見出し画像

【フリー台本】行き着く先は(男1女2)

※有料記事になっていますが、無料で全文読めます。利用も無料です。
※台本ご利用の前に必ず利用規約をお読み下さい。

【概要】

あらすじ

ある大学のあるサークルで繰り広げられる、ありふれた恋模様。
──だと思いきや、サークルのキャンプの夜、大学生の悠真は斧を持った女に追われる事態に……

情報

声劇台本 3人用
編成   男性1人 女性2人
上演時間 約40分

<>内はト書き。

登場人物

◆悠真
 大学三回生の男性。
 恵まれた容姿と頼りになりそうな雰囲気と誰にでも優しい態度で、とてもモテる。

◆彩乃
 大学二回生の女性。
 悠真とは高校が一緒だった。あまりそんな素振りは見せないが、実は黒塗り高級車で運転手が送迎しているようなお嬢様。

◆愛理
 大学二回生の女性。
 彩乃とは大学で出会って友達になった。二人でよく一緒に行動している。悠真のことが好き。
 登場人物三人とも同じサークル。


【本文】

   <悠真ゆうま、はあはあと息を切らしながら、山道を走っている>

悠真
 「クソ! 山道で走りにくいのもあるけど、逃げても逃げても、距離きょりはなせねぇ!」

愛理
 「ねえ、どうして逃げるの? 逃げることないでしょ? ちょっと止まってよ。 わたし、少しお話したいだけだよ?」

悠真
 「はぁ、はぁ! ちょっとお話するだけに、おのはいらねぇんだよ!」

愛理
 「逃げるからでしょ? ほら、えだを落としながらだと追いかけやすいもの。足を落とせばもう逃げることもないし?

悠真
 「ひぃいいっ! やっぱり俺に向ける気 満々じゃねぇか!」

愛理
 「ねえ、ねらいがさだまらないとあぶないわ。ねぇ、止まってよぉおお!」



悠真モノローグ
 山の中。斧を振り回す女。追いかけられている俺。絶体絶命だ。
 俺は……どこで間違ったんだ?


   <間>
   <場面転換、過去のシーンへ。大学内、サークルの部室>


悠真
 「ごめんなぁ、結構けっこう遅い時間まで付き合わちゃって」

愛理
 「い、いえいえ。私は全然! 自分から残るって言ったので……」

彩乃
 「あ、私にはあやまってくれないんですか? センパイ」

悠真
 「彩乃あやのにも悪いと思ってるって。らかり放題ほうだいだったサークル部屋の片付けと掃除そうじをしようって言ったとたん、二人以外みんな、用事ができるんだもんなぁ。絶対逃げただろ」

彩乃
 「私と愛理あいりには感謝してくださいよね!
 ……っくしゅん! あぁああ! まだすごいホコリっぽい」

愛理
 「ははは、大丈夫?」

悠真
 「本当、ありがとう。二人にはすっごい感謝してる。おかげで終わりそうだよ。
 じゃ、俺、ゴミ捨ていってくんね」

   <悠真、部室から出ていく>


愛理
 「あああああ! もう! 悠真さんカッコ良すぎ! やばい! 心臓もたない!」

彩乃
 「はいはい、そうだね」

愛理
 「サークル内外ないがいわず大学で女子に大人気!
 自分なんかが会話できるなんておこがましいほど高嶺たかねの花な悠真さんと、おしゃべりしながら掃除できるなんて!
 ほんっとみんな帰ってくれてありがとう!」

彩乃
 「私はお邪魔じゃまでごめんなさいね」

愛理
 「いやいやいや。ふたりっきりじゃ多分、わたしだまんでたから! 彩乃がいて助かったよぉ。
 あ……ていうか……彩乃と悠真さんって、そんなに仲良さげだったっけ?」

