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コラボ企画短編小説『スカーレット』

今回は、青紗蘭さんのコラボ企画に参加させて頂きました。青紗蘭さんのお題から想像したことを書かせて頂きました。こんな内容で良かったのでしょうか・・


【スカーレット】

優(すぐる)の朝は遅い。もうテレワークが常態化して何年経ったか分からない。押し寿司のようにぎゅうぎゅうに詰め込まれた満員電車が、遠い昔のようだった。

いつものようにコーヒーを淹れ、ボサボサの髪を掻きながら、携帯を開く。SNSを一通りチェックして、YouTubeに辿り着くのが日課。朝はコーヒーしか飲まない。今日のコーヒーは一段と苦い。昨日の彼女のセリフがリピートされている。

『私に相応しいのは純白ではないわ。私は、燃えるような赤だけが欲しい。
ラストダンスに命捧げ、このまま赤き蝶になる。私を止められるものなどいない。私を振り向かせられるのは苛烈なまでの燃える情熱だけ。私が燃え尽きる程じゃなきゃいらないわ。
貴方には、その覚悟がおあり?』

今考えても、それに対する答えが見つからない。このセリフを放ったのは、伊集院奏恵、28歳。優より2歳年下。彼女は、有名な資産家の娘であることは後に知った。知っていたら近付かなかった。彼女との出会いは、忘れもしない丁度1ヶ月前の水曜日だった。

水曜日の午前中は管理職だけの会議があることを良いことに散歩に出る。その日も、水で髪の毛の体裁だけ整えて、散歩に出た。初夏の香りが街を覆っていた。日差しという名のスポットライトに照らされた1人の女性が目の前に現れた。身長は170センチ前後。スレンダーな体型から、スラッとした足が伸びて、赤いハイヒールを履いている。でも、何か困っていそうだった。何気に近付くと、ハイヒールがグレーチングに挟まって動けなくなっていた。

『大丈夫ですか?』
何故か普通に話しかけていた。普段は人見知りのくせに、何故か普通に話しかけていた。話しかけてから逃げ出したいぐらい恥ずかしくなった。
『取れないのよ。』
『こういうのは、少し回しながら取るといいんですよ。』
と言い赤いハイヒールを掴みながら、グレーチングから抜いた。すると、その女性はフラつき、優の肩に手を付いた。あっ、人が履いてる靴ということを忘れていた。
『ちょっと、危ないぢゃないの。でも、ありがとう。御礼がしたいわ。連絡先教えてよ。』

そう言って、半ば強引に連絡先を交換した。何故か彼女は積極的だった。どちらかと言うと奥手な優を引き込んでいくかのように。そして、優もいつしか彼女の魅力に気付き始めていた。何故か心地よい。理由は分からない。何故か一緒に居たい。これって好きという感情なのか?優は自分の気持ちが整理出来ずにいた。一つだけ確かなことは、奏恵に支配されているということだった。

昨日は3回目の食事だった。たわいも無い話をし、レストランを出て、いつものように別れるはずだった。その時、奏恵は真剣な表情で、優に言った。

『私に相応しいのは純白ではないわ。私は、燃えるような赤だけが欲しい。
ラストダンスに命捧げ、このまま赤き蝶になる。私を止められるものなどいない。私を振り向かせられるのは苛烈なまでの燃える情熱だけ。私が燃え尽きる程じゃなきゃいらないわ。
貴方には、その覚悟がおあり?』

人生の中でこれ程までに目が点になったことはない。瞬間冷凍されたマグロの気持ちが分かった。何も言葉が出ない。それどころか全身が動かない。それを見た奏恵は、

『ふふふ。じゃあまたね。』

と帰っていった。

今日のコーヒーは苦い。

続く

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