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【活字で食べるごはん】ロシア料理に憧れて

少し前のこと、転職活動で東京に行き、帰りに憧れのロシア料理を食べた。

面接を受けた企業の方からは、web面接でいいですよと言われたが、ゴリ押しするために足を運んだのだ。

結果、その会社で働けることになったし、ついでにロシア料理を満喫できたし、やはりせっかちと食い意地が私の人生を動かしていると実感する。思い返してほくほくするあの味を、せっかくだから文字にして残しておこうと思う。

足を運んだのは、銀座ロゴスキーというお店。
1951年創業、日本で最初にロシア料理をはじめたお店らしい。イグジットメルサというビルの7階にあり、14時を回っていても割と席が埋まっていた。

隣の席には、50代くらいのマダムがひとり、奥の席も女性ひとりだ。私の母くらいの女性と中年男性の、親子のような姿も見える。彼らはふたりでくつろぎ、ワインをボトルで開けていた。14時の銀座で、ロシア料理をつまみにボトルを開ける贅沢。思わずうっとりとしてしまう。

私は高山なおみさんのエッセイ「ロシア日記 シベリア鉄道に乗って」を読んでから、とにかくロシア料理が食べたくて、たまらなかった。

しかし私の住む町には、正統なロシア料理店など見当たらない。食べられないとわかると、いっそう思いが募る。文字では想像がつかない味をどうしても体験したかった。鉄道の駅で買うピロシキ、市場で試すヨーグルト、それからビーツの酸味。

メニューを開くと、知らない料理が並んでいて心が躍る。悩みに悩んで、選んだのはシャリシクランチ。シャリシクとは羊の串焼きらしい。どんな味付けなのか、まったく想像がつかない。

前菜

まずは前菜が運ばれてきた。その美しさに、思わず口元がゆるむ。

小さくカットされた黒パンの上には、なにやらクリームがぽてんと載っている。しっとりと艶やかな茸のマリネ、鮮やかなピンクのビーツ、乳白色の和え衣を纏った人参、これはラペだろうか。

逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと口に運ぶ。想像していた味と、少しずつ違う。しみじみとおしく、口に運ぶたび「おっ」と思う。ゆっくり食べようと思っていたのに、あっという間になくなってしまった。

ゆで卵とひき肉のピロシキ

ピロシキは3種類から選ぶことができるが、私はぜったいこれ。ロシア日記に出てきた時から気になっていた。ころんと丸いピロシキは、私が知っているものとは姿が違う。(あとで調べたら、私の食べ慣れたピロシキはフランスピロシキと言うパンで、本番のそれとは生地も中身も味付けもまるで違っていた)

ふっくらとした揚げパンに、優しい味付けのひき肉と、カットされたゆで卵が入っている。おばあちゃんの作ったおやつ、というような素朴さ。うん、おいしい。

ボルシチ

運ばれてきた瞬間、そのかわいさにぶるっと震えた。かわいい。ビーツのピンクも、陶器の器も。ボルシチは可愛いのだ。

ひとくちすすると、こちらもじんわり優しい。ロシアの寒い土地で食べたら、どんなに美味しいことだろう。たっぷり入った野菜が、するすると胃に溶けていく。

シャリシク

ロシア語でブラボー!は何と言うのだろう。「お好みで辛いソースをつけてお召し上がりください」とロシア人と思しき店員さんが流暢な日本語で教えてくれた。串から肉を外し、レモンを絞り、赤茶色のソースにちょんちょんとつける。

噛みごたえのある羊肉を、頷きながら咀嚼する。ロシアだ。行ったことはないけれど、これがロシアなんだとにんまり頷いた。奥に添えられた野菜がまた、シャキシャキと美味しい。キャベツだったかな。正確に思い出せないことがくやしい。

ロシアンティー

最後は、苺ジャムをたっぷり溶かした甘いロシアンティー。もう体はほかほかと暖かく、満ち足りたお腹と名残惜しさでふうっと大きく息を吐く。

おいしかった。はじめて食べたロシア料理は、想像よりずっと優しくて、面接の疲れを完全に溶かしてくれた。もう、面接に落ちても悔いはない。東京まで来てよかった、そう思って席を立った。

ごちそうさまでした。

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#ロシア #料理 #活字で食べるごはん

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