深読み セプテンバー・ソング 前篇「September」は9月に非ず
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2019年9月1日(日曜)
スナックふかよみ
ふぅ~
マイケルさん、あたしの『September Song』どうだった?
英語の発音とか大丈夫かな?
ノープロブレム!
深代サン、素晴らしい!
短期間でよくぞここまで仕上げました!
日本代表もビックリです!
あ~よかった!
聴いた岡江クン? さすが、あたしでしょ(笑)
・・・・・
どしたの?
もしかして…
なに?
この歌の「September」のことを…
本当に「9月」のことだと思ってる?
・・・・・
はぁ? なに言ってんの?
「セプテンバー」は「9月」に決まってるでしょ?
「September」は「9月」じゃない…
『September Song』は「9月の歌」じゃないんだ…
もう!
JPクーパーの『September Song』は2016年の9月にリリースされた、れっきとした「9月の歌」なんだからね!
15歳の頃に大好きな人と過ごした想い出の日々を「人生の夏」に喩えて、それが過ぎ去ってしまった「人生の9月」を切なく歌うのよ!
確かにその通り…
JP Cooper の『September Song』は「2016年9月16日」にリリースされた…
サビでも「You were my September song」と歌われる…
だけど「9月の歌」じゃないんだよ…
さっきから何を馬鹿みたいなこと言ってるの?
「キミはボクの9月の歌」って意味じゃん。
岡江クン、あたま大丈夫?
ああ大丈夫だ。
いつも以上にキレッキレだよ。
じゃあ説明して頂戴。
「September Song」が「9月の歌」じゃない理由を。
うん…
マイケルさん、今からちょっと込み入った深読みが始まりますが、よろしいでしょうか?
わたしは構いません…
ところで、もしや…
あなたはあの深読み名探偵…?
はい。僕の名前は岡江 門…
人呼んで、深読み名探偵おかえもん…
Oh, my…
あなたが、今年の春に世間を騒がせた熱海の殺人事件を解決した、あの深読み名探偵おかえもんでしたか…
噂はかねがね聞いていましたよ…
隠された真相にリーチする深読みの技は、もはや芸術の域だとか…
そんな風に言われてるんですか…
なんだか照れるなあ…
マイケルさん、ラインアウトじゃないんですからね。
へ?
あまりこの人を持ち上げないでくださいってこと。
岡江クンって、すぐ調子に乗っちゃうんだから…
この夏なんてそれで大変な目にあったんですよ。
『海獣の子供』を観に行ったら、突然「海獣の子供はライ麦畑の子供だ!スプートニクの恋人はライ麦畑の恋人だ!」って始まって…
深読みが終わったのが3日目の朝(笑)
For Christ's sake…
それだけは勘弁してください…
わたしは明日、大事なミーティングが…
安心してください。今回はそこまでかかりません。
『September Song』の「本当の意味」についてだけですから。
毎回そう言いながら始まって、結局はそれだけじゃすまなくなるんだけどね(笑)
失礼な。じゃあ今回は簡潔に終わらせてみせよう。
まずは『September Song』のオリジナル・ダウンロード・バージョンのミュージックビデオを見てくれたまえ。
こんなドラマバージョンのMVもあったんだ。おもしろい。
でもなんだか…
いや、気のせいよね…
言ってごらん。
気のせいじゃないと思うから。
うん…
なんだかね、初めて観たような気がしなかったの…
不思議な既視感があって…
特に、あの屋上が…
これじゃない?
あっ!そうそう!なんか似てない!?
確かに両者の「屋上シーン」はよく似ている…
後ろに映る「ビルの模様」とかね…
ビルの模様?
しかも、それだけじゃないんだ。
JPクーパーの『September Song』は「2016年9月16日」に発表された。
そして米津玄師の『LOSER』は「2016年9月15日」に発表された…
あ!ビルの模様…
そして発表がたったの1日違い…
なにこれ?
JPクーパーと米津玄師はどういう関係なの?
・・・・・
おそらくJPクーパーと米津玄師は…
個人的に何のつながりもないだろう。
何のつながりもなくて、ここまで似ちゃうことってある?
あると思うよ。
元ネタが一緒なら…
元ネタ?
思い出してほしい…
熱海で僕は米津玄師の『LOSER』に隠された秘密を解き明かしたよね?
