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私と蛙

まだ明けきってない空の下で、私は飼犬と歩いていた。昨晩から続く雨は止み始めていた。

いつもの散歩コースを犬は力強く進んでいく。彼をつなぐリードは私を現実に呼び戻そうとしているようだった。

公園の水溜りで一匹の蛙が佇んでいた。薄っすらと空を映した水面の真ん中で、何かを見ていた。
犬は不思議そうに蛙に近付き、鼻を寄せる。

食べちゃだめだよと私はリードを引いて、
食べないよと彼は鼻を鳴らした。
蛙は私達に見向きもしない。

暫くその場所にいた。よく目を凝らすと、似たような小さな蛙がどこかへ向かおうと跳ねていた。行き先も定まらず、それでも跳ねていた。

なぜこの蛙は他の仲間と一緒に行動していないのだろう。何かを察してるのか、それとも嫌な奴でもいるのだろうか。
同時に「嫌な奴」の顔が浮かんで苦笑した。

それからまた暫くして、さすがに飽きたのか犬は公園の出口に向けて歩き出した。ピンと張ったリードにバランスを崩しながら私も立ち上がる。
その瞬間、ずっと動かなかった一匹の蛙がどこかに向けて跳ねていた。

どこに行くのだろうか。
他の誰かが行く所か、それとも宛のない旅か。
その旅の始まりを見届けた。

私は蛙を誤って踏まないように、丁寧に丁寧に歩いた。犬は早くしろと言わんばかりにグイグイと先を進む。そのたびに身体を揺らしながら、私は歩いていた。

いつも通り。
近所の商店跡を過ぎて、友人の家の前を通り、信号を渡って。小さな水溜りを踏んだせいで足の先が湿っている。少しだけ気持ち悪いけれどそんなこともすぐに忘れていた。
犬は丸い尻尾に水滴を付けながら、私の前を元気よく歩んでいた。

ふと足元を見た。小さな蛙たちが私の足元を横切っていた。
繰り出そうとしていた右足が止まった。
犬は何かを察したかのようにこちらを向いて立ち止まった。

靴は便利だ
歩く痛みから守ってくれる
傷まないのだから気兼ねなく歩ける
心地よく先に進める

笑いながら 歌いながら
話しながら どこかを目指す

少しだけ気持ち悪くなったとしても

仕方ないと踏み倒しながら
そうするしかないと諦めながら

壊しながら 引きずりながら
歩めるのだから

君も
同じだったら
良かったのにな