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バイバイ、サンタクロースを読んだ。
とてもかしこい小学生の双子、ケイジとアルトが事件の謎を解く連作短編。 視点人物はアルト。アルトは、ケイジが不可能担当で自分は不可解担当だ……ぼくは人の気持ちがわかるからね、みたいなどっかで聞いたことがあるようなことを言ってる。ケイジが曲者の探偵役で、メルカトルや三途川のノリでたのしい。話は小学三年生からはじまり、最終的に小学六年生へ。こうしてぼくたちの小学生時代は終わった。バイバイサンタクロース、さよなら神様。

各短編コンセプトが秀逸で、ミステリの新たな可能性を探る手つきは麻耶雄嵩の系譜。ストーリー回しもよく、これまたすごい才能が出てきたなあと感じさせられた。

残念だったのは、ほっこりするような話とミステリ空間でしか成立しないような話が混ざってるから、そのよみ味を統一してくれたらよかったな~。各短編は秀逸にしても、短編を収納した長編としてみると期待から外れる部分もあるかなって。


以下ネタバレもあるかもしれない各編感想


いちばん好きなのは「最後の数千葉」。病弱の友だちが入院してる。オー・ヘンリーの物語をふまえて、窓から見える桜の葉っぱがなくなったら自分は……みたいなことを思ってる。でも大丈夫、まだまだ夏で、葉っぱは数千枚あるのだから、とカーテンを開くと……。謎が魅力的~。


「消えたペガサスの謎」……下駄箱の話。あるアイテムの性質を使い倒すようにロジックを組むのたのしいよね~。とはいえ、これは「最後の数千葉」にくらべて話がスケールダウンしたように思えて残念だったかなあ。

「サンタクロースのいる世界」……殺人解禁。こどもがこどもならではの世界観で推理を組み立てることが描かれてていい話ですね。ケイジの執念も
おもしろく、いい話ですね(二回目)

「黒い密室」……麻耶雄嵩解禁(?)。any密室トリックを暴くこと。おもしれ~。トリックはとんでも感を狙ったんだろうけど、もっと実現性が高そうなとんでものほうがよかったかなあ。注目しておきたいのは今回のロジカルアイテムである、スイッチですね。ロジックのために着目されるアイテム、それがロジカルアイテム……。なんとなく中学校の理科の時間にやった問題を思い出す。この話を読むと、短編に要素の盛り量のことを思う。ぼくはスイッチロジックか今回のコンセプト、どっちかのほうがよかったかなあ。もりこみすぎると味がぼけてしまうという人もいるいっぽう、ごちゃごちゃ感が好きという人もいる。ぼくはスッキリしてるほうがすきかなあ。「ガラスの橋」のベランダの話のワンネタ全力どや感がとても好きだったし。

「誰が金魚を殺したのか」……これもすばらしいですね。「キンタ」の事件を話すケイジに対して、アルトはこう考える。殺されたのは金魚であり、自分を騙そうと叙述トリックを仕掛けていると。アルトは裏をかこうとするが……。
どういうふうに読んだかみんなの感想がきになるかも。ただ徐々に進行するミステリ世界の侵食を受けいれてないといけない。

「ダイイングメッセージ」……これもダイイングメッセージの媒体からの考察がおもしろい。物理的時系列前後の硬いロジックもいいけど、蓋然性考察もいいよね。推理はとてもおもしろいんだけど、これはミステリ世界の侵食を受け入れきれなかったかなあ~。もっとほんわかまえむきにおわってほしい~。ぼくも年をとった……。

そんなわけでミステリとしては5億点だけど、ぜんたいてきな話のまとまりに不満があったかなあ。とはいえ爆発力もあり、今後見逃せない作家だぜ! 創元の短編賞もとってて、そっちの短編をまとめたやつも三月くらいにでるんでしたっけ。発売したら絶対買いたいぜ!



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