彩乃
 「ああ。言ったことなかったけ? 実はね、高校で委員会が一緒だったんだ」

愛理
 「そうだったんだ! それで、彩乃はセンパイ呼びしてたんだ。納得なっとく

彩乃
 「一緒に委員会の仕事することも多かったから、多少仲良くしてたし、センパイからはいつのまにか呼び捨てになってたね」

愛理
 「なるほど、そういうことね」

彩乃
 「だから、私とセンパイが仲良さそうにしてたって気にすることないからね?」

愛理
 「そこはちょっと気になりつつ、悠真さんの新情報を得られて大満足です!
  ハッ! ……ってことは、彩乃から悠真さんの高校生時代の話が聞けるということ……⁉︎
  ヤバい。男子高校生ヤバい」

彩乃
 「本当、センパイのこと大好きだね。そんなに大好きなら、告白とかしないの?
 なんなら、私、先に帰るよ?」

愛理
 「こ、こ、告白とか! いやいや、好きだけど!
 でもね! 成功するビジョンが全く見えないし!
 ていうかそんなビジョン思い浮かべるのも申し訳ないし……!」

彩乃
 「案外、成功するかもしれないじゃない? ……あ! センパイ、おかえりなさい!」

愛理
 「ぅえっ⁉︎」

悠真
 「うん、ただいまー」

彩乃
 「おむかえが来たみたいなんで、私、お先しますね!」

愛理
 「お迎え⁉︎ って、なに⁉︎」

悠真
 「彩乃、大学生になっても運転手つきの黒塗くろぬり高級車で送迎そうげいか……。
 お嬢様じょうさまっぷり健在けんざいだなぁ」

愛理
 「彩乃、お嬢様だったの? ちょっと今日、新情報多いんだけど!」

彩乃
 「では、失礼いたしますわね。ごめんあそばせ〜」

   <彩乃、ひらひらと手を振りながら部屋から去る>


愛理
 「本当に帰っちゃった……」

悠真
 「えっと、じゃあ……俺らも今日のところは、終わりにしよっか」

愛理
 「あ……はい……そう、ですね!」

   <気まずい無言の間が入る>


悠真
 「ん……と……ごめん、さっきの会話聞こえちゃった」

愛理
 「えっ⁉︎ えっ……と、どの会話……聞こえたってなにがですか?」

悠真
 「俺のこと、好き、だって」

愛理
 「え、え、えぇえ! えっと……! ですね! そう、えっと!
 あの! 好きです。確かに好きって言いました!
 けど、あの、そういうのじゃなくてですね、あこがれというか、芸能人見てる感じというか!」

