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深読み 村上春樹 スプートニクの恋人

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第23話「ポール・ニザンと6ダースのコンドーム」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第23話「ポール・ニザンと6ダースのコンドーム」

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スナックふかよみ にて

では『スプートニクの恋人』に戻ろうか。

次は「ぼく」と「すみれ」の出会いのシーンだ…

五月の連休明けの月曜日、大学正門の近くのバス停留所で、ぼくが古本屋でみつけたポール・ニザンの小説を読んでいると、となりに立っていた背の低い女の子が背伸びをするような格好で本をのぞき込んで、どうして今どきニザンなんか読んでいるのかと質問した。ものの言い方はなかばけんか腰

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第22話「ラ・ボエーム後篇~私の名はミミ~」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第22話「ラ・ボエーム後篇~私の名はミミ~」

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スナックふかよみ にて

ロドルフォは自分の「自己紹介なぞなぞソング」をバッチリ決めた。

「僕は一言で言うとペトロです」とね。

そしてミミに向かって「今度はキミの番ですよ。キミは誰?」と煽る。

ミミといえば萩原よね。

日吉だろ。

わたしは戸山です。

何の話をしてんだよ。

春木、お前バカじゃねーのか?

わたしがバカなのではありません。

世の中がバカなのです。

なに

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第21話「ラ・ボエーム中篇~冷たき手を~」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第21話「ラ・ボエーム中篇~冷たき手を~」

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スナックふかよみ にて

では、サリンジャー『THE CATCHER IN THE RYE(ライ麦畑でつかまえて)』の元ネタとなったプッチーニ『La Bohème(ラ・ボエーム)』について簡単に解説しよう。

『THE CATCHER IN THE RYE』の「解釈」である『スプートニクの恋人』にとっても『ラ・ボエーム』は重要な作品だからね。

面白くなってきやがったw

でも岡江

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第20話「ラ・ボエーム 前篇」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第20話「ラ・ボエーム 前篇」

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スナックふかよみ にて

どしたの?岡江クン…

この曲の歌詞って…

・・・・・

おいおい、また脱線かよ。

岡江君、キミってやつには本当にまいっちまうぜ。

さっさと話を進めようじゃないか。

そうよ。まだチャプター1の半分あたりなんだから。

このままじゃ今夜中に終わらないじゃないの。

うん…そうだったね…

じゃあ引き続き、すみれの作業風景の描写を見ていこう…

すみれ

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第19話「マルボロの箱」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第19話「マルボロの箱」

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スナックふかよみ にて

パチパチパチパチ!(拍手)

すごーい!かっこよかったー!

二人とも息ピッタリ。やっぱりホントは馬が合うのね(笑)

まあ、なんだかんだで長い付き合いだからな。

それに俺たち二人は、若い頃から音楽と関わり合ってきた者同士…

そうなの?

俺はイギリスでレコードデビュー寸前まで行ったし、春木は音楽を流す店をやっていた。

若い頃はお互い、音楽漬けの生活

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第18話「スナフキンのマグカップ」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第18話「スナフキンのマグカップ」

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スナックふかよみにて

では、すみれの創作風景の描写を見ていこう。

 夜の十時になると彼女は机の前に座る。熱いコーヒーをたっぷり入れたポットと、大きなマグカップ(ぼくが誕生日にプレゼントした。スナフキンの絵がついている)と、マルボロの箱と、ガラスの灰皿が前にある。もちろんワードプロセッサーがある。ひとつのキーが、ひとつの文字を示している。

プンプン臭うな。

また?

