岡崎透

著書に「夜を束ねて」つむぎ書房│原画の購入、展示のお誘い、お仕事についてはメール或いは…

岡崎透

著書に「夜を束ねて」つむぎ書房│原画の購入、展示のお誘い、お仕事についてはメール或いはTwitterやインスタDMにて│toruokazaki7@gmail.com

マガジン

  • UTOPIA

    絵画×物語

  • 個展の告知や雑記

    主に個展の告知など。

  • 夜を束ねて(続きは書籍にて)

    石を置く男と遭遇した僕は自身の短命を悟り、素敵なガールフレンドと顔を合わせることにした。 しかし彼女は冷蔵庫に潜んでいた作業服の男によって、どこかへ連れ去られてしまう。 支配と滅びの物語。

  • 3色の水溜り(続きは書籍にて)

    公園に奇妙な水溜りができたらしい。話によれば黒々とした水が、甘だるい匂いを漂わせているのだという。他にすべきことも思いつかず、彼女が自ら休日の過ごし方を提案したことに少し驚き、裸足のまま靴を履いた。

  • ESCAPE TO 熱海-QUALIA

    「我々は今度こそ熱海へと逃げるんだ」 深夜の神社にて恋人と逸れた僕は不審な女に殴られ昏倒してしまう。そして翌日から女との奇妙な共同生活を始める事になる。一方世間では電子レンジが芸能タレント等を代替する偶像として信仰を集めていた。 中編小説「ESCAPE TO 熱海」 著者:岡崎透

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夜を束ねて【書籍出版報告】

2020年10月28日著書「夜を束ねて」がつむぎ書房様より出版されます。 以下は簡単なあらすじです。 【夜を束ねて】 石を置く男と遭遇した僕は自らの短命を悟り、ガールフレンドと顔を合わせる事にした。 しかし彼女は自室冷蔵庫に潜んでいた作業服の男によって、雪で覆われた不毛の大地へと連れ去られてしまう。 支配と滅びについての物語。 【三色の水溜り】 公園に奇妙な水溜りができたらしい。話によれば黒々とした水が甘だるい匂いを漂わせているのだという。   他にすべき事も

    • UTOPIA 25話「無間地獄」

      「あらゆる生物は死ぬとこの地獄という空間へ転送されるんだ。生前の記憶を保持したままね。そして、夥しい程の責め苦を永遠に感じてしまう程長い時間受け続ける。これがSAYAシステムだ」と羊は言った。 「SAYAシステム?」と少女は訊ねた。 「そう、輪廻転生の仕組みそのものを指す。地獄に墜ちた生物は責め苦の終わりに完全に崩壊した心を抱えて、また地上へ戻される。"忌み子"という姿でね。この時大いなる樹の股ぐらから再誕するんだ。忌み子として生まれ直すと、もうそれは永劫に忌み子のままだ

      • UTOPIA #24 美しく燃えて……

        穏やかな日々は情け容赦ない熱によって、全てが形を変えてゆく。狭間の森のあらゆる生命は灰となる。誰も逃れる事はできない。この絢爛たる空間からの途中下車は炎の壁が許さない。清らかで薄暗い森は、焼き尽くされながら、死の輝きを天と地の狭間で迸らせていた。あの青々とした花畑に橙色が差し込まれ、その燃焼の果てに黒い点がじわじわと置かれていく。 最も価値の高まる時とは、一体いつを指すのか?それは正しく、喪失の瞬間。不可逆変化が確定したこの一瞬である。 少女らは灰になった。美しく燃

        • UTOPIA #23 獣狩り

          風船に運ばれ月を目指す旅の途中、天と地の狭間の森に少女は辿り着いた。そこには気性の穏やかな獣達が暮らしていた。 「ここで休憩していくといいよ」と雄兎は言った。 「この森には危険な子達は近づけないんだ」と烏が言った。 「月はもうすぐそこだよ、ゆっくりしていこうよ」と雌兎は言った。 「どうして泣いているの?」と小熊は言った。 彼女は自分の目元に手をやって、そこに水の流れを感じた。 「わからない。でも何かがとても痛むの」と彼女は言った。 「怪我?」と烏が言った。 怪