悠真
 「あ……そう、なんだ。あはは……そっか。俺の勘違かんちがい、か。自意識過剰じいしきかじょうずかしいな」

愛理
 「あ、いや、そうじゃ、なくて! 勘違いとかじゃないんですけど、そうじゃなくて!」

悠真
 「ふふ、ちょっと落ち着いて?
 俺は、ひょっとして愛理ちゃんと付き合えたりするのかな?
 なんて思っちゃったんだけど……それは違う?」

愛理
 「違わ……ない……です」

悠真
 「うん」

愛理
 「……あの……悠真さん。好きです。ずっと……好きでした」

悠真
 「実は、俺も愛理ちゃんのこと気になってた。

   <軽く咳払せきばらい>


悠真
 「愛理さん、俺と付き合ってください」

愛理
 「え……? は、はい! もちろんです! よろしくお願いします!」


  <間>
  <場面転換。二週間後、大学内の食堂>


彩乃
 「あ、愛理! 一人でお昼?
 もう、私も一人だったんだけど! さそってよ! ここすわっていい?」

愛理
 「え……ええっと。いい、けど」

彩乃
 「お腹すいたぁ。大学の食堂ってたいして美味しくないんだけど、たまにこう、このチープな定食が食べたくなるのよねぇ」

愛理
 「わかるような、わからないような……」

彩乃
 「そういえば愛理。ちょっと前にさ、悠真センパイに告白するって言ってたじゃない? 結局どうしたの? 告白した?」

愛理
 「んっ⁉︎ ゲホッ <食べている物がむせる>
 ……えぇっと⁉︎ なんの話⁉︎」

彩乃
 「んん〜? その反応は怪しいなぁ? ひょっとして告白成功しちゃった?」

愛理
 「な……なんで……そんな一言も……」

彩乃
 「最近付き合い悪いし? 幸せオーラてるし? 背景に花 背負しょってるし? それに、前みたいにセンパイの話しなくなった」

愛理
 「うわぁああ。そんなにわかりやすかった……?」

彩乃
 「うん。実は前からそうじゃないかなって思ってた。いつ報告ほうこくしてくれるのかなぁって、待ってたんだけどなぁ」

愛理
 「ご……ごめん! 相談乗ってくれてたのに! えっとね……
 <小声で> うん。悠真さんと付き合い始めた」

彩乃
 「やっぱり! 付き合い始めてたんだ! おめでとう!」

愛理
 「ちょ、声大きい!」

彩乃
 「あ、ひょっとして、付き合ってるの秘密って言われたんでしょ?」

愛理
 「え……そう、だけど……なんでわかったの?」

彩乃
 「んーと、学内でベタベタしてるの見てないから、そうかなって」

愛理
 「彩乃、かんするどすぎるよ……。うん、付き合ってることはかくそうって言われた。サークル内恋愛のせいでみだしたくないからって」

彩乃
 「確かに、サークル内恋愛って付き合ってる時も別れた後も気使うところあるかもね。
  で! 実際じっさいのところ、いつからいつから? いつのまに⁉︎」

愛理
 「えっとね、前に部室の掃除した時だけど、二週間前くらい?」

彩乃
 「きゃー! まだまだ付き合いたて! きゃー! もうデートくらいしたよね? どうだったどうだった?」

愛理
 「わぁー。ぐいぐい来るぅ」

彩乃
 「私にまで秘密にしてたんだから、知ったからにはぐいぐい聞く権利あると思いますけどぉ?」

愛理
 「うぅううう……。うん……デートらしいのは一回行った、よ」

彩乃
 「だよね、だよねぇ! 二週間あったもんね! キスくらいしたんでしょ?」

愛理
 「えっ! えっと……うん、まあ……」

彩乃
 「ふふふふふふー」

愛理
 「初デートでキスってちょっと早いかなぁ? でも大学生の恋愛ってこんな感じ?」

彩乃
 「どうだろねー? そんなもんなような、早いような?
  あ、そういえば。悠真センパイモテるから元カノのうわさとか聞いたことあるけど、結構 手早いらしいよ」

