるのだろう。

ただ、それらの声に同調するものは少なかった。中村が一部のそうした声に反応していたようだが、断片的な声はその後に起こる拍手と歓声にかき消されていった。
5年程前であればこうしたブーイングこそが主流で、「プロなんだから必死に戦うのは当然」「負ければ悪」「やる気がないなら辞めちまえ」と罵声のオンパレードだった。そういう立ち位置を周りが受け入れてなかったから、黒い服のゴール裏の中心地を取り巻くように青いシャツのサポーターが席を陣取るのが風物詩だった。

それが昨年のようにブーイングはあれど負け試合の度に出るスタンスではなくなったことやクラブが行おうとしたドレスコードへのアンチテーゼの様なスタイルに共感して応援スタイルが変わった方も多い。だから、彼らの言動に違和感を感じるのである。あのブーイングや罵声に同調者が出なかったのは感慨深いシーンではあった。立ち位置が変わってきているからである。それは自分たちもクラブも。

前提として、立ち位置が変わる事はおかしなことではなくむしろ普通の事である。物理的に引っ越すことになり応援の仕方が変わったり、子どもが出来たりあるいは自分が年齢を重ねて長時間跳ねる事が苦しくなったり等、チームへの接し方が変われば目線も変わる。大切なことは、自分の立ち位置は変わっていくことと、他人もまた立ち位置が変わっていくことを受け入れる事である。

ただ、批判がない訳ではないのは事実だろう。開幕戦とは言え非常に低調な内容で勝点1を獲得するにとどまったチームの先行きを不安視する事があるのもまた事実。21年の年末に瀬古・松尾が移籍するものの、外国人は概ね残留し、そこに小川航基と長谷川竜也が加わった22年の開幕戦とはチームに対する期待値が違ったと感じた。

J1から階段を下りて

2023年末に行われたHAMA BLUE SESSIONにて、説明がなされた田端GMの就任理由は「金沢で長年J2を降格させず戦い抜いた」ということがメインに聞こえた。金沢は2024シーズンからJ3に戦いの場を移すのだが、金沢の予算規模で長年J2を戦ってきた手腕を評価したようだ。つまり編成のコスパが良いと。
実際金沢では宮崎幾笑や庄司朋乃也ら若手が毎年のように成長し、昨年でいえば孫大河、梶浦勇輝が出場機会をつかみ高い評価を得た。出場機会が得られていない若手を育てて戦える選手にすることに定評があると感じる。2024年横浜で背番号8を背負う山根永遠も金沢で成長したその一人だろう。
その一方で私には物足りなさが残った。2023シーズンもB契約で多くの選手と契約し、そのハングリー精神で成長することを期待したが、それらの選手が育たない間にチームはカウンター一辺倒のサッカーに舵を切らないといけない状態に陥った。戦術の調整や選手の入れ替えでは対応できないような一大転換をする羽目になったのはその影響でもある。
今年も可能性のある若い選手を入れて底上げを図りつつ、残留したメンバーが多く残るディフェンスをベースに戦うのだろう。残酷な話だが、選手の編成で新加入した選手が全員活躍することはまずないと私は考えている。活躍できる選手とできない選手が出て、下手すると誰も活躍出来ないこともある。その現実の中で、新加入の若手の活躍前提にチームを編成するのは中々リスクがある。
その方針にせざるを得なかったのは、クラブの赤字が影響してるだろう。その会議では、昨年度約5億の赤字と話があった。サポーター目線では、何が何でも即昇格と考えたいが、クラブとしては中々強気に出られない現状もある。クラブとして赤字なので、強化費を多少なりとも絞っていくのは自然なことである。その絞った中で、良いコスパを発揮できると考えられたのが田端氏なのだろう。

つまり、過去2年のように赤字を出しても、昇格、残留の為に選手を補強し続けれる状況ではなく、緊縮財政の中で結果を出していかなければならない、サポーターにとっては耐える事が予想されるシーズンになると私は予想している。
クラブとしては、プレーオフ圏内の3~4位が現実的なところと思っているが、サポーターとしては昨年降格したから即昇格と優勝と考えているだろう。クラブとしては絶対そんなこと言えないのだろうが、立ち位置が変わればそれも受け入れていけるようになるのかも知れない。根拠の薄い目標優勝や目標昇格は、クラブもサポーターの首も絞めると思っている。

序列が変わる

GK市川がスタメンで開幕戦。山根が2023シーズン主戦場にしていた右サイドではなく、左サイドでスタメン。昨年夏以降試合に絡まなくなった中村が右サイド。井上の相手は、昨年激しいボール奪取でスタメンを勝ち取ったユーリでもなければ、最終節鹿島戦でスタメンだった三田でもなく和田だった。シーズンが変わればポジションの序列も変わる。

方向性としては昨年を継続したようなしていないような中途半端な印象を受ける。ボールの奪いどころがはっきりしていないのが原因だ。
チームは概ねどこで、どんな形でボールを奪いたいか理想の形があるが、例えば前から行って蹴らせて後ろで回収するのか、下がって誘い込む中で奪いに行くのか。左サイドの福森、山根、そして中野が連動していない。山根本人も試合後「前から行くのか、後ろに下がるのかを迷いながらプレーしている感じが少しあった」と口にしたように、下がって構えて蹴ってこないならチーム全体で押し上げていくような切り替えが必要だった。