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        夜を束ねて【書籍出版報告】

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        • UTOPIA
          25本
        • 個展の告知や雑記
          0本
        • 3色の水溜り(続きは書籍にて)
          2本
        • 夜を束ねて(続きは書籍にて)
          2本
        • ESCAPE TO 熱海-QUALIA
          2本

        記事

          UTOPIA♯22 幻肢痛

          姉や町の人々はどうして死ななければならなかったのだろう?少女は月の光に刺し貫かれたあの夜から、その答えを得たいと思うようになった。そのためには、世界の成り立ちを知らなくてはいけないと考えた。しかしこの過酷な世界をか弱い人の躰で回る事など到底不可能である。彼女は龍に成る事でこの問題を解決しようとした。 もっと幼い頃町の老翁に聞いた事がある。龍の中には人に友好的で月へ届けてくれる者がいる。そして月へ到達すれば龍に成れるのだと。 * もうどれくらいの間旅を続けたのか不明

          UTOPIA♯22 幻肢痛

          UTOPIA♯21 沈黙と灯火

          少女は蝋燭に火をつけた。冷たい闇の中で揺れる淡い光は彼女そのものだった。強風が吹けばひとたまりもないだろう。 彼女の故郷は先日消えた。巨人が踏みならしたような、大きな圧力がかかって、町は文字通り潰れていた。偶然そこを離れていた少女が帰宅して目にしたものは、平面状に引き伸ばされた家屋と人だったものの残滓である。土地は数百メートルに渡って黒い影で覆われていた。地面を覆う影に手をついて、ああこれは私の故郷とそこに住まう人々だったものだ、と彼女は悟った。 残されたものは肌見放さず

          UTOPIA♯21 沈黙と灯火

          UTOPIA #20 大口之真神

          「どうか、私に龍核を授けてはいただけませんか」 老狼は、地に膝をついて懇願する人など眼中になかった。それはそもそも人に興味がない。その他の獣や忌み子や超越者にもまるで関心を示さない。 力の譲渡による不死の克服など、不可能である事を老狼は知っていた。そもそもそれは、龍のように人の心を持ち合わせていないため、元より不死性に倦むという事も無かった。とはいえ、現状に満足している訳でもない。 「真神原の大狼よ、どうか私を龍に」 女はひたすら同じような文句を繰り返している。

          UTOPIA #20 大口之真神

          UTOPIA #19 冬凪の獣

          隠された海辺の街には案の定、生きている者は誰もいなかった。長い時間の中で、みな死に絶えていた。冬凪の獣を除いて。 「私はこの死んだ海辺の街で産まれました」と冬凪の獣は言った。 「恐らく魔女が死んだからでしょう。この海辺の街も生命力を喪失して、ここに住んでいた人々や獣はみな疫病に罹りました。あらゆる生き物がいなくなった後で、気付けば私はここにいました」 そこで獣は言葉を区切った。サリーと羊は黙って続きを促した。 「私はこの停滞した街を一通り見て回り、波一つ立たなくな

          UTOPIA #19 冬凪の獣

          UTOPIA #18 隠された海辺の街

          碧玉の瞳を持った魔女が人やか弱い獣達を生かすためにつくった幻の海辺の街。禍々しい空は、敵対的存在が近寄る事のないよう、魔女が細工したのだろう。サリーと羊は旅の道中、偶然その扉を開いた。彼らには敵意や悪意が無かったため、海辺の街は拍子抜けするほどあっさりと彼女らの前に姿を現した。 裂けた入り口からは冷たい夜の海風が吹き寄せる。海面は凪いでいた。遠くに街灯は見える。しかし人の生活の気配は感じ取れない。波一つない箱庭の世界から、サリーは物寂しさを感じた。 「もしかしたら、こ

          UTOPIA #18 隠された海辺の街

          UTOPIA#17不死の呪い

          空が血を流し、大気が赤く染まる頃、血霧の向こう側には龍がいる。この夥しい血液に素養のある人が触れれば、それだけで申し合わせの道が半分通じる。もう半分は当然人の体液である。申し合わせは互いの体液を行き交わす事で成立する。この霧の龍もまた、申し合わせるに相応しい人を常に探し求めていた。 「その申し合わせは、あなた方龍にとって何の得があるのでしょうか?」と女は訊ねた。 「不死の克服。我々は月の力で龍となった。人や獣であった者達が、月に到達した姿の一つが龍なのだ。狂う事もできず