愛理
 「も、元カノ⁉︎ あ……そりゃあ いるに決まってるよね。うん。
  ……そうなんだ、手、早いんだ……」

彩乃
 「ん? まんざらでもなさそう? ひょっとして次のデートの時は……」

愛理
 「ちょ! もうっ! やめてよー」

彩乃
 「進んだら教えてよねー」


悠真
 「や。なんの話してるのー?」

彩乃
 「センパイ!」

悠真
 「二人が見えたからさ、ざりにきた。ここ座って、いい?」

愛理
 「わ…わたしは…いいけど」

彩乃
 「えー、女子トークに割り込んできます?」

悠真
 「なに? 男が聞いちゃいけない話でもしてたの?」

彩乃
 「それは……どうでしょう? けど……ふふ。聞いちゃった。付き合い始めたんですって?」

悠真
 「ちょ……おい、愛理。早速さっそく 約束やぶったのかよ」

彩乃
 「違いますって! 愛理ちゃんから話したんじゃないの!
 私、告白するって相談されてたからね。その後どうなったの? ってめちゃったんです」

愛理
 「ごめん……なさい! 隠し通すべきでしたよね?」

悠真
 「ああ、うーん、それならいいよ。俺も、うたがってごめんな。
 でも、ここでとどめておいてくれよ?」

彩乃
 「あ……ああ! そっか!
 愛理ごめん! ボッチだったんじゃなくてセンパイと待ち合わせしてたんだ!」

愛理
 「あ……うん。まあ。ごめん。言い出せなくて」

彩乃
 「じゃあ お邪魔虫じゃまむしは、そろそろ……」

悠真
 「あ、彩乃! いいよ。いてよ! それならちょうどいいからさ、サークルのキャンプ企画の話進めよう。他の実行委員のヤツら積極的に動いてくれないし」

彩乃
 「まだ決まってないところ、どこでしたっけ?」

悠真
 「場所はいくつか候補こうほあったけど、彩乃が教えてくれたロッジで、決めようと思う。で、ひとまずだいたいの参加人数で仮押かりおさえした。それから、車出してくれるやつとか早めに確認して……」

彩乃
 「あ、私、車出せますよ」

愛理
 「彩乃、免許めんきょとか車あったんだ」

彩乃
 「うん。普段は運転手が運転するけど、うでにぶらないように、たまにちゃんと練習してるから大丈夫!
 車も自分のだから遠慮えんりょいらないし」

愛理
 「運転手……自分の車……お嬢様じょうさまって本当の話だったの……」

悠真
 「ありがと! 助かる! あとは……まずは出欠 出してない人らに催促さいそくメールも送らないと。そこが確定しないことには役割分担やら部屋割りやら細かいこと決めらんないからな。それから……と……」

   <女二人でヒソヒソと>

彩乃
 「せっかくセンパイとの時間だったのに、こうなっちゃってごめんねぇ、愛理」

愛理
 「ううん、いいよ。またデートの予定もあるから、そっち楽しみにしとく!」


   <間>
   <場面転換。とある駅前で愛理と悠真が待ち合わせをしている>


愛理
 「ごめんなさい! お待たせしちゃいましたか?」

悠真
 「ううん。俺もさっきついたところ」

愛理
 「うわぁ、それ、絶対待たせちゃったやつじゃないですかぁ!」

悠真
 「そんなことないって」

愛理
 「悠真さんすごく忙しい人だから、今日デートできてうれしい」

悠真
 「うん。お家デートも多かったしね。俺も久しぶりに愛理と出かけられてうれしい。
  今日の私服、大学いるときとちょっと雰囲気違ってかわいいね」
愛理
 「う……あ……ありがとう。うれしい」

悠真
 「今日は車なんだ。あっちの駐車場に停めてるから。ドライブデート、しよ?」

愛理
   <小声で>
 「車とか、かっこいいぃいいー! なに、この大人のデート!」

悠真
 「ん? 何か言った?」

愛理
 「ううん。なんでもない!」


   <間>
   <車の中。悠真は運転中。愛理は助手席>


愛理
 「どこ行くの?」

悠真
 「どこか遠く。大学のやつらとかバイトのやつらとかに会いたくないからなー」

愛理
 「どうして?」

悠真
 「こんな可愛くしてる愛理みせられないもん。他のやつにれられちゃったら困る」

愛理
 「そ……それは、言い過ぎ。私そんな、悠真さんみたいにモテないよ」

悠真
 「自分の魅力みりょくに気づいてないだけだよ」

愛理
 「そんなこと言ってくれるの、悠真さんだけです」

悠真
 「俺だけでいいの。そういうこと言うのは」

愛理
 「うう! もう! 恥ずかしげもなくそんなこと言う!
 ああ、ほら、悠真さんのケータイ、さっきから何度も鳴ってるよ。メールかな?」

悠真
 「運転中だしほっといて」

愛理
 「こんどは着信……あれ……女の子?」

悠真
 「たぶんバイトの先輩。シフト変われって電話だと思う。無視無視!」

愛理
 「でも……バイトのことなら出ないとまずくない?」

悠真
 「運転中に電話出る方がダメなの。あとで折り返すよ。ケータイ、俺のカバンにつっこんどいて」

愛理
 「そっか。それもそうだね」

悠真
 「それに、バイトの先輩とはいえ、デート中に他の女の話なんか聞きたくないでしょ。今は大事な、愛理との時間なんだから。
 あ。適当に走っちゃってるけど、どこか行きたいところあるなら、向かうよ」