確かに「

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第17話「吉祥寺の一間のアパート」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第17話「吉祥寺の一間のアパート」

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スナックふかよみ にて

♫わたし~は あ~いの~ すいちゅ~うか~♫

ご清聴ありがとうございました。

パチパチパチパチ(拍手)

男の人が歌っても、やっぱりいいわね、この歌は。

そもそもこの歌の主人公は「男」だからな。

「バラ色のワイングラス胸に注いでください」は「聖杯」のこと。

そして「レモンひとつ胸にしぼってください」は「酸っぱい葡萄酒」のことだ。

作詞した五木寛

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第16話「吉祥寺、井の頭公園、シューベルトのシンフォニー、バッハのカンタータ」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第16話「吉祥寺、井の頭公園、シューベルトのシンフォニー、バッハのカンタータ」

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スナックふかよみ にて

では、続いてのパート「すみれと吉祥寺」を見ていこう…

ここも非常に興味深い…

 彼女は吉祥寺に一間のアパートを借りて、最低限の量の家具と最大限の量の本とともに暮らしていた。昼前に起きて、午後には山巡りの行者みたいな勢いで井の頭公園を散歩した。天気がよければ公園のベンチに座ってパンをかじり、ひっきりなしに煙草を吸いながら本を読んだ。雨が降ったり寒かったり

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第15話「アリー my love」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第15話「アリー my love」

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スナックふかよみ にて

それでは歌います…

ははうえさま… 猫のペトロ…

天国で聴いてください…

この歌、ちょー泣ける…

・・・・・

岡江クン、どうしたの?

いや… ちょっと気になることが…

杉の木の上に光る星…

そして、いなくなる子猫…

この歌詞って…

さあさあ!寄り道はいいから話を進めようぜ!

スプートニク、スプートニク!

あ、そうでした…

・・・・

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第14話「ははうえさま」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第14話「ははうえさま」

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スナックふかよみ にて

「何だかよくわからない存在である聖霊のあなたに聞いたのが間違いだったわ。天の父しか知らないことなのに…」ってことね(笑)

そういうこと。おもしろいよね、村上春樹のジョークは。

そして次に「すみれ」の生い立ちが詳しく語られる。

人々を虜にするハンサムなパパの登場だ…

 すみれは茅ヶ崎で生まれた。家は海岸のすぐ近くにあって、ときどき砂混じりの風が窓ガラ

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第13話「バナナ・ダイキリ」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第13話「バナナ・ダイキリ」

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スナックふかよみ にて

では続くシーンを見ていこう。「すみれの性欲」や「父」について語られる場面だ。

語り手の「ぼく」は「すみれの恋」について、まずこう説明する。

 ミュウに髪を触られた瞬間、ほとんど反射的と言ってもいいくらい素早く、すみれは恋に落ちた。広い野原を横切っているときに突然、中くらいの稲妻に打たれたみたいに。それはおそらく芸術的天啓に近いものであったにちがいない。

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第12話「赤坂の高級ホテル」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第12話「赤坂の高級ホテル」

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スナックふかよみ にて

では『スプートニクの恋人』チャプター1の続きに戻りましょう…

そうそう。まだチャプター1の半分くらいだった。

まだまだ先は長いわね(笑)

すみれとミュウによる「ビートニク/スプートニク」の会話シーンは、ミュウがすみれの髪の毛をくしゃくしゃにすることで終わる。

そしてその後に、印象的なイメージについて語られるんだ。

この作品における非常に重要なイメ

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第11話「夜明けのMEW」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第11話「夜明けのMEW」

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スナックふかよみ にて

で、岡江君は… 佳世実ちゃんと付き合ったの?

・・・・・

佳世実ちゃんは…

男の人が… ダメなの…

え?

佳世実ちゃんは、レズビアンなのよ…

マジで?

岡江クンは、それがわかっているのに、佳世実ちゃんのことが忘れられないの…

ずっと心の中で想い続けているのよ…

あたしと二人でいる時も、岡江クンはあたしといるんじゃなくて…

佳世実ちゃんと

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『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第10話「さくらんぼの実る頃」

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第10話「さくらんぼの実る頃」

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フランス、ブルゴーニュ
佳世実のホテルの庭にて

本当に素敵なお庭…

あの鳥たちにとっても、ここは楽園ね…

あれはウグイスでしょ… あっちのは何という鳥かしら…

あ!さくらんぼ!

取って食べちゃっても大丈夫かな…

誰も見てないし…

よし…

あらあら。お行儀の悪い子ネコちゃんね…

え!? あ… 佳世実さん…

まだ熟してないわよ、そのサクランボは…

何事も急いてはダ

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