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2023年J1第25節横浜FC-横浜F・マリノス「It's a Show time」

さて、横浜ダービーである。4月のダービーではアウェイとして乗り込んだ横浜はアウェイエリアも閑散とし迫力を欠き選手の後押しが出来ず、昨年J1王者のマリノスに5-0と返り討ちにあった。チームとして一番調子が悪い中で、ダービーをきっかけにチームの状態を上向きにすることも出来なかった。
それでも横浜ダービーはやってくる。2連敗中でも下を向いている暇も余裕もない。ただ純粋に、ホーム三ッ沢で私たちは何者なのか。「俺はシン横浜ではない、本当の横浜だ」と言い続けられるかどうか。この張り合いこそが横浜ダービーである。だからその時の順位や内容は関係ない。結果的にどっちが勝ったか。平たく言えば勝った方が横浜なのである。

フラグを立てる

この試合横浜のバックスタンドからゴール裏にかけて至るところで旗が見かけられたはずである。ホームのみならずアウェイでもゴール裏でフラッグをレンタルしていた活動に、クラブも同調しこの試合ではバックスタンドでもその旗が風に棚引く姿が見られた。クラブができた当初のLフラッグからスポンサーが過去の試合で配布したものや、「挑戦」と10年以上前のスローガンが記されたもの等歴史を再確認できたシーンでもあった。
フラグを立てるというのは、一種の意思表示であり示威行動である。サポーターがフィールドに旗を立てることは出来ないが、スタンドから幾重にも靡かせることは自身の主張である。自分はどっち側だと宣言するのである。

この試合、マリノス側は彼らの伝統の応援方法である傘は禁止され、旗を掲げることになった。そして横浜に残したメッセージが、以下。

こんなフラッグを出してくるのがビッグクラブとしての余裕と傲慢さなのだろう。マリノスというだけで気が大きくなってしまう。横浜を全て手中にあるような気分なのだろう。私たちが地方のアウェイゲームに行って横浜のサポーターといえば、大抵「マリノスさんね」と返ってくる経験をしているのは私だけではないだろう。
それがマリノスらしさでもある。横浜といえばマリノスと認知されていることで、自尊心は満たされる。私はその一員なんだと。

でも、彼らが横浜ダービーを意識しないのであれば、淡々と挑戦者を退けることに注力すればいいのにと私は思っている。8.11を出すということは、最後の横浜ダービーと彼らが銘打ったゲームもこのゲームも横浜ダービーとしてビンビン感じているということになる。

三ッ沢に引き込む

横浜は前半7分に井上から山下へと繋がった瞬間にカウンター発動。前線に4枚が一斉に走り込み、伊藤翔がラストパスを受けるとマリノスGK飯倉との1対1を制すればゴールというシーンもトラップをミスして決めきれなかった。そして直後の前半9分のコーナーキックから失点して嫌な流れになりかける。

マリノスは、これがダービーの魔力なのか、はたまた王者としての衿持なのか、見下した結果なのか、追加点を狙って横浜陣内に積極的に攻め込んだ。ただし、攻撃のリズムはほぼ一定で特に中央からの仕掛けは、アンデルソン・ロペスは機能しているとは言い難く、縦パスは横浜の選手が体を張って遮断。ラインをやや下げながら裏のスペースを消したサイドでの攻防は徐々にマリノスはリズムを作れなくなっていく。
マリノスは長いボールがサイドのエウベル、宮市に入った時だけ横浜のゴールに向かったが、GK永井をはじめとして高い集中力でそれ以上の失点を許さなかった。

第23節の福岡戦では、福岡は先制点を挙げた後に横浜のプレスがないと最終ラインでボールを回し、横浜がラインを押し上げたところで裏にロングボールを蹴ってそこで一つブレイクを起こして、アタッキングサードでセカンドボールを回収できれば一気に攻め、横浜がそれを回収すると高い位置からロングカウンターをプレスで止めつつ、最終ラインはスペースを警戒する戦いを徹底した。ボールを持たされた横浜は最後まで福岡を攻略できないまま無得点で敗れた。
満席近くの13000名以上が来場したこのゲームは、否が応でも選手たちのテンションも高くなるし理性的な判断を狂わせる。福岡のそれとは違い攻撃を繰り返したマリノス。ボールは何となくマリノスが握ってはいるが、怖さは次第に減っていった。

風が吹き始める

そうしたマリノスを尻目に一気呵成にゲームを動かしたのは横浜だった。前半36分、コーナーキックをマリノスGK飯倉がパンチングで弾き出したところに待っていたのは林。ワンバウンドしたボールにタイミングを合わせて右足を振りぬくと美しいカーブがかかりマリノスのゴールのサイドネットの内側を捉えた。両チームの選手も一瞬反応が止まるような素晴らしいゴールだった。これまで林は左足でシュートを打つことが多かったが、右足でボールを擦るようにアウトサイドで叩いたのが力が抜けて絶妙な軌跡を生んだ。

先制点を許して、「やっぱり今夜も横浜は負けか」という空気を吹き飛ばすには十分なゴールになった。疑惑のPKでも、ラッキーなゴールでもない。目の覚めるミドルシュートはマリノスを狼狽させた。

