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「損切丸」的投資シナリオの検証 - インフレ政策、過剰流動性、「消えていく金利」、仮想通貨、新興国市場、etc.

 前稿で「酷い相場付き」という言葉を使ったが、荒れ模様のマーケットの中、「損切丸」としても現状の投資シナリオを改めて客観的に検証し直しておこうと思う。

1.インフレ政策

 「損切丸」的投資シナリオで今主軸になっているのが、この「インフレ政策」である。リーマンショック後の天文学的な財政出動が今も主要国に重くのしかかっている。最早これまでの増税など通常の財政運営では解消できない水準であり、インフレ、もっと直接的に言えば借金の元となっている法定通貨の減価が必要になっている。そのための超金融緩和であり、マイナス金利に至っては「預金課税」ととらえるのが妥当だと考えている。

MMT(Modern Money Theory、現代貨幣理論)は偶然出てきたわけではなかろう。このインフレ政策の延長上、一種のプロパガンダとして必然的に登場したものであり、筆者はこれを「令和の徳政令」と読み替えている。暴論ではあるが、1点正しいのは「国家財政は大丈夫」、という点。そう、大丈夫じゃないのは「国家」ではなく「国民」である。大層な理屈をどれだけ並べても、借金は誰かが返さなければならない

2.過剰流動性

 現在マーケットに出回っている資金量は、一説にはリーマンショック前の3倍以上だという。「過剰流動性」が市場を覆っているのは紛れもない事実だろう。何度も指摘してきたが、古くは1929年の世界恐慌、その後の日本のバブル崩壊にリーマンショックなど、これまで引き起こされてきた「暴落相場」の震源は全て銀行だった。学術的言葉で言えば「信用創造」、最近で言えば「レバレッジ」の名の下に資金を数回~数十回回転させて相場を膨らまし、そして銀行の資金供給力の限界を迎えたときに終わりを迎えた。

 しかし今回の資金供給者は通貨発行権をもつ国家そのものである。明確な「インフレ目標」を持って政策を遂行する以上、資金の供給は途絶えない。株価が割高になろうが、度々調整売りが起きようが政策を止める事はない。「リーマンの再来」を主張する方もいるが、今回は事情が大きく異なる。例えば株価がインフレの先行指標と捉えれば、実体経済が追いつくまでこの政策は続くだろう。筆者は法定通貨の減価、と言う形で帰結すると見ている。

3.「消えていく金利」

 従来はインフレを押さえ込むための金利政策であったが、インフレ自体を目指すようになった時点で、「金利」ははっきりいって用済みである。それどころかインフレ政策には邪魔でさえあり、マイナス金利を深掘りしていくことはやや懲罰的な「預金課税」を強化していくことと考えた方が良い。ただ、2008年以降、11年もの間取り組んできても成果はそれほど上がっておらず、既存の法定通貨の下での金融政策では限界が見えてきている。

*2015年末にFRBが利上げに転換した時は景気回復が本格化し、インフレ見通しに光が見えたかに思われたが、結局2019年に利下げに追い込まれた。資産買取を減額して量的緩和も縮小してきたが、この9月、しかもFOMC開催の最中にレポ金利が10%に急騰したのは大いなる皮肉であった。国家の関与の増大に伴って市場機能は低下の一途を辿っており、再び量的緩和の強化が必要に。日本に至っては蛇口は2008年以降開けっ放しである。

4.仮想通貨

 フェイスブックが発行を計画している「リブラ」「損切丸」はこれを令和の徳政令」のための「新通貨」となりうるものと考えている。第二次世界大戦後でいえば、日本にとっての「新円発行」の時のようなイメージ。同じような財政措置は現在では無理なので、仮想通貨に代替させようか、との目論見は感じる。米国も通商上の「通貨主権」が担保されるならば推進していくのではないか? 通貨バスケットを裏付けにした「リブラ」型の仮想通貨は今後も登場してくるだろう。

 現在対抗馬になっているのが中国人民銀行のCBDC(Central Bank Digital Currency)構想。「米中覇権争い」と絡んで利害が対立しており、激しい駆け引きが続いている。米国につく側と中国につく側とに別れ、各国、各企業、どちらに付くのか凌ぎを削っており、結構大きなうねりになってきた。

ビットコインリップルなどを筆者はここでいう「通貨」の一種としては含めていない。これまで「仮想通貨」の相場を引っ張ってきたのでディスるつもりはないが(笑)、実体経済の決済にほとんど使われておらず通貨としての機能を果たしていないからだ。現在の極端な市場寡占の状況から鑑みると、「通貨」というよりギャンブル性が高い一種の「証券」とか「商品」で、胴元とのやり取りを楽しむカジノに近い。原油を担保とした債券発行に使われたベネズエラの「ペトロ」の方が余程「通貨」に近い。

5.新興国市場(エマージングマーケット、Emerging Markets)

 アルゼンチン、トルコ、南アフリカなどいわゆる新興国市場(エマージングマーケット、Emerging Markets)は高金利の国が多く、2018年ごろまでは過剰流動性の恩恵も受けていたと思う。事実、日本からも低金利で運用に困った資金がかなりあふれ出していた。その間は資金流入の影響で通貨が高くなっていて問題なかったのだが、ここに至り流れが逆流、アルゼンチンが部分的デフォルトを引き起こす事態に陥っている。またこういった新興国では、通貨安が真性のインフレを引き起こし易く、また多額のドル建債務の返済負担が膨らんでデフォルトの引金を引くのがいつものパターンだ。

 ここで更に問題なのが、これまで支援に回っていた先進国が財務余力に乏しく、自国のことで目一杯なため他国を支援する余裕がないことだ。国連もIMFもWTOも、いわゆる国際機関は全く機能していない。自国優先の風潮が蔓延しつつあり、トランプ大統領の登場やBREXITも歴史上の必然だったと言っていい。先進国が渇望している法定通貨の減価やインフレが、それを望んでいない新興国で起きており、これは全くの皮肉である

イタリアやスペインなどEU内の経済弱小国は、ユーロのお陰でアルゼンチンのような苦境には陥っていないとも言えるが、逆に自国単独通貨であれば通貨安による調整によって、いわゆるやり直しをする事も出来たが、それも出来ずいわば生殺しの状態。それはそれで苦悩は深い。仮想通貨などの「新通貨」が登場すればどうなるかわからず、ユーロ分裂の危機まで考慮に入れておく必要があると思う。

 随分長くなってしまったので、其の2に続く -

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