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日本より、カレーパンを込めて

週末の朝は、遅い時間でもサンドイッチやパンケーキの出前が増えます。休日をのんびり過ごすお客様に、今日はパンを届けることになりました。

依頼があったのは近所でよく知られた日系パン屋で、日系スーパーにもパンを卸している、この辺に住む日本人なら知らない人はいないパン屋です。

沢山の人で混雑している店内で、パンを取りに来たことを店員さんに伝えます。私を客と勘違いした店員さんは「あっちの列に並んで!」と促しました。

オリビアはカレーパンやカツサンドなど沢山のお惣菜パンを箱いっぱいに頼んでいました。見たことのある名前達に親近感を覚えます。

オリビアの家は南東の方で、パン屋からは少し距離がありました。

お客様は担当ドライバーのプロフィールをアプリ上で確認できるようになっております。私のプロフィールには顔写真、話せる言語、好きな料理と働く理由が記載されています。

オリビアの家の前に着くと、それを見計らうかのように、髪が白く、背の高い男性が家の中から出てきました。彼の足元からはクリーム色した小さな犬が出てきて私の足に飛びつきます。彼はその犬を少し叱った後、パンの箱を受け取ると、「ありがとう」と日本語で、その正しい発音と共に、私に言ったのでした。

故郷の小さい島国から7000km以上離れたこの北米大陸で、同じルーツを持つ誰かに出会うことを、私は楽しみにしていました。日本人のお友達はたくさんいますが、それとはまたちょっと違った出会いです。

足元で目を輝かせている小さな犬を「かわいいかわいい」と日本語で大いに褒め、「さようなら」と日本語で挨拶して去りました。

オリビアは娘さんの名前でしょうか。

日系人達がこの地に住み始めた頃の事を想像してみます。財産を奪われる事もなく、収容所に送られる事もなく、私が人として受け入れられ、平和に暮らせるのは彼らのおかげです。日系パン屋のおいしいパンを日本人が出前する時代になったよと、伝えることができたとしたら、彼らは喜んでくれるでしょうか。

誰かとまた巡り会えるのを楽しみに、私の出前は続きます。

所要時間:24分
配達料:$4.09
チップ:$6.00




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