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UTOPIA♯22 幻肢痛


 姉や町の人々はどうして死ななければならなかったのだろう?少女は月の光に刺し貫かれたあの夜から、その答えを得たいと思うようになった。そのためには、世界の成り立ちを知らなくてはいけないと考えた。しかしこの過酷な世界をか弱い人の躰で回る事など到底不可能である。彼女は龍に成る事でこの問題を解決しようとした。

 もっと幼い頃町の老翁に聞いた事がある。龍の中には人に友好的で月へ届けてくれる者がいる。そして月へ到達すれば龍に成れるのだと。

*

 もうどれくらいの間旅を続けたのか不明瞭になり、クマの縫いぐるみは汚れとほつれが目立ち、自分がどのような目的をもって歩き続けているのかわからなくなってきた頃、少女は涙を流す龍に出会った。

「ねえ、何のためにここへ来たんだ?」と龍は言った。

 彼女はもう長い間言葉を話していなかったので、きちんと話す事ができなくなっていた。

「怯えているのかな、まあいいよ。龍と出会う人間はすべからく力を求めている。そうでなければ道が通じない。私と貴女の間には微弱ながら既に道があるよ……ところでその縫いぐるみ……」と龍は言った。

 彼女はクマの縫いぐるみを強く抱いた。

「それは良いな。その子は今の君の全てだ。うん、それなら……」

 龍は一層涙を流しながら、彼女に改まった態度で向き直った。

「ようこそ。私は君との申し合わせを受けよう。私は君が月へ到達するよう"重み"を忘れさせ、空を越える道具を授ける。その代わり、君にはその縫いぐるみを明け渡してもらう」

 少女はそれを拒否しようとした。だってこれは、姉との最期の思い出なのだ。しかし彼女の躰はいつの間にか地を離れ、その手には風船が握られていた。腕の中が所在ない。地面を見下ろした。

 あっという間に縫いぐるみと引き離されていた。その呆気なさに、もうこれは手遅れなんだなと彼女は努めて冷静に事態を把握した。

「私はね、不死の克服には然程興味がないんだ。それより人の大切にしているものを頂くのが好きだ。そこに込められた熱を帯びる記憶が、この上なく、刺激的なんだよ」

 縫いぐるみとの距離がどんどん離れていく……私は間違えた……何を?あれは、何なのだろう。彼女の中で疑問が溢れた。地に縫い付けられたぼろぼろのそれが、知りもしないのに、どうしてこんなに大切だと……何を誤ったのかもわからないのに、酷く堪らなくなった。

「無くした半身の痛みを感じるか?いってらっしゃいサリー」と龍は告げた。


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