あのとき助けられた者
20代の頃に勤めていた会社ではイベント運営もやっていた。
あるとき住宅展示会の一画でヒーローもののステージを行うことになり、設営した後はお客さんの後に立って様子を見ていた。
客席のほとんどは子連れで、悪役がうまいことお母さんや子どもをトークでいじって笑わせている。ちょっと悪いことをしようとしたとき、正義の味方が華々しい音楽とともに登場して大歓声。
すると、隣で目をキラキラさせた女性が食い入るようにステージを見ている。子ども連れでもないし、彼氏のような連れがいるわけでもない。一人で前つんのめりになるのを我慢しながら、それでも気持ちが前つんのめりになってステージを見ていた。
立っている人は自分とその人だけだったので「お好きなんですか」と声を掛けてみると「昔、助けられたことがあるんです」と返ってきた。
まだ子どもの頃、家族と見に行ったヒーローショーで悪い人にさらわれそうになったらしい。もちろんそれは客席を巻き込んだ演出なのだけれど、子どもには分からない。このままじゃ連れ去られる!と思ったときにヒーローが現れ、無事に救って家族に戻してくれたらしい。
そのときからヒーロー物のステージがあるとつい見てしまうという。
よく「あの役者さんのファンで」とか「○○シリーズが好きなので」という理由は聞くけれど、本当に助けられた話は初めてだった。
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