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「One for My Baby(and One More for the Road)」中篇~ジョニー・マーサー徹底解剖11

さて前回に引き続き、ジョニー・マーサーの名曲『One for My Baby』が最初に歌われた映画『The Sky's the Limit』(邦題:青空に踊る)を見ていきながら、この歌が「何を意図して作られたのか?」を探っていこう。

フレッド・アステア演じるFred Atwillは、極東アジア戦線の伝説的飛行部隊フライング・タイガーの「スーパー・エース」として名を挙げた国民的英雄だ。

久しぶりに一時帰国したにもかかわらず、同僚二人と共に軍当局による戦意高揚キャンペーンツアーに駆り出されてしまうが、「客寄せパンダ」にされることを嫌って列車から逃走。

ヒッチハイクでニューヨーク入りし、偶然見かけた雑誌カメラマンのJoan Manionに一目惚れしてしまう。

彼女の「夜のバイト先」であるナイトクラブにも付いて行き、帰り道に晩御飯を一緒に食べ、Fred Burtonという偽名を名乗り、そのまま彼女を家まで送り、翌朝なぜか彼女のアパートメントのキッチンでFredが朝食を作ってたところまで話したね。

映画の元ネタになっとる「イエスの最後の1週間」やと、日曜にエルサレム入城したイエスはエルサレム神殿を訪れ、その夜は郊外にあるベタニア村のマルタとマリアの家に泊まった。

FredがJoanの朝食を作っていたのは、ベタニア村のマリアが元ネタだね。

Joanの苗字はManionで、彼女には「Marion(マリア)」が投影されている。

ベタニアのマリアは、料理の手伝いをしないことで姉のマルタに怒られていた(笑)

そして二日目の「月曜日」は「宮清め」だったよね、トラちゃん…

ん?

トラちゃんことシナ虎之助さんの姿が見えないな。

どこ行っちゃったんだろう?

すまんすまん。

やっぱりジョニー正男を呼ぼうと思って電話してたんだが、あいつ、出やしねえんだ…

どうせまたディズニーランドにでも行ってるんだろうけどよ…

だから呼ばなくていいって!

前回この映画が「イエスの最後の1週間をベースにして作られている」と解説したんだけど、よくよくストーリーをチェックしてみたら「最後の五日間」だった。

つまり「エルサレムに入城した日曜から十字架で死ぬ金曜」までってことだ。

映画の中で晩餐会が「二度」登場するので、ちょっと混乱してしまったんだよね…

わかりやすくするために両者の対応表を作っておいたよ。

ご苦労様。確かに筋がそっくりだな。

バーで『One for My Baby』が歌われるのは、木曜の深夜ってことか。

つまり「ゲッセマネの祈り」にあたるわけだ。

ですね。

この『One for My Baby』という歌は、歌詞の中で時間が「三時頃」としか言及されないので、「ゲッセマネの祈り(午前3時)」にも「十字架での死(午後3時)」にもとれる。

本当にうまく出来た歌だ…

さて、月曜の朝にFredがJoanのアパートメントのキッチンに居たのには、彼が夜のうちにアパートの別の部屋を借りていたからだった。

仕事もしてないプータローなのに部屋を借りるお金があることに疑問を感じつつも、JoanはFredに説教をする。

もっと愛国心をもち、真面目に仕事をして社会に貢献しなさい、とね。

まさか相手がアメリカ軍きっての英雄だとは知らずに(笑)

「イエスがモデルの男に対し、仕事もしないで毎日フラフラしてると女が説教する」って構図は、ジョニー・マーサーの最初のヒット曲『LAZYBONES』と一緒だね。

だね。きっと欧米では定番の喩えなんだろう。

さて、Joanが出勤した後に何もすることのないFredは、彼女の仕事先にやってきてディナーデートを申し込む始末。

Joanは「明日うちのボスと面接するならOKよ」と答え、その夜は慰問活動のために軍人クラブへ向かった。

JoanとFredが軍人クラブで歌い踊っていると、運悪くFredが一緒にツアーを回っていたフライング・タイガーの同僚二人が現れ、その美人(Joan)を譲れと言ってくる。

Fredが拒むと二人は「彼女にお前の正体をバラすぞ」と脅し、恥をかかせるためにFredをテーブルの上で躍らせ、会場が騒然と…

テーブルをひっくり返すんじゃなくて、上で踊ってしまったのか!

とんだ「宮清め」だな(笑)

そして火曜日。JoanのボスPhil Harriman氏との面接の日だ。

Phil Harriman(ロバート・ベンチリー)

ちなみに「Harriman」という名前は「Harry man」のことで、「harry」は「悩ませる・苦しめる」という意味なんだ。

そして「Phil」とはギリシャ語で「愛する」という意味。

「Phil Harriman」で「愛する人を苦しませる人」という意味になっていて、これは部下のJoanにしつこく求愛していることを指している。

今風に言えばパワハラ&セクハラだね(笑)

さて、面接でHarriman氏は、仕事の話ではなくJoanのことばかり聞いてくる。

さらには「二年もプロポーズし続けているけどOKしてくれない」と悩みを打ち明け、どうしたらいいかとFredに相談までしてきた。

Fredは戦闘機乗り。金曜日には戦地へと旅立ち、再び生きて帰れるかは知れぬ身。Joanとのことは最初から「束の間の遊び」のつもりだった。

だから「そんな自分よりも出版社オーナーのHarriman氏のほうがJoanを幸せに出来る」とFredは考えた。

そこでFredはHarriman氏の求婚が成功するように作戦を練る。

そして今夜約束していたディナーデートを、Joanに内緒でHarriman氏に譲ることを思いつく。

Harriman氏の住むテラス付き高級ペントハウスで、ロマンチックなディナーをセッティングしてあげれば、さすがのJoanもイチコロだと考えたんだね…

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