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スカーレット企画、最終章

第1話↓

第2話↓

第3話↓


【最終話】

『ねぇ、優。婚姻届の記入終わったら、こっちの書類2枚にも名前と印鑑押してね。』
『それ、何の書類?』
『ほら、こないだお父さんから打診があったでしょ。取締役就任の話。その書類よ。』
『あー、OK!』

奏恵は息を殺しながら、優の手元を見つめていた。これでいよいよかと思うと胸の高まりが止まらない。優の覚悟は本当に決まったみたいだ。

『書けたよ。結婚って普通でも準備すること多いけど、そこにまさかの取締役就任だもんね。バタバタするよね。』
『そうだね。でも、本当の試練はこれからだもんね。』
『うん、2人で頑張っていこう。』

優がそう言い終えた頃には、奏恵はキッチンに立っていた。優からの死角になるように立ち、舞に連絡した。【全てがうまく行ったと。】

『その人って、髪の毛ボサボサぢゃなかった?』
『そう言われれば、手櫛でセットした感じだったかしら。』
『優柔不断で、実年齢より年下な感じぢゃない?』
『それは、そうね。奥手タイプですわ。』
『もしかしてだけど、名前は、優?』
『えっ、どうして?渡辺優よ。』
『それ、私の幼馴染なのよ。』

これが全ての計画の始まりだった。舞は、優に深く傷付けられたことをずっと胸にしまっていた。2人があまりに仲が良かった為に、校内で付き合ってるという噂が流れたことがあった。校内で揶揄われた時、優は言った。

『なんで舞なんかと付き合うんだよ。付き合うならもっと女性らしくて可愛い女と付き合うよ。お前らもそう思うだろ?』

揶揄った生徒たちは去って行った。それ以来揶揄われることはなくなったが、優を見る目が変わった。舞は優が好きだった。なのに、優は・・。その晩は泣き続けた。その涙はやがて2つの決心を齎した。

【物事はストレートに言おう。】
【いつか優に・・・。】

奏恵と舞は出会ってはいけない2人だった。奏恵の父は一代でここまでの財を築いてきたが、資金繰りに悩むことが多くなっていた。もう担保に入れる不動産もなかった。最終手段の連帯保証人を探すしかなかった。

そんな時に現れた優という世間知らずの男。これは利用するしかなかった。奏恵にとって、父の会社は自分の人生を謳歌できた代物だった。無くすわけにはいかない。そこに舞という強力な助っ人を手に入れた。このチャンスを逃す訳にはいかなかった。


奏恵に婚姻届を渡した優は、奏恵の目線に注目していた。優も一種の賭けに出ていたからだ。案の定、奏恵は書類に目線を向けることなく、いつもの鞄に入れた。そして、奏恵から隠れるように舞に連絡した。【全てがうまく行ったと。】


『舞から突然の呼び出しなんて珍しいね。どうしたの?』
『色々悩んだんだけど、私決めたの。全てを打ち明けるって。』

舞の目にはキラリと光るものがあった。そんな舞は見たことがない。そこからは衝撃発言のオンパレードだった。嘘だと思いたかった。しかし、舞の表情がそうはさせてくれなかった。全てを聞き終えた優は、あの日同じ場所で言った台詞を思い出しながら、

『俺、前から好きだったよ。』

と打ち明けた。舞は泣き崩れた。そこから2人でいかに奏恵の作戦を交わすかを相談した。舞は奏恵の仲間を演じ切ること。優は騙され続けている演技をすること。婚姻届は、わざと数ヵ所間違うこと。連帯保証人の書類には、奏恵の名前と印鑑を押すこと。舞は退職届を出すこと。を確認した。


2人から【全てうまく行った】連絡を受けた舞は、遠くの空を見ていた。いつか仕返しをと思っていた自分を戒めるように、退職届を破り捨てた。これで、本当に【全てうまく行った】。

赤いスカーレットの花言葉は、『情熱』。
青いスカーレットの花言葉は、『知恵』。

歪んだ情熱が歪んだ知恵を生み出した悲しい夏の出来事だった。


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