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自家発熱の人々と「鉄の根性」

 大東市に行った。入江智子さんに会うためである。morineki(もりねき=森の近く)という官民連携でエリア開発を敢行した人だ。彼女とmorinekiについてちょっとだけ解説してみる。

1 もともとは同市役所の職員である。
2 市営住宅の改築の担当になった。
3 改築して元とおなじの殺風景な団地にしたくなかった。
4 そこで市役所をやめて会社を興した。
5 岩手県紫波町に3人の子連れで移住、オガールプロジェクトで修行をする。
6 公民連携プロジェクトのmorinekiを実現した。
 
morinekiプロジェクト
https://matituku.com/morineki/

1─3までは理解できる。しかし3→4→5→6に断絶および飛躍がある。謎だらけだ。

入江智子さん。この小柄な体におそるべきエネルギーを抱いている


 殺風景な団地を作りたくない人はたくさんいる。不平をもらす人もいる。しかしわざわざ自分を問題の解決者に任じ、あえて茨の道を行こうとはしない。

 しかし彼女はたんなる市営住宅の立て替えプロジェクトを、公営住宅・公園・商業施設・カフェ・企業誘致などを一体に取り込み、有機的に連携させたエリアに変えた。つまらなかったはずの市営住宅は交流と価値創造の場に化けた。

 高齢者も多い住宅をのぞかせてもらった。高齢の男性が家の前に盆栽を並べ、ご婦人が草花の世話をしている。ご婦人の衣装はショッキングピンクであった。元気で生きることを楽しんでいる人が選ぶ色である。

あいにくの雨で公園に人が少なかったのが残念


 入江さんのような人はごくたまにしかいない。しかし先週の岩手県の紫波町。公民連携の先進事例オガールプロジェクトの10周年記念シンポジウムに参加し、ここではそういう「自家発熱の人」にたくさん会ったのである。

 まずは同プロジェクトを牽引した岡崎正信さんという烈火のごとき公民連携の先駆者。人に嫌われかねないことをあえて引き受ける。周囲との摩擦すら摩擦熱としてエネルギーにしていく。台風の目となるのはいつもこういう人である。

 もう1人、まちづくり専門家の木下斉さん。じつはおれは昔からこの人のファンである。ニックネームは「狂犬木下」であるといえばおおよそどういう人かわかるだろう。高校生のころからまちづくりにたずさわり著書も多い。「狂犬木下&野犬岡本」で将来タッグを組むのが夢なので、木下さんのサロンにも加入した。

 そして日笠智之さん。東京都足立区の中学校教師でバレーボールのカリスマ指導者である。愛と情熱と鉄拳。人々が死体のようにお行儀がよくなった21世紀に、奇跡的に噴火を続ける桜島である。触れると重度の火傷をおいかねない。


日笠先生のバッグには刺繍が入っている


 この「鉄の根性」の先生をシンポジウムの最後に持ってきたのに感動した。

「本質をとらえよ。形に逃げず、自分の方法で解決せよ。違法を合法にせよ」

──と受け取る。たいへん濃密な1週間であった。2つの施設に招待・案内してくださった松尾設計室の松尾和也君、心から御礼もうしあげる。

 morinekiは兵庫県からも近い。公民連携に興味のある人はぜひとも訪ねるといい。訪ねたら、建築や公園という「できたもの」「ハコ」ではなく「作った人々」「ハコモノにインストールされた魂(システム)」をぜひ見てくるといいだろう。



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