あ、そうだった…
あの歌の中で米津玄師はイエス・キリストを演じていたのよね…
あの米津玄師の印象的なダンスは、約3年半にわたるイエスの公生涯をダイジェストで表現していた…
荒野の試練と洗礼者ヨハネによる洗礼から、ヴィア・ドロローサ(苦難の道)を経て、最後はゴルゴダの丘での十字架刑…
同じようにイエスの生涯を一連のダンスにした『雨に唄えば』の『Singing in the Rain』の影響を色濃く受けたものだ…
・・・・・
そして『LOSER』の公開には、こんな経緯があった…
突如「September の14日」に米津玄師から公開がアナウンスされ…
翌「September の15日」に渋谷で大勢の観衆を集めて「野外上映」という形でお披露目されたんだ…
「September の15日」じゃなくて「9月15日」でしょ?
なんでルー大柴みたいに中途半端に英語使うの?
だから「September」は「9月」ではないって言ってるでしょ。
「September の15日」とは…
「第7の月の15日」という意味なんだ。
第7の月? なにそれ?
「Nisan(ニサン)」のことだよ
つまり「ニサンの15日」だ…
に、ニサンの15日!?
イエスが最後の晩餐をやって、ユダに裏切られて、十字架にかけられた日じゃん!
その通り。
だから米津玄師は、わざわざその日に渋谷の屋外で、しかも大勢の観衆の前で公開上映したんだよね…
まさにゴルゴダの丘での公開処刑みたいに…
『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ
でも、ちょっと待って…
どうして「September」が「第7の月」なの?
どうして?どうして?
「September」の「Septem」とは…
ラテン語で「7」のこと…
え?
英語の「seven」の語源です…
つまり「September」は、元々の意味が「第7の月」なのです…
10月の「October」がタコ足の「8」で、11月の「November」がナインの「9」と同じこと…
あ、なるほど。確かに数と呼称がズレてるもんね…
だけどマイケルさん、こういうのも詳しいんだ。
わたしが生まれたクライストチャーチでは、この程度のラテン語の知識は普通のことです。
でもさ、岡江クン…
どうして「第7の月」が「ニサンの月」になるの?
「ニサンの月」って、うちらの暦では3月の途中から始まる月でしょ?
もう忘れたの?
『スプートニクの恋人』の解説の時に、現在のユダヤ暦はグレゴリオ暦の9月から新年が始まるって話をしたよね?
ちょうど9月のこの時期を、ユダヤ暦では「第1の月ティシュリー」と呼ぶ。
太陰暦だから始まる日付は毎年前後するけど、ほぼグレゴリオ暦の9月から「第1の月ティシュリー」は始まるんだ。
思い出したわ…
その最初の日、つまりうちらの「元日」に当たる日にユダヤ教徒は…
橋の上とか水辺に行って、ポケットから何か要らない物を出して、それを水の中に捨てるのよね…
その通り。
そして村上春樹は、それを『スプートニクの恋人』でネタに使った…
夏休みが終わって「二学期の最初の頃」に「橋の上」で「ポケットの中にあった要らない鍵」を「川の中へ捨てた」のよ…
ユダヤ暦の新年祭り「ローシュ・ハッシャーナー」を再現するために…
そしてユダヤ暦の「第1の月ティシュリー」から数えて7番目に当たるのが「第7の月ニサン」なんだ。
だから『September Song』とは「ニサンの月の歌」という意味…
つまり「イエスが10日にエルサレムに入城し、15日に処刑され、17日に復活した月の歌」という意味になっているというわけ。
まあ…
そういうことだったのね…
ちなみに「麦の収穫時期」と「出エジプト」が起源の「ユダヤ宗教暦」では「ニサン」が第1の月で「ティシュリー」が第7の月になる。
行政や経済活動で公的に使われるカレンダーは9月スタートで、宗教カレンダーは3月スタートなんだよね。
キリスト教の教会カレンダーもこれらのユダヤ暦がもとになっているから、覚えておくといい。
「啓典の民」たちが作る芸術作品を理解する上では欠かせないから…
暦に「第7の月」が2つもあるって、ややこしいわね…
日本だって「旧暦」があるでしょ。グレゴリオ暦とズレてる暦が。
確かにそうね。
それにしても、JPクーパーも米津玄師も「September」を「第7の月ニサン」として使っていたとは思いもしなかったわ…
あの奇妙な一致は、そういう理由だったのか…
二人ともよくそんなことを思いついたわよね。すごい(笑)
このトリックというかアイデアは、二人のオリジナルではないんだ。
実は元ネタとなった作品がある。
え?そうなの?
それじゃあ、JPクーパーの『September Song』の歌詞を解説しながら、元ネタになった作品についても話すとしよう…
深代サン…
なあに?
今度は「十四代」のリポビタンD割りをください。
え?マイケルさん…
「十四代」って日本酒よ…
リポDは魔法の水。何にでも合うんです。
深代サンも岡江サンも、一杯どうぞ。
すみません、いただいてばかりで…
だけどほんとにマイケルさんはリッチだなあ…
ふふふ…
つづく
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