愛理
 「私、地方出身だからあんまりこのあたり知らなくて……」

悠真
 「おっけ。じゃあ、まかせて」


   <間>
   <デート終わり。悠真、愛理のアパートの前まで送る。>


愛理
 「今日はとっても楽しかったです。家にまで送ってもらっちゃって、ありがとうございます」

悠真
 「当然だよ。俺もすごく楽しかった」

愛理
 「──あ、あの……部屋でお茶でも、飲んで行きませんか?
 あの、泊まってもらっても……」

悠真
 「んんー。おさそいはすごく嬉しいんだけど……。
  夜、宅配が届く予定になってて。今夜のがしたら受け取れる日ないからさ。帰りたいんだ」

愛理
 「あー……それなら、うん……しかたないね」

悠真
 「ごめんね、今夜はこれでゆるして?」

   <悠真、愛理を抱き寄せてキス。悠真のリップ音>

愛理
 「ん……許す。悠真さん、好き。大好き」

悠真
 「うん。じゃあ、また連絡するね」


   <間>
   <悠真、同じ夜。マンションの一室のインターホンを押す>


彩乃
 「あ、おかえりなさい。センパイ。今日はもう来ないかと思いました」

悠真
 「ただいま、彩乃。泊まりに行くって、約束してたでしょ。俺はちゃんと約束は守る男なの」

彩乃
 「約束の時間は過ぎてますけど?」

悠真
 「それはもともと、大体でしか決めてなかったろ?」

彩乃
 「うそうそ。センパイ、誠実せいじつな人だもんね! 直前まで他の女とデートしてても、ちゃあんと次の約束は守るもんね」

悠真
 「トゲのある言い方すんなぁ」

彩乃
 「私だって、まったく嫉妬しっとしないわけじゃないんです」

悠真
 「それでも、他のやつみたいに独占欲どくせんよくむき出しにしてこないから、お前と一緒にいるの すっごく心地いいよ」

彩乃
 「センパイが実は常に何股なんまたもかけてること、知ってるの私だけですもんね」

悠真
 「いや、それはお前だけじゃないよ?」

彩乃
 「ええ! うそぉ! センパイの浮気グセ知りながら付き合ってるの、私だけだと思ってた!」

悠真
 「浮気ぐせじゃなくて博愛主義はくあいしゅぎ。俺のこと大好き子はみんな等しく好きなんだってば。
  ……で、“彼女いるの知ってるけど、それでも付き合って”って言ってきたやつらが、自分一人じゃないこと、知ってるよ」

彩乃
「ああ。なるほど。誰かしら彼女がいると知られた状態で告られることもあるわけですね」

悠真
 「けどそいつらって結局、いつか略奪りゃくだつしてやるって魂胆こんたんだからさぁ」

彩乃
 「初めは二番目の女で良いって言ってたくせに、結局一番じゃなきゃ満足できなくなっちゃうやつね」

悠真
 「そうそう、それ。お前は絶対に一番にしてって言ってこないから、そういうとこ本当に大好き」

彩乃
 「ふふ。私はあなたが誰を愛していてもいいの。あなたの時間をほんの少し分けてもらえるなら、あなたの愛をほんの少し私に向けてくれるなら、私は幸せ。
 だから、私はいつでも、高校の時からずっと、最後にあなたの帰ってくる場所だから。覚えておいてね?」

