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深読み探偵おかえもん引退作品『BACK TO THE FUTURE(バック・トゥ・ザ・フューチャー)』第7話「落雷」


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時計台広場のシーン…

選挙カーが「RE ELECT」を叫び、マーティは「H」のことで頭がいっぱいだった…

いつの時代も若者はそう…

マーティの母ロレインは「私たちがティーンエイジャーの頃は異性と一緒にいたいなんてことを考えたこともなかった」と説教していたけど、もちろんそれは嘘だ…

「H」に前のめりなマーティは、「H」に慎重なジェニファーにたしなめられるが、お構いなしでベタベタし始める…

そして二人がキスをしようとしたところで、ヒル・バレー保存協会のおばちゃんに邪魔されてしまう…

おばちゃんは「lightning strikes(落雷)」の話を熱く語った…



今度は時計台広場シーンのダイジェストか?

さっきから突然ルー語になったり、いったい何が言いたいんだ?


時計台広場のシーンに隠された「もう1つの秘密」さ。

実はこの曲の歌詞が再現されているのだ。



Lightnin' Strikes?

Lou Christie(ルー・クリスティ)?


ルー・クリスティは1960年代に活躍した歌手だ。

『Lightnin' Strikes』はルーが初めてのビルボード全米1位を獲得した歌で、日本でも『恋のひらめき』という邦題でリリースされた。

ちなみにルーの歌のほとんどは、ルー・クリスティと Twyla Herbert(トワイラ・ハーバート)の黄金コンビによって作られた。



なるほど。

ヒット曲を連発したソングライターのコンビといえば、Lennon-McCartney(レノン‐マッカートニー)みたいだな。

いや、男女のペアだから Goffin-King(ゴフィン-キング)か。



通常、ポップソングのソングライターコンビといえば、年の近い2人のペアであることが多い。

まだメジャーになる前、若い頃から一緒にやっていたパターンが多いからだ。

だから男女のソングライターコンビは、ジェリー・ゴフィンとキャロル・キングのように、そのままプライベートでも親密になり結婚したりする。


日本のゲフィン-キングこと松任谷正隆と荒井由実もそうだった。

どちらも年齢差は3歳くらいだ。



しかしルー・クリスティとトワイラ・ハーバートは、ちょっと異なる。

異なるというか、明らかに異質のコンビだった。

まだ高校生だったルーと、ルーより22歳も年上のトワイラのコンビだったからだ。


Lou Christie & Twyla Herbert


女性の方が22歳も年上?

まるで親子、母と子じゃないか!



そう。まさに母と子だ。

ちなみにルーは高校生の時に初めてトワイラと会った際、何か運命のようなものを感じたという。

教会でオルガンを弾いていた彼女を見て、自分の人生は彼女無しでは成立し得ないと悟ったらしい。

そしてルーとトワイラは仲良くなり、2人で曲作りを始めた。

すると奇妙なことが起き始めた。


奇妙なこと? 何だ?


トワイラは「未来を知る女予言者」だったのだ。

彼女は最初からルーが現れることも知っていて、2人が仲良くなることも知っていて、ソングライターのコンビを組むことも知っていて、どんな歌をいつ出せば売れるのかも知っていた。

そうして実際に、全く無名の2人が作った歌が次々とヒットし、ついには全米1位を獲得するまでに至った。


ちょ待てよ…

未来を知っていた? 嘘だろ?


失礼な。このパパゲーノ様が嘘など言うか。

このコンビは本当に「ありえない」コンビだったのだ。

そもそも母と子のようなコンビが「Hに前のめりな男の子」の歌を作るなんて、当時の感覚ではハレンチ以外の何物でもなかった。

そのへんの倫理観は日本よりアメリカの方が厳しかったからな。


確かにそうだな…

まるで母と子のようなコンビが『LIGHTNIN' STRIKES』を作ったと思うと、ちょっと引くかも…

この2人は普通じゃない…


あの曲の歌詞の内容は、時計台広場のシーンそのものだ。

「H」のことしか考えていない「前のめりな男の子」と、まだ気持ちの整理が出来ていない「バージンの女の子」。

「前のめりな男の子」は過去の出来事や将来の夢まで持ち出し、不安でいっぱいの「バージンの女の子」に「H」を受け入れさせようとする。

だからタイトルは「LIGHTNIN' STRIKES」なんだな。



確かに歌詞は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の「時計台広場」シーンと重なる…

だけど「前のめりな男の子」が「バージンの女の子」に迫ったところで「また落雷」ってどういう意味だ?

なんか変じゃないか?


そうだっちゃ。



何が「そうだっちゃ」だよ。

「LIGHTNING STRIKES」は「女の子に怒られてカミナリを落とされた」じゃないだろ。

そもそも英語に「人が人を罰する・説教する」という意味での「カミナリを落とす」なんて慣用句はない。

人にカミナリを落とすのは神だけだ。


そう。カミナリを落とすのは神だけ。

そしてもちろん「LIGHTNING STRIKES」は「ひらめき」でもない。


そんなことはわかってるさ。

だけどなぜ日本のレコード会社の担当者は、あの歌詞の内容で邦題を『恋のひらめき』にしたんだろう?

どこにも「ひらめき」の要素なんてないのに。


そうかな?

邦題『恋のひらめき』は、そんなに悪くはないと思うぞ。


どこが「悪くない」んだよ。

歌詞の内容なんてまるで考慮せず、とりあえず恋愛ソングっぽく「恋の○○」にしただけじゃないか。


邦題『恋のひらめき』を考えた人物は、あんたと違って、少なくとも楽曲のコンセプトは理解している…

しかし「ひらめき」では、ルー・クリスティが意図したものとは別の受胎告知…

『コルトーナの受胎告知』になってしまうが…


『Annunciation of Cortona』


え?