新加入の福森も決して足が速い方ではなく、このスペースを他の選手も気にしながら後ろをケアしながら戦ってしまったことが、攻守の切り替えをした際に持ちあがるのが遅くなってしまい、これが山口にブロックを敷かれてしまい、その周りをグルグルと展開するばかりの戦いの一因にもなった。

前半10分くらいから25分位までの間は山口の時間。チームとしてボールの奪いどころが定まらない横浜としては何となく下がって対応するばかりで、相手に前を向かれてボールを動かされて引っ張られていく悪い展開。それでも、山口の精度の低さに助けられていた。左からのクロスをフリーでヘディングを許したあたりから目を覚まし始めた。

左がダメなら右は

右は中村が先発に戻ってきた。右のシャドーはカプリーニ。この組み合わせの相性は正直悪いだろう。攻撃に特化してボールを欲しがるカプリーニと、守備にムラのある中村の共通点は、守備の際にやや他人任せになる事。ポジションを離しても、一回けん制をいける、限定するような動きが少ない。それが同じサイドで再現されると自動ドア状態で侵入されてしまう。

攻撃でも呼吸が合わない。独力でこじ開けにいきたいカプリーニと、シンプルにボールを動かしたい中村では目指している方向が違っている。

左右ともに攻撃の形も作れず、かといって守備が安定している訳でもなく、渋い試合となった。それでも、前半の終盤あたりからは山口の攻撃が一服し、横浜がボールを握る展開が続いたがチャンスは、森が抜け出してシュートを放ったのとコーナーキックから中村が放ったシュートくらいで、今年目指しているサッカーは伝わってこなかった。

立ち位置

後半一貫して福森のサイドに長いボールを蹴り入れる山口。その意図がゴールにつながったのは後半7分。ロングボールを回収されてつながれ、横浜の左サイドに展開。福森は裏を取られてしまう。山口・若月が放ったシュートは、ガブリエウの身体に当たってコースが変わりGK市川の逆を衝かれる形となりボールがゴールに吸い込まれていった。ゴールキーパーにはノーチャンスの痛い失点。
それよりも、後半開始直後にも福森がラインを上げようとした時に裏を取られ、この時はガブリエウがシュートをクリアして事なきを得ていたが、とにかく左サイドを衝かれ続けた事は横浜の現時点の弱点を晒すことになった。
また福森のサイドを押し込むと彼の持っている精度の高いボールが自陣より遠いところでしか出てこないメリットもある。福森の立ち位置そのものの不安感もあるが、四方田監督を優勝させる為に来たいわばアイコンになる選手が揺らいでしまうと、チーム全体も揺らいでしまう。

福森のサイドを狙われ続けたのが暗であれば、中野のゴールは明だろう。この日誕生日の中野は前半からリズムを作り出せていなかったが、失点の7分後に同点ゴールを上げることになる。
福森のコーナーキックに合わせたのはカプリーニ。彼が擦らしたボールは山口守備陣にあたり、その跳ね返りを中野が詰めて同点に。

攻撃陣からゴールが生まれるとチームにリズムが生まれる。追いついたこともよかった。

ただ、その後は山口にセカンドボールを回収されるゲーム展開。カプリーニを下げて伊藤を入れるがここでボールを握れない。森に代えてソロモンをいれてもボールが収まってくれない。サポーターからはそう見えるし、指揮官にとってはやや予想外の状態だろう。選手たちにとって見たら開幕戦で呼吸が合っていないのはエクスキューズだと思う。
そうして立ち位置が異なっていると見えているものが違っているのが今の横浜。

山口のチャンスが消えていったのはユーリが投入されてから。昨年見せた屈強なボール奪取が披露されるまでは、疲労したボランチがボールを繋ごうとしてはミスを繰り返す始末で、正直ベンチワークもやや遅きに失した感じがあったが、ここも見えているものが違うのかもしれない。1-1でゲームはそのまま引き分けた。

山口にすれば相手がJ1から降格してきたかどうかは関係ないはず。ここにいるのは、J1クラブではないからだ。リスペクトしすぎると良くない。精度は修正しながら高めていくから、自分たちがやりたい事を貫くことが大切だった。

1-1をどう見るか

「山口なんかに勝てなかった」と近くの人が口にしていた。非常に舐めた発言である。J1から降格したクラブは、Jリーグ全体の21位のクラブではなく、21位から40位のどこかでしかない。山口目線とはまるで正反対で勝手に見下して、勝手に勝ち点を奪えず狼狽しているだけである。

強い言葉として発するかどうかの違いだけで「山口には勝てるはず」と勝手に思い込んでいなかったか。逆にこの勝ち点1が効いてくるシチュエーションだってあり得るだろう。

立ち位置が変われば物事の見方も変わる。それは否定しない。ただ、1つ言えるのは私たちがいるのは、J2であるという事だ。弱いからここにいる。そして立ち位置が変わっても、勝ち点は変わらない。勝ち点こそが正義である。38試合終わってどこにいるか。その時に一番高いところにいればいい。開幕戦で引き分けただけで慌てふためくのはおのぼりさんだろうか。私たちは下りてきた階段をまた登ることだけを見ていたい。


この記事が参加している募集

スポーツ観戦記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?