悠真
 「聞くたびに思うけど、なんかすげぇよな。それ。俺の理想そのものだけどさ」

彩乃
 「結構クズな発想ですから、他の女の子には博愛主義 押し付けちゃダメですよ?」

悠真
 「わかってるって。
 ──で、今はお前を大事にする時間」

彩乃
 「ふふふ。嬉しい。私が一番大好きな時間。
 ……あ、一番って言っちゃいけないか」

悠真
 「それくらいは良いよ。ちょっとくらいの独占欲は見せてくれないとさ、本当に俺のこと好きなのか、不安になっちゃうよ?」

彩乃
 「うわぁ。センパイ、わがままぁ。
 ……大好き、ですよ。あなたの全部が、大好き」


   <間>
   <場面転換。サークルのキャンプの日。みんなでバーベキューをしている>


彩乃
 「愛理、なんか元気ないねぇ。せっかくのサークルのキャンプで、一番盛り上がるバーベキュー中だっていうのに」

愛理
 「うん……」

彩乃
 「センパイが別のグループや女の子とばっかり一緒にいるから?」

愛理
 「ううん……それは、ね。サークルのみんなには付き合ってるのかくしてるし……しょうがないって割り切ってるんだけど……」

彩乃
 「ほら、まずはお肉たべて! 何かあったの?」

愛理
 「えっと……ね……。ちょっと前に悠真さんが他の女の人と仲良さそうに歩いてるの、見ちゃったっていうか……」

彩乃
 「妹オチとかじゃなくて?」

愛理
 「妹さんがいるのかは知らないけど、姉や妹の距離感じゃなかったもん」

彩乃
 「センパイ、モテるから、女の方がってただけじゃないの? そういう場面よく見るじゃない」

愛理
 「うん……。そうかもしれない。
 付き合う前はね、そう言うの見ても、モテてるなぁくらいにしか思わなかったんだけど、今はすっごく気になっちゃって」

彩乃
 「センパイには聞いてみたの?」

愛理
 「聞けないよ。みにくく嫉妬してたなんて、知られたくない。悠真さんを疑いたくもないし……でも……」

彩乃
 「でも?」

愛理
 「付き合ってる彼女がいるのに、他の女とキスは普通、しないよねぇ?」

彩乃
 「え……そんな場面、見ちゃったの……」

愛理
 「見ちゃった……」

彩乃
 「うわぁ……センパイ……何やってんの……」

愛理
 「やっぱり、浮気……されちゃったのかなぁ」

彩乃
 「愛理が聞きにくいなら、私がセンパイに聞いてみようか?」

愛理
 「いいよ。浮気しましたか? って聞いて、『はい、しました』って、正直に答えるわけないもん」

彩乃
 「まあ、ね……。
 けど、ひとまずさ、疑惑ぎわくのことは忘れて、キャンプ楽しもうよ!」

愛理
 「悠真さんが近くにいるのに話しかけに行けないのもツラい〜! 生殺なまごろしだよぉ」

彩乃
 「浮気されたかもって言った次はソレか。ちょっと安心だけど」

愛理
 「だってひどいもん! 私 こんなに不安なのに、このキャンプ中は話しかけちゃダメだし、悠真さんのいる部屋にも行かない約束だもん! 本当は一緒にキャンプ楽しみたいのに!」

彩乃
 「あらあら……」

愛理
 「でもね、夜中、みんなが寝た後こっそり部屋に行ってみるつもり。それくらいいいよね?」

彩乃
 「それは夜這よばいと言うのでは……」

愛理
 「違いますー! ちょっと会いたいだけですー!」

彩乃
 「やめといたほうがいいと思うけどなぁ」


   <間>
   <夜中、悠真の泊まるロッジの外>


愛理モノローグ
 あ、悠真さんの部屋、あかりついてる。悠真さんか、同室の誰かか、起きてるのかな?
 窓からちょっとのぞかせてもらって……と。
 ……あれ? ここ男性部屋なのに……なんで……は?
 なんで女の子何人かと宴会えんかいしてんの?
 私に来るなって言ってたのは、なんだったの?
 みんな距離、近すぎだし……。ていうか、近いってレベルじゃ……。
 前にみた、キスしてた女とも違う……。
 わたしは……わたしの存在って、なんだったの?
  あんなに、好きって言ってくれてたのに。生涯しょうがいでわたしだけだって、言ってたのに。
 ……これ、わたし……怒っていいよね……

