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2024年J2第11節V・ファーレン長崎-横浜FC「かもめの唄」

今、まさに岡山に向かう電車の中でこれを書いている。車の免許はあるが、所謂ペーパードライバーの私にとって電車やバス、はたまたフェリーは移動の手段として欠かせないし、それらを使って旅に出ることはもう相棒にすら感じている部分もある。
もっともそれは日本の公共交通機関がかなり高い精度で時刻表通りに運行しているからこそ得られるものでもあるのだが。(要するに月曜書けばいいのをサボっていただけ。)

さて試合を振り返ると、タイムアップの笛が鳴って感慨に耽っていた。次に諫早に来るのはいつになるのだろうかと。長崎はライセンスの基準を満たすスタジアムがある諫早で長年ホームゲームを行っていたが、2024年秋から長崎市の長崎駅前に新設するスタジアムへの移転が決まっている。スケジュールはわからないが、芝の張替えだとか定期点検等でどうしてもそこが使用できない場合以外、諫早でゲームをすることは基本ないと思うと複雑な気持ちになる。
1サッカーファンとして、アウェイゲームは旅だと思っている。旅で長崎市に行くことはあっても諫早市に行くことは滅多にない。だからこそ楽しみでもあった。長崎空港からバスで向かうか、博多方面から電車で長崎本線に揺られるか。これからもそれは変わらないが、諫早は目的地ではなく長崎への途中駅になってしまう。2024年はシーズン開幕に広島や金沢で新スタジアムがお披露目になったが、あれはどちらも同じ自治体の中での動きであって、自治体を越えてあの動きになるのは単純に感謝の一言では終わらせられない感情がある。

3代くらい前の横浜のコールリーダーと試合後の帰路で愚痴った道もすっかり姿を変えてしまったし、駅前の特徴的な歩道橋も取り壊れていたし、諫早の駅前に何もないので朝食代わりに入ったミスドも今はもうない。あの時の駅舎が小さい事を知っていると、新幹線開業の為に建てられた大きな駅舎は隔世の感がある。

「かもめ」

もしかするとこの名前を聞いて「それは西九州新幹線の愛称でしょう」ともう言われてしまうかもしれない。「かもめ」これは西九州新幹線がオープンする前に長崎本線を走っていた特急の事でもある。まだ「かもめ」と言えば特急である時期の方が圧倒的に長いのであるが、そこは新幹線と特急の扱いの違いなのだろうか、特急「かもめ」の記憶は薄らいでいく。諫早から長崎本線のかもめに乗車すると右手に見えるのが諫早湾、そして有明海。特急かもめは、急峻な崖も多い中で安定性を向上させた列車で普通列車より快適に過ごせる列車で、あの快適な特急に揺られて長崎から佐賀に抜けるのは丁度よい居眠りをする時間でもあった。
西九州新幹線の開業は、同時に長崎本線(特に長崎から江北間)で特急列車がなくなることも意味した。

西九州新幹線はJR九州と長崎県と佐賀県との思惑が入り混じる路線で、フルゲージでの新幹線を拒否した佐賀県に配慮して、長崎から武雄温泉だけを先行開業した。武雄温泉駅で、新幹線の向かい側ホームのリレー特急に乗り換えて運用している。西九州新幹線は、不完全なままな運用となっている。特急かもめをなくすのであれば、(佐賀県の思いを差し置くと)長崎博多間を通してから新幹線かもめにしてほしかった。武雄温泉長崎間の鳥かごを行ったり来たりするかもめが不憫だ。

先に失点してしまう

うまく回っていないのは横浜もであった。パスは各駅停車で、全く怖くないだろうと。パスは回って、最後にサイドに回って左からクロス。跳ね返されて、あぁ惜しい。本当に惜しいのだろうか。相手がしっかり守りを固めている中で上げさせられたクロスは相当精度が高くないとゴールには結びつかない。雨の試合だったが岡山戦とは逆にボールをつなぎながらのサッカーは悪手となった。

この試合にとっておきの戦いを仕込んだのは横浜。右サイドを中村拓海と小川慶治朗にして、相手の左サイドを剥がしにいった。小川が前から追って中盤で奪って、右からクロスを入れて高橋、伊藤で仕留める。ただこの目論見は結果的に失敗した。むしろ横浜の右サイドは前半から終始押し込まれる形で、カウンターで持ち上がってもシュートにも繋がらない。前半終了の笛と同時にヘアバンドを取った中村の表情は苛立っていた。

長崎のジェズスは際立っていた。彼はボールキープが出来るので、苦し紛れのパスも収めて前を向ける。ユーリがここを封鎖して彼から直接的な決定機こそ許さなかったが、横浜は押し込まれてしまう。また、エジガル・ジュニオもボニフェイスやガブリエウがタイトにマークするも優位に彼を抑え込むことができず、徐々に彼を起点にゲームを作られてしまう。

