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ゆっくり深読み 中島みゆきの『ヘッドライト・テールライト』その4


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では、いよいよ本題に入ろうか。

なぜ君の工藤静香は、中島みゆきのカバー曲『ヘッドライト・テールライト』のミュージックビデオの中で、『BATMAN: THE KILLING JOKE(バットマン:キリングジョーク)』や『JOKER(ジョーカー)』の物真似をしていたのか…




その件とフラ・アンジェリコの『受胎告知』に、いったい何の関係が?


『Annunciation』
Fra Angelico 


Andrea Mantegna(アンドレア・マンテーニャ)の『Crucifixion(磔刑図)』と同様に、この絵は多くのクリエーターにインスピレーションを与えているよね。

たとえば何があったかな?


えーと… まずは何と言っても…

René Clement(ルネ・クレマン)監督、Alain Delon(アラン・ドロン)主演の映画『Plein Soleil』でしょう…

邦題は…


太陽が、おっぱい!



小学生男子か…

邦題は『太陽がいっぱい』です…



「太陽がいっぱい」って邦題、変だよね。

『PLEIN SOLEIL』に出て来る「太陽」は1つなのに。


変なのは、あなたの方ですよ、ユル・ブリンナーさん…

この映画は、アラン・ドロン演じる主人公トム・リプリーが、マリー・ラフォーレ(Marie Laforêt)演じるマルジュにフラ・アンジェリコの画集をプレゼントするところから始まります…

そして、フラ・アンジェリコの絵に描かれた通りに、物語が進んでゆく…



その通り。

劇中でヨットの「舵」が象徴的に使われているのもフラ・アンジェリコの絵が元ネタだ。

あの「舵」は、フラ・アンジェリコがイエス・キリスト物語を35枚の絵に描いた『Armadio degli Argenti(銀細工職人の衣裳部屋)』の1枚目『Visione di Ezechiele(エゼキエルの幻視)』が投影されたもの。

ちなみに預言者エゼキエルは新バビロニア帝国のネブカドネザル2世によってバビロンへ連れて行かれて囚人生活を送っていた。

つまりポスターにも使われたこの有名な場面は、アラン・ドロン演じるトム・リプリーが「囚人」になることを暗示している。



この他にも様々なフラ・アンジェリコの絵が劇中で再現されていますが、やはり最も重要なのは『受胎告知』…

トム・リプリーがマルジュの部屋へ入って行く場面で、何度も再現されていました…

トム・リプリー(アラン・ドロン)とは天使ガブリエル、マルジュ(マリー・ラフォーレ)とは聖母マリアが投影されたキャラクターですから…



まあ、極めつけはラストシーンだよね。

あのオチのためにルネ・クレマン監督は、映画の題名をパトリシア・ハイスミスの原作小説と違うものにした。

原作小説のタイトルとは全く異なる『PLEIN SOLEIL』に。



それは『CAROL(キャロル)』ですよ。



間違えた。こっちだ。

ルネ・クレマンは『THE TALENTED MR. RIPLEY』という題名を『PLEIN SOLEIL』に変えた。

最初にこれを知った時、パトリシア・ハイスミスは困惑したという。

そして完成した映画の試写を見て、激怒したそうだ。

「これは私の物語ではない!」とね。



激怒するのも無理はありません。なにせ結末が正反対なんですからね。

だから原作小説に忠実な映画がマット・デイモンとグウィネス・パルトロウのコンビで作られたわけです。



ちなみに、この『リプリー』という作品は、パトリシア・ハイスミスの原作小説に忠実なだけでなく、ルネ・クレマンによって改変された映画版もリスペクトした内容になっている。

