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【俳句鑑賞】一週一句鑑賞 24.04.28

蜜蜂に個の時間あり花の中

作者:山崎垂
出典:『楽園』第1巻第1号(2021)

季語は「蜜蜂(みつばち)」で、春。社会性を持ち集団生活をする昆虫といえば、「蟻」と「蜂」が筆頭でしょう。「蟻」は夏の季語ですが、「蜂」は春の季語であり、春という季節ののどやかさ、優しい青空の映像も背負っていると言えそうです。ほか、養蜂や農家における受粉の補助といった人間との関わりもあれば、種によっては非常に獰猛で危険であったりと、様々な側面を持つ季語ですね。

掲句は、一読してハッとさせられる衝撃がありました。まさに「蜜蜂」という存在の本質のひとつを言い得ています。社会性という本意が前提にあるからこそ、一匹で蜜を採取している時間を「個の時間」と表現することに強い納得感を覚えるとともに、その発見の清新さに驚かされるのです。
蜜の採取は、蜜蜂にとっては労働の時間とも言えるわけですが、一匹でいる限りは「個」すなわちプライベートな気ままな時間でもあるんですね。ここに春ののどやかさがあるとともに、「蜜蜂」という生き物への愛情、人間である自身へのエールも感じ取ることができます。作中主体が営業マンだったりしたら、なおさら身に沁みるでしょう。

「個の時間」という把握も見事ですが、これは12音で言い得てしまったわけで、下五の着地のさせ方も簡単ではありません。「花の中」とは、これまた見事な落とし方。詩的な発見が上滑りせず、映像として結球しています。
春に花の蜜を求める昆虫といえば「蝶」が代表的ですが、蝶は口器を長く伸ばして花の外から蜜を吸うのに対し、蜂は「花の中」に潜り込んで蜜を採取します(花粉もタンパク源として身体に付けて持ち帰る)。これは「蜂」の持つ大きな特徴のひとつ(本意と言ってもいい)であり、これがあるからこそ、蜂は受粉の補助として大変優秀であり、植物の進化を支えてきたのです。
「花の中」という下五は、一見単純ですが簡単にできるものではなく、映像の確保とともに、「蜂」の本意をまたひとつ打ち出すものになっていると言えるでしょう。

余談ですが、作者の山崎垂さんは、僕の所属する「楽園俳句会」に初期からいらっしゃる先輩です。「この白シャツ魂透けません特価」「老父母の聖夜プードルのみリボン」「窓に光るどれも根のなき聖樹かな」「春近しひとの話にハイカカオ」など、着眼のオリジナリティが素晴らしい方だなといつも楽しく拝見しています。今後も注目していきたい俳人さんのひとりです。

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