ややオープンな形で殴り合って先制点を得たのは長崎だった。前半37分、長崎が横浜のペナルティエリアに侵入。接触により長崎の選手が痛む中ゲームはプレーオンの状況ではあったがボニフェイスが外にクリアしていた。主審はゲームを止めるのか止めないのか横浜の選手がややフワッとした意識があったのか緩んでしまったが、長崎はクリアのボールを拾ったモヨがクロスを入れるとGK市川は飛び出したが触れず、裏に詰めていたエジガル・ジュニオに悠々とゴールに押し込まれてしまった。

このゴールに気をよくしたのか、長崎は立て続けに攻め立て横浜ゴールを脅かしたところで前半終了。

攻撃に手を入れる

後半横浜は小川と中村を下げて、カプリーニと村田を投入。より攻撃的にいくメッセージである。先に失点してしまい、小川の前線からの運動量やプレスに意味がなくなる事を見越してライン間でボールを受けて決定機を作れるカプリーニ、左サイドのドリブルでチャンスを作る村田。
カプリーニは仙台戦を最後にスタメンから遠ざかっていることに疑問の声があがっている。指揮官の立場からすると守備が安定していない部分と、もう1つは彼をスタメンで出してその後に出る選手にインパクトがない事で彼を控えで使っているのかもしれない。長崎はエジガル・ジュニオに代えてファンマ・デルガドを入れてもスキルの違いはあるにせよクオリティは下がらない。横浜はカプリーニを下げてもチャンスメイク出来る選手がどの位いるのだろうか。勝つために攻撃的な選手を控えにしないといけないという矛盾を感じている。

村田は投入直後から彼の見せ場であるドリブルで仕掛け続けた。ただ対面する長崎・ヨモを崩し切るまでは至らない。対面してフェイントから仕掛けてクロスをするのが精いっぱいで、フェイントしてボールをずらしてタックルで追いすがるところをさらにボールをずらして突破できるようになれば本物。ドリブルの機会が多かったが、抜き切るところまでは出来ず。むしろもっと味方とのコンビネーションで対面するディフェンダーをグループで交わすことを考えても良いと思う。井上との三角パスで抜けた時は連携が構築できつつあるのかと色めき立ったのだが。

その井上は中野と交代。これはボールを運べる選手を選択したのだろう。1ボランチにして、中野も相手を剥がすことを求めたと思っている。相手が4バックと2ボランチで構えた時に井上では崩せないと判断したと思うが、それでもしっかりとブロックを組んだ相手には中々効果は見いだせないまま時間だけが過ぎていった。

カプリーニはやや孤立しがちだが孤軍奮闘してシュートを放つ積極性を見せ、村田もクロスを入れ続けたが決定機と呼べるチャンスを作り出せないまま敗戦を迎えた。

カモメのように

横浜にとってきっと最後となる諫早での試合は敗戦。上位対決で1-0での敗戦は受け入れられないが、それでも大敗しなかったし守備は失点シーン以外は相手を抑え込んでいた。
どうしても攻撃陣に目がいってしまう。ブロックをしっかり敷いた上位チームを崩すのは難しいが、チャンスらしいチャンスが消えてしまうのはなぜなのだろう。戦い方に拘っているから。ポジションを守りすぎているから。精度の低いプレーが多いから。選手たちはサボっている訳ではなく、非常に真面目だがそれが悪い方向に出ているのだろうか。

一つ言えるのは、選手が個人の能力だけで勝負をさせられている点。チームやグループとしての方向性がないから、ボールを受けてから考えてしまっているシーンが多い。村田に大きなサイドチェンジでパスが出されても、彼に寄って行ってデコイになる選手もいないし、寄って行ったは良いが村田との意思疎通も良くないので次どんな形でパスが出てくるのか村田も予想もついてない。奪われない為に一番楽なところに渡す代わりに、ゴールのチャンスは遠のくばかり。四方田監督は攻撃を構築できない点をどう改善していくのか。時に相手が予想しないプレーをする、スカウティングにない事をする、崩し切らなくてもシュートを打つ。こんな素人でも言える事はプロなら当たり前でわかってるし、その上で戦っている事は承知している。だからこそそれが表現されないのが悔しい。

順位はまだ4位。ただこの敗戦で徐々に上位と差が出来始めている。個々人の能力で勝ち切れるのもシーズン序盤だけ。戦術が深まった時にどうゴールを奪うのか。カモメは海の掃除屋さんとしても知られている。なんでも食べてしまうからだ。貪欲に勝ち点をどんどん食べつくしたい。カモメのように。

P.S. 横浜FCシーガルズ勝利おめでとうございます。かもめだけに。

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