だから、あのポスターだったわけだ。



丸いアーチ型の柱のある部屋…

外から差し込む強い光…

その光の中を飛ぶ鳩…

堕落したカップル…

これはまさにフラ・アンジェリコの『受胎告知』を再現したもの…



だからジュード・ロウ演じるディッキーは、マット・デイモン演じるトム・リプリーに「右の頬」をぶたれた。

なぜなら彼は、天使ガブリエルに婚約者を奪われるヨセフであると同時に、失楽園のアダムでもあるから。



確かに「失楽園」の部分は「三角関係」っぽく見えます…

苦しそうなアダムの隣にいるイブが、なんだか小悪魔的な雰囲気を醸し出している…


フラ・アンジェリコの『受胎告知』は、見る者に妄想を膨らませてくれる。

だから『PLEIN SOLEIL』という題名と、あのラストシーンが生まれた。


フランス語で「plein」とは「あふれる・充たされる・満たされる」という意味…

つまり「plein」な「soleil(太陽)」とは、フラ・アンジェリコの『受胎告知』における「この部分」のこと…



だから「ロープ」の先に「手首」があった。

マリー・ラフォーレの船マルジュ号とつながった「ロープ」の先に。



完璧ですね…

後にルネ・クレマンから改題とラスト改変の理由を知らされたパトリシア・ハイスミスが「これはこれでいいかも」と納得したのも当然だ…



他にも知ってる?

フラ・アンジェリコの『受胎告知』から生まれた映画を。

めっちゃ有名なのがあるよね?


ええ。これのことですね。

スティーブン・スピルバーグ総指揮、ロバート・ゼメキス監督作品『BACK TO THE FUTURE(バック・トゥ・ザ・フューチャー)』…



その通り。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とは、まだ男を知らない処女の母に「未来の出産」つまり「受胎告知」をする物語だ。

だからタイムマシンには「風の中のすばる」が使われた。

最後のジョーク「もうロード(主)は必要ない」はどうかと思うけど(笑)



SUBARU(スバル)?

あれは DeLorean(デロリアン)ですよ。

こんな基本的なことを間違う人、初めて見ました。



ははは。すまんすまん。

わざとだよ。


わざと? なぜですか?


くっくっく…

You wouldn't get it(笑)



ふざけないでください!


ふざけてないよ。

なぜ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムマシンには「デロリアン」が選ばれたのか…

その理由わかるかな?


そんなの簡単ですよ。

デロリアンはドアが鳥の翼のように開くガル・ウィング・ドア(gull wing door)の車。

つまり『受胎告知』の絵の中で「鳩」として描かれる「聖霊」が投影されたものです。

だから「黄色い炎」と「光」を伴う。



その通り。松坂桃李。

しかし大天使ガブリエル様を「ハエの息子(McFly)」とは冗談がキツイよね(笑)


まあ「fly」は蠅のことだけではなく「飛ぶもの」全般を指しますから。

ちなみにロレインがマーティ(Martin)の下着を見て「Calvin Klein」を名前だと勘違いするジョークは、カトリックと対立したプロテスタントのマルティン・ルター(Martin Luther)とジャン・カルヴァン(Jean Calvin)のことです。

マーティがロレインに下着をチラ見させるのは、フラ・アンジェリコの絵が「そう見える」からですね。



映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の中では、フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』が様々な形で再現される。

だけど、何と言っても、あのシーンに尽きるかな。


処女懐胎の奇跡が成就したダンスパーティーのシーンですね。



パーティーの名は「ENCHANTMENT UNDER THE SEA(魅惑の深海)」という。

なぜならフラ・アンジェリコの『受胎告知』は天井部が青く塗られていて「海底」のようにも見えるからだ。



だから演奏された曲は『EARTH ANGEL』と『JOHNNY B. GOODE』だった…

『EARTH ANGEL』は「地上に降りた天使」だから、大天使ガブリエルそのまんま…



そして大天使ガブリエルは、マリアに受胎を告知した際、叔母エリサベトの受胎の話もした。

エリサベトが産んだ男の子は、やがて人里離れた荒れ地で「今まで誰も聞いたことのない説法」を始める。

この噂が人々の間で広まり、聴衆がどんどん集まって来た。


『The Preaching of St. John the Baptist(洗礼者ヨハネの説法)』
Pieter Brueghel(ピーテル・ブリューゲル)