          UTOPIA#17不死の呪い

          UTOPIA#16 蟲送りの儀

          蟲は"瘧"を生命に移す。瘧を移された生命は体温の急激な上昇によって高確率で死亡するが、稀に己の解釈に沿う形で世界を再構築する異常な能力を身につけた個体が現れる。これら罹患者の資質によっては、世界の終わりが始まる可能性も高い。 蟲送りの儀とは、世界の現状を維持するため「一本足」が紅色の火を保って蟲を追い払う機能を指す。 「あの蟲はどこに追い払われたの?」とサリーは訊ねた。 「それは私にもわからない」と羊は言った。 「あの女の子は何?」 「一本足、天使の中でも特に蟲

          UTOPIA#16 蟲送りの儀

          UTOPIA#15 龍憑き

          「私をお前の中で眠らせてはくれないだろうか」 永く生きた古龍は少女にそう告げた。硝子細工のように透明で儚い声だった。その音色が余りに純粋な海色を思わせるので、少女は逃げ出す事ができなかった。厳かな空気に心と共に躰が硬直していた。僅かに残された自由を抱きかかえるようにして少女は訊ねた。 「どうして?」 「私の内側にある膨大な力は、私を生かした。恐ろしく永い時を、この世界における有数の強者として生かした。人であった頃、私達は蹂躙され簒奪される弱者でしかなかった。龍に成って、

          UTOPIA#15 龍憑き

          UTOPIA#14 秋月の魔物

          その獣は月に擬態して、餌を待ち構えている。地上の生物や翼を持つ獣は超越のため、月を目指す。秋月の魔物はそういった者を捕食して力を蓄え、本統の月への到達を悲願としている。 「秋とは何?」とサリーは羊に訊ねた。 「大昔には四季というものが存在した。今の世界はどこもかしこも大体寒いけどね。恐らく一巡目の人の記憶が微かに残っていて、秋月を自称しているのだろう」と羊は言った。 偽物の月明かりに照らされながらそんな話をしていると、獣が首を伸ばして来た。亀のような頭部に、星の重力を振

          UTOPIA#14 秋月の魔物

          UTOPIA #13 戦士とペンギン

          躰を糸のように解いたり束ねたりする獣。少女が果敢に鎚をもって戦いを挑むが、ペンギンはそれを引き留めている。 少女の勇気は幼少期より脅威に晒され続けた結果、恐怖や危険を感じる機能が損なわれる病を源とするものである。彼女らはその後、無事に生き延びる事ができたのだろうか?

          UTOPIA #13 戦士とペンギン

          UTOPIA#12 憤怒

          大小様々な人の社会において、敵対的存在を一時的に鎮めかつ食い扶持を減らすため、人身御供が盛んに行われるようになった。常のようにある小さな国では、一人の青年が選ばれた。 彼は自分の役割に納得していた。子供の頃から我儘を言った事がない、心根の穏やかな男だった。両親や町の人々に最後の別れを告げると、意を決して山の奥に潜む溶融する獣の元へ向かった。 山を登る最中、彼は胸中に熱いものが宿るのを感じた。自分の犠牲が彼らを守る、そういった使命感とそれを成し遂げられる満足感

          UTOPIA#12 憤怒

          UTOPIA#11 夕立の悪魔

          小紫色の積乱雲から刃物のように鋭い雨粒が地上に叩きつけられる。夕立の悪魔が現れる時、空は真っ赤に染まって、死を孕む雨風が地上を薙ぎ払った。 サリーは小さな黒い傘で身を守り、その致死的な暴威に輝きを見出していた。 それがここを過ぎ去った時、この土地には水と破壊の痕跡だけが残る。きっとその景色は清々しく美しいのだろう。 少女は風に掻き消されないよう、傘を強く握りしめた。

          UTOPIA#11 夕立の悪魔