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UTOPIA#14 秋月の魔物


その獣は月に擬態して、餌を待ち構えている。地上の生物や翼を持つ獣は超越のため、月を目指す。秋月の魔物はそういった者を捕食して力を蓄え、本統の月への到達を悲願としている。

「秋とは何?」とサリーは羊に訊ねた。

「大昔には四季というものが存在した。今の世界はどこもかしこも大体寒いけどね。恐らく一巡目の人の記憶が微かに残っていて、秋月を自称しているのだろう」と羊は言った。

偽物の月明かりに照らされながらそんな話をしていると、獣が首を伸ばして来た。亀のような頭部に、星の重力を振り切るには不細工な出来損ないの翼、飢えが滲む一つの瞳がサリー達を見下ろしていた。

駆け足でその場を離れながらサリーは呟いた。

「届いたとして、どうせ後悔するのにね」


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