マイニング

「最先端技術」の舞台裏 -「マイニング」「高頻度取引(HFT)」を支える ”アナログな要素” 。

 先日上川隆也さん主演の「遺留捜査」の再放送を見ていてひっくり返りそうになった。何と「仮想通貨」に関するサスペンスで人が死んだりするのだが、国家が既存の通貨を紙くずにするために極秘のプロジェクトを進めている、という話。どこかで聞いた話だ - そう、この「損切丸」でも何度かインフレ実現の為に「仮想通貨」を利用する説を書いたが、そんな発想をするのは自分だけじゃなかった、と妙にほっとしてしまった(苦笑)。

 そこで出てくる話がまた出色で、「仮想通貨」「マイニング」のために過疎で消えていく「限界集落」で極秘に何台ものスーパーコンピュータを稼働させていた、という筋書き。ポイントは「秘密保持」「冷却効果」

 「冷却効果」?  そんな原始的な処置が必要なの?

 山奥の秘境だから秘密が保持されるの良いとして、稼働時に放出される大量の熱を冷やすために、その村の地下洞窟から引いてくる冷たい空気が必要なんだとか。「最先端技術」とはちょっとイメージがかけ離れている

 「マイニング」(=「仮想通貨」を文字通り「掘り当てる」ための作業のことらしい)が出てきたので、一通り検索して知識をかじってみた。「仮想通貨」はお金で購入する以外にこの「マイニング」で手にすることが出来るという。個人でやってみた人の経験談では、装置や電気代がかかるので、最終利益はあまり出なかったそうな。やり過ぎると発火事故も起きるらしい。

 電気代に発火事故? 随分とアナログ

 「マイニング」の話を見聞きしていて、「高頻度取引(HFT、High Frequency Trades)」のことを思い出した。1秒間に何万回も株や為替の取引を行いトレーダーや顧客の取引の「先回り」をして収益を上げる「最先端」のシステムだ。筆者の前職場は、東京の外資系としては割と早くこのHFTを株取引に導入し利益を上げていた。

 当時も某Tテレビの経済番組の取材を受け、「この高速株取引システムは凄いですよ!やればやるほど儲かる”夢のマシン”なんです。しかもノーリスク」と受け答えしていた。確かに利益も上がっていたのでまんざら嘘ではなかったのだが...。

 果たしてそんな”夢のような”ことが永続的に続くだろうか?

 そこは「儲け主義の館」投資銀行業界。当然他社も続々と参入してきた。筆者の知る限りでは、競争激化により利鞘はどんどん削られ、最終的にはシステムの開発競争と共にHFTマシンの置き場所の争いになったとか。

 置き場所の争い?

  東京市場では東証が2010年に新システム「アローヘッド」H.F.T.を稼働させたが、その時に送信時間を極小化するコロケーションサービスをスタートさせた。そのイメージが ↓ の図。

画像1

 システムのグレードが同じなら東証の取引システムに近い方が有利になるので、各社ミリ単位でサーバーの置き場所を争ったという。これって単なる「場所取り合戦」で、「最先端技術」とは何の関係もない。

 ”夢のマシン”が「場所取り合戦」ねえ...。

 筆者の現役時代で言えば**「オプション」が ”夢の商品” として扱われていた。 AI vs 生身の人間 - 人の居場所はどこにあるのか?|損切丸|note  続・AI vs 生身の人間 - 「風が吹けば桶屋が儲かる」がAIの弱点?|損切丸|note でも書いたが、当時のマーケット担当の副支店長が「オプションは100%儲かるからどんどんやれ!」と言って譲らなかった。余程いい思いをしたことがあったのだろうが、当然100%なんてトレードはこの世には存在しない団塊世代のエリートの代表だった銀行のお偉いさんがこんな状態だから、金融に疎い一般市民がマルチ商法に引っかかってもあまり責められないかも(苦笑)。

 **この「オプション」理論は、開発したノーベル経済学賞を受賞した2人の名前を取って「ブラック・ショールズ理論」と名付けられている。投資銀行を中心に一大ブームを巻き起こし、銀行界に多大な利益をもたらした。この動きはプロのマーケットに限らず、一般顧客にまで幅広く拡大。当時S銀行が「オプション付定期預金」などの販売を強引に進め、競合各行もノルマを張って顧客に販売したが、後に損失などのトラブルが続発し、金融訴訟が相次ぐ結果となった。つまり ”夢の商品” なんかではなかったのである。

 先行的に手掛けた米系の投資銀行が荒稼ぎしたわけだが、その反対側で日本でもいくつもの事業会社が「オプション」投資の失敗で大きな損失を被った。表には出ていないが損をした個人投資家も多かったのではないか。

 つまりまんまとやられちゃったのだ

 たいそうな方程式で示されるこの「オプション」。よくよく解析してみると為替や株を単純に売買するものを、期間の概念と金利を組み合わせることによって***「形を変えただけ」であることに気付く。日本の顧客では、特に地方銀行や金融に疎い事業法人、個人顧客が「高金利」に形を変えた商品に飛びつき怪我をしたところが多かった。つまり商品の仕組みを十分理解していなかったのである。

 ***コール(買う権利)とプット(売る権利)のそれぞれの売買(これで4種類)とそのオプション料、更に権利行使価格(ストライクプライス)と期間を変化させることによって、曲げたり伸ばしたり何とでも形を変えられるアメーバのような商品だ。しかし形を変えただけなので内包するリスク量は不変。気をつけなければいけないのは、胴元である銀行がこの形を変える時に、「利鞘」を抜いたり顧客にリスクだけ転嫁したりすること。買う方はリスクだけ負わされて、銀行はノーリスクで大儲け、という構図だった。

 確かに先端技術は「先行者利益」で早い者勝ちになることが多く、その開発努力には十分な価値がある。しかしそれを継続させるためには「マイニング」HFTに見られたように「機械の冷却」「置き場所の争い」など非常に原始的でアナログな努力が必要、というケースがままある。だから「人」の介在は今後も絶対になくならないだろう。 

 「歴史は繰り返す」 人のやることの本質はあまり変わらない

 しかし「仮想通貨」の発行に多額の電気代「加熱冷却」とか、そんなアナログな要素が大きく影響するとは。しかも「量子コンピューター」の登場で、通貨を守る「暗号」自体が解読リスクにさらされる懸念もあるという。

 これ、本当に「投資」に見合う価値があるのだろうか?

 「リブラ」に関して言えば、主要通貨ドルに取って代わるくらいの見返りがなければ、ザッカーバーグ氏でさえやる価値がないのかもしれない。

 結局手彫りの模様をあしらった「お札」の方が安全で安価だったりして。どんな「最先端」も、裏側を見てみなければわからないものである。

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