これを歌にしたのがチャック・ベリーの『ジョニー・B・グッド』ですね。

「Johnny B.」とは「John the Baptist(洗礼者ヨハネ)」のこと。



本当によく出来ているよね『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は。

しかも『受胎告知』ネタは、まだまだこれだけじゃない。


ふふふ。それはオープニングの話ですね。



そう。このオープニング・シーンはフラ・アンジェリコの『受胎告知』を完璧なまでに再現したもの。

別バージョンの受胎告知、通称『コルトーナの受胎告知』をね。


『Annunciazione di Cortona』
Fra Angelico 


マリアの敷布は「めくれた玄関マット」に見える…

そして旧約聖書(イザヤ書)は「スケボー」に見える…



マリアの椅子には、切り分けた果実の片方のような米模様がびっしりと描かれている。

あれは「無数の時計」に見えるヨネ。



しかも「7:53」っぽい…



EINSTEIN(アインシュタイン)の DOG FOOD(ドッグフード)で床が汚れるのは、あの部屋の床も何かで汚れているからだな。



そして天使ガブリエルと聖母マリアの頭に描かれた「光背」は、アンプのボリュームの「ダイアル」に見える…

しかも PRIMARY(プライマリー)の中には「Mary(マリア)」が入ってる…



マリアは天使ガブリエルから「あなたは妊娠しました。生まれて来るのは男の子です」と告げられ「そんなことがあるでしょうか!?まだ夫を知らないのに!」と衝撃を受けた。

この「マリアの衝撃」を「アンプの衝撃波」で表している(笑)



そして電話線が部屋を半周できるくらい長いのは…

フラ・アンジェリコの『コルトーナの受胎告知』にも「部屋を半周できるくらい長いワイヤー」が描かれているから…


だから電話機は柱の上部に掛けられていた。

あの場に居ないドクは、柱に彫られた旧約時代の預言者イザヤだ。

前代未聞の処女懐胎という出来事を引き起こした張本人である預言者イザヤ(笑)



完璧ですよね…

だからロバート・ゼメキスとスティーブン・スピルバーグは、主題歌『POWER OF LOVE(パワー・オブ・ラブ)』を Huey Lewis & The News に歌わせた…

受胎告知を意味する「The Annunciation」とは、そもそも「告知・知らせ」という意味だから…



素晴らし過ぎるね。

ブラボー!!!


他にもフラ・アンジェリコの『受胎告知』を元ネタにした映画や歌や小説はたくさんありますが、この『バック・トゥ・ザ・フューチャー』には敵わないと思います…

フラ・アンジェリコの『受胎告知』だけで2時間の映画を作り上げ、それを世界的に大ヒットさせてしまったのですから…


確かに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は秀逸だけど、絶対に一番だとは言い切れないなあ。


え?


だって、ジョーカーや中島みゆきも凄いもん。

サントリー缶コーヒーBOSSのCMなんて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に負けないよ。




え? ええ?

このCMが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に負けないって、いったいどういうことですか?


知りたい?


あ、当たり前じゃないですか!

ていうか、この『ヘッドライト・テールライト』の歌に隠された秘密を聞くために俺は缶コーヒーをわざわざ買いに行って4千円以上も使うハメに…


そう。おかげでまだ58本も残ってる。

いっぱい喋って喉が渇いたから、本題に入る前にちょっとコーヒーブレイクしよう。

クリス君、キミも飲みたまえ。



ありがとうございますユルユルさん…

では俺はレインボーマウンテンブレンドを…



ゴク… ゴク… ゴク…


ゴク… ゴク… ゴク…


ふう。美味しかった。

ではボスのCM『ヘッドライト・テールライト編』を解説しよう。



つづく





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