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第17回:HIS MASTER'S VOICE 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

さて、前回はディクソン巡査とABBAの『チキチータ』について解説したね。

未読の方はコチラをどうぞ。

この後ディクソンは、ウィロビー署長の自殺を聞かされて気絶するんやったな。

倒れるところはカットされてるが、その時に発した言葉はおそらく「Abba, Father!」だ(笑)

そしてセドリック巡査部長に介抱され、ディクソンはトイレで泣いた。

セドリックは激しく動揺している他の警官たちを落ち着かせるために、ディクソンを残してこの場を去る。

ひとりになったディクソンは様々なことを思い出していた。そして彼の中に「やり場のない怒り」がこみ上げてくるんだ。

そしてBGMにMONSTERS OF FOLKの『HIS MASTER'S VOICE』がフェードインしてくる…

あの曲はかなり長く流れていたね。

せやな。トイレシーンから、殴り込みシーン、そしてまた署に戻るまでずっと流れとったで。

4番まである歌詞のうち、3番の途中までが流れるんだ。

しかもセリフはほとんどなく、バック・グラウンド・ミュージックというよりメインの音として流れるんだね。

確かにそうだった。何か意味があるのか?

脚本・監督のマーティン・マクドナーは、あの歌の歌詞で様々なことを説明したのだ。

多くの観客が見逃したり聞き逃していた非常に重要なことをな…

観客が見逃していた重要なこと?

ディクソンのMASTERであるウィロビー署長の「レッド・ウェルビーを病院送りにしろ」という指示だよ。

以前、現場検証シーンの解説で話したよね?

ウィロビーがディクソンに言った命令が「どちらにもとれる」ようになっていたことを…

Lay off that Welby guy
レッド・ウェルビーは放っておけ
レッド・ウェルビーを仕事が出来ない状態にしろ

第11回だな。

ディクソンはトイレであの「声」を思い出したのだ。

なるほど、そうゆうことか…

あの場面での重要なダブルミーニングを見落としてしまった人たちに向けた歌詞なんだな…

そういうこと。

では曲を聴いてみようか。

まずセドリック巡査部長が警官たちに話している声がオーバーラップされる。

これも非常に面白いことを言ってるね…

That the best thing, the only thing, to honor that man's memory right now, is to go to work. Is to be a good cop. Is to walk in his shoes. Is to do what he did, every day of his life. Help people.

普通に訳してしまえば「これまで通り職務に邁進し、ウィロビー署長がそうだったように、人々のために汗を流す警察官であれ」という内容だ。

だけど、これがディクソンにとっては別の意味になっているんだよ…

「最も重要なのは、偉大なる男が語ったことを今すぐ思い出し実行することだ。職務に忠実であれ。彼の立場になって行動しろ。生前彼が指示したことをやれ。人々のために」

うわあ…

最後の「Help people」の「人々」とは、ミルドレッドが出したスリー・ビルボードに対し精神的苦痛を訴えてる人々のことだな…

だからセドリックの追悼文が、あそこまで意味有り気にフィーチャーされるのか…

その通り。ちゃんと深い理由があったのだ。

この『スリー・ビルボード』という映画は、延々と「勘違い」を重ねる悲喜劇だからな。

そして『HIS MASTER'S VOICE』の歌詞も凄い。

ディクソンが殴り込みの準備をし、広告代理店の1階のドアを破壊するところまでに1番が流れる…

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