It's a sho time

後半7分には、ロングボールをユーリララがマリノス・エドゥアルドと競ってこぼれたボールを胸でトラップするとダイレクトボレーで伊藤翔がゴールを撃ち抜く。この間、クリアのボールは頭上高く上がったのだがマリノスの選手はエドゥアルドを除くとほぼ棒立ち状態で横浜の選手をブロックするでもなく、クリアのために積極的に落下点に入るでもない曖昧な状態でボールを見送るばかりだった。これが集中なのか、気持ちなのか、あるいは体力の問題なのかはわからないが、横浜の方が明らかにゴールを渇望していた。

その10分後には、山下のカウンターに途中で積極的に追うのを止めてしまうマリノス喜田と渡辺。エドゥアルドの股を抜いて右サイドを走る伊藤へパス。折り返しのクロスがエドゥアルドのオウンゴールを誘って3点目。このオウンゴールは、いつか話した負けている時にさらに惨めさを感じてしまう失点そのもの。選手は必死だが、その失点の仕方が良くないと失点そのもの以上のダメージを負ってしまう。オウンゴールの怖いことは、失点そのものではなく、その後の何をやっても上手くいかない雰囲気を醸成することにある。
マリノスは3失点を食ってからの選手交代というのも遅さを感じていた。3失点目の後は撤退戦を想起させる。どうこれ以上悪くならずに終われるかと受け取っていた。怪我人が多いのは事前に聞いていたが、それ以上に運動量も少なく単調なゲームに終始していたのは、意外である。

後半シュートは3本に終わったマリノス。終盤になってもサイドからのクロスに終始しており横浜としても時間が流れていくのを待っているばかり。マリノスのサポーターも同じチャントを繰り返していた。いつか、横浜も後半45分耐久ブルビアンコしていたのを思い出した。それをしても選手を鼓舞出来ない。出来るのは、自分たちが頑張ったという高揚感を満たすことだけだ。

マテウスに変えて後半44分守備固めで吉野を投入。これが当たってしまうのだから、四方田監督も笑いが止まらないだろう。後半アディショナルタイムに自陣でユーリと吉野でプレスしてボールを奪うと、吉野は途中出場のマルセロ・ヒアンにボールを預けて前線に駆け上がる。
ヒアンも時間を使おうとサイドに逃げていこうとするが、吉野のポジションがよく、マリノス・上島の股を抜いてパスを通す。このボールを吉野はFWのごとくダイレクトでゴールに流し込んで4点目。

素晴らしいゴールで2点、オウンゴールで相手の心を折り、ダメ押しの4点目。理想的な展開で横浜は4-1とマリノスを下した。ありがたいことに8.26は忘れない日になった。

革命のプロモーションに

2007年の三ツ沢で勝ったダービーは最高だった。1999年JFL参入してそこから8年。戻ってきて最初の横浜ダービー、そして勝利。最高だった。が、それを超える感動とインパクトがこのゲームにあった。注目される中で、横浜強しと思わせた。今季初めての逆転勝利、そして4得点。

横浜ダービーで首位のマリノスを大差で撃破しただけでなく、試合ではユニフォームを配布したりサポーターのメッセージを集めたりとこのゲームに力を集中的にかけた。

サポーターもこれまでと違って非常にクリーンな応援だった。むしろ敗戦後にゴール裏がキャプテン喜田を囲んで責めるマリノスの姿こそ異常に感じてしまった程だ。
マリノスへのブーイングはあれど、細かい野次にチャントを被せて打ち消して、ネガティブな気持ちの拡散を止めていたし、失点しても矢印を自分たちに向けていた。マリノス憎しは仕方ない。でも、以前のような直情的で下品な表現は見られなかった。これが一種クラブが望んでいた姿なのであれば、ユニフォーム着用ルールや公式コールリーダーとか用意しなくても達成できている。クラブもこの1試合に向けて準備し、サポーターも注力した。試合結果も最高の形になっただけでなく、横浜の試合は楽しいぞという体験を共有できた。

横浜は青と白の革命の途上にいる。試合内容や成績だけでなく、こうした応援や運営をはじめとする観戦体験をどう向上させていくか。今まで失ってきたものは大きすぎたが、このゲームはエポックメイキングな試合になる可能性を秘めている。その位、今までの横浜がガラリと変わっていた。この光景は革命への最高のプロモーションにもなった。

それでもゲームはまだ信じていない自分がいる。2021年徳島に5点取って大勝した時に「横浜は降格圏から抜け出せる」「ここにいるとは思えない」そう周りから言われた。でも、その次の湘南戦は逆転負けをして実質降格が決まってしまった。この試合に勝っても結果降格では意味がない。

このゲームの勝利は嬉しいが、9月は首位争いをしている名古屋、目下のライバル柏との対戦が控えている。本当に青と白の革命を望むなら、次のターゲットは自力残留である。クラブ史上まだなしえたことのない残留を果たすことは、「どうせ落ちるんだろう」「弱い方の横浜」「降格候補筆頭」と言われた圧力をひっくり返す革命である。

その為にはまだまだ人が必要だ。一人でも多くの人が来て、見て、感じることが歴史を紡ぐ。ダービーだから来場した。それもよいけど、この革命の歴史の目撃者にならないか。


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