まだ気がつかんのか。本当に鈍感な奴だな。

この歌には隠されたコンセプトがある。

だから Klaus Nomi(クラウス・ノミ)はこの歌をカバーしたのだよ。



クラウス・ノミ?

1970年代後半にデヴィッド・ボウイが演じていた宇宙人「地球に落ちて来た男」の召使を演じていた人だよな?



この歌が出たついでに聞いておこう。

男が世界を売った値段はいくらだ?


世界を売った値段?

世界に値段なんてつけられるもんか。

マスターカードみたいにプライスレスだ。



ふふふ。ボンクラめ。

お前の目は本当にドーナツホールだな。

男は「世界」を「銀貨30枚」で売ったんだよ。


たったの銀貨30枚? 世界はそんなに安くないだろ。


もういい。あんたに聞いた俺が馬鹿だった。

それじゃあ話を戻すぞ。

間違いなくクラウス・ノミは「LIGHTNING STRIKES」が何を意味するのか気付いていた。

だから数あるオールディーズナンバーから「わざわざ」あの歌を選んでカバーしたのだ。


気付いていたからカバーした?

どういう意味だ?


クラウス・ノミといえば「白と黒のタキシード」を着て「高音のファルセット」で歌うスタイルがトレードマークだった。

フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』にも「白と黒のタキシード」を着て「高音のファルセット」で歌うものが描かれているよな?


は?


ほら。いるだろ。

ワイヤーにとまって「落雷」を見ている「白と黒のタキシード」みたいな鳥が。



ええっ!?


『LIGHTNIN’ STRIKES』の歌詞は、天から神が雷のような光線を発しているフラ・アンジェリコの絵『受胎告知』を、別の形に言い換えたものなのだ。

あの絵は「過去の出来事や未来のビジョンを持ち出してまで何とか女の子にイエスと言わせたい前のめりな男の子」が「あまりにも急なことでまだ心の準備が出来ていないバージンの女の子」を一生懸命説得しているように見えるだろ?

まあ、実際その通りのシチュエーションなのだが。


『Annunciation』
Fra Angelico


確かにフラ・アンジェリコの『受胎告知』は「前のめりな男の子」が「バージンの女の子」を一生懸命に説得している絵…

つまり「LIGHTNING STRIKES(落雷)」とは…


天の父が下界の処女マリアへ放った聖霊の光だな。

「前のめりな男の子」天使ガブリエルの頭上をかすめながら通過している。


そんな、まさか… 信じられない…


ふふふ。歌詞をよく考えればわかることさ。

まず1番はこう始まる。


Listen to me, baby, you gotta understand
You're old enough to know the makings of a man


煩悩を消し去り、変な先入観なしで、この場面を思い浮かべてみろ。


あっ…



これを煩悩だらけの人間が聴くと、こうなってしまう。


俺の話を聞くんだ
ベイビー、わかってるだろ
君はもう十分お年頃なのさ
男の身体を知るにはね


不思議だ… そんな特別キワドイこと言ってないのに…


人間の「決めつけ」とか「固定概念」というのは本当に厄介なものだ。

だから続く歌詞も変な意味にとってしまう。

まるで狼が猫なで声で、怯える赤ずきんちゃんに迫っているように…


だけど邪念なしに考えれば…

優しい天使ガブリエルが、落ち着かない様子の処女マリアすぐ近くで、安心させようとしている風景…


Listen to me, baby, it's hard to settle down
Am I asking too much for you to stick around?


私の話を聞きなさい、めぐまれた女よ
突然のことで落ち着かないのはわかります
私はあなたに無理強いをしていますか?
近づき過ぎでしょうか?


いいぞ。あんたの雲った頭と目が澄んで来たようだ。

そしてサビ前にこう歌われる。

ポイントは「to the very end」を「エッチまで/Cまで」と限定しないことだ。

愛の最終目標は「エッチ/C」ではないからな。


Every boy want a girl he can trust to the very end
Baby, that's you. - Won't you wait? But till then…


男「男には女が必要なように、人の子には身籠る母が必要です。めぐまれた女よ、それはあなたなのです」
女「待ってください。私はまだ夫を知りません。だからその時まで…」



いいぞ。そしてサビだ。


When I see your lips begging to be kissed (stop!)
I can't stop (stop!) I can't stop myself (stop!)
Lightnin' striking again
Lightnin' striking again


キスをせがむ唇を見たら止められない?

この絵のマリアはキスして欲しそうには見えないが…


ふふふ。やはりここでつまずいたか。

まさに躓きの接吻だな。


は?


天使ガブリエルの目の前には「キスを求める者」が描かれている。

しかしまだ「その時」ではないから「ストップ!」と連呼されたのだ。

「LIGHTNING STRIKES」の中から…



天使ガブリエルの目の前…

「LIGHTNING STRIKES」の中…

あっ!


『Judas' kiss(ユダの接吻)』
Gustave Doré(ギュスターブ・ドレ)


そういうこと。

ルー・クリスティとトワイラ・ハーバートのソングライティングはおもしろいだろ?


おもしろいけど、まだ信じられない…


カヘッ、カヘッ、カヘッ(笑)

あんたは本当に疑い深い人間だな。

まるで森本レオみたいだ。


なぜ森本レオ?


間違えた。トーマスだ。



は?


さあ、2番に行くぞ。

2番もオモロイ仕掛けが隠されている。

あんたにそのトリックがわかるかな?



つづく




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