   <ドアを開けようとするが、鍵がかかっている>

愛理
 「ドアにかぎ、かかってる。 ふぅん……。
 あ、昼に薪割まきわりに使ったおの。……ちょうどいいわ」

   <愛理、鍵を斧で壊す>

悠真
 「な、何⁉︎ すっげぇ音したけど! 何事なにごと……。
 は? ドア壊れ……」

愛理
 「こんばんは。悠真さん」

悠真
 「愛理? なんで? 部屋来んなって言ったじゃん。それくらいの約束も守れないの?
 ……ていうか、このドア……」

愛理
 「なんで来ちゃダメだったの?」

悠真
 「このドア、愛理がこわしたの? その斧で?」

愛理
 「ねえ、なんで来ちゃダメだったの?」

悠真
 「いや……それは、同じ学年とかでの交流なんかもあるし……な? わかるだろ?」

愛理
 「そう。交流……。
 私とは、キャンプのあいだ 一言もしゃべってくれないのに?」

悠真
 「それは、付き合ってるの隠してるし……。
 あ、こいつらは、普段ふだんサークルに顔出さないから知らないかもしれないけど、俺と同学年なだけのやつら! べつになんにもないよ!」

愛理
 「へぇ……」

悠真
 「へぇ、って、ほんと同期で飲んでただけだって、ほんと、ちょっ……何、斧振り上げ……
 うわぁああああ!」

   <愛理の振り上げた斧が、悠真の足元の床に刺さる>

愛理
 「なんでけたんですか?」

悠真
 「けるだろ! 危ないから、その斧置けって!」

愛理
 「どうして?」

悠真
 「どうして? じゃ、ねえよ! 殺す気かよ! とにかく、逃げ……」

愛理
 「待ってよ、悠真さん。逃げないで。逃げないでよぉおお!」


   <悠真、はあはあと息を切らしながら、山道を逃げる>

悠真
 「クソ! 山道で走りにくいのもあるけど、逃げても逃げても、距離 引き離せねぇ!」

愛理
 「ねえ、どうして逃げるの? 逃げることないでしょ? ちょっと止まってよ。 わたし、少しお話したいだけだよ?」

悠真
 「はぁ、はぁ! ちょっとお話するだけに、斧はいらねぇんだよ!」

愛理
 「逃げるからでしょ? ほら、枝を落としながらだと追いかけやすいもの。足を落とせばもう逃げることもないし?」

悠真
 「ひぃいいっ! やっぱり俺に刃 向ける気満々じゃねぇか!」

愛理
 「ねえ、狙いが定まらないと危ないわ。ねぇ、止まってよぉおお!」

悠真
 「そんなこと言われて、すなおに止まるわけねぇだろぉおお!」


   <悠真、少しだけ愛理をひきはなし、しばらく走る>

彩乃
 「センパイ! こっちです! 急いで!」

悠真
 「え? 彩乃⁉︎ なんで⁉︎」

彩乃
 「話してる場合ですか! こっちまでくれば車があります!」


   <愛理と悠真、車に乗り込む>

彩乃
 「センパイ、早くドア閉めて! 出発しますよ」

悠真
 「はぁ、はぁ……助かった……あんな……危険な方向性に豹変ひょうへんする女だとは……思わなかった……。
 それで……彩乃はなんで?」

彩乃
 「愛理が夜中、センパイの部屋に行くって言ってたんで、修羅場しゅらばになってたら助けてあげようと思ってこっそりついてってたんですよ。感謝してくださいね!
 私も、まさか彼女が斧振り回すとは思ってなかったですけど。センパイ、何言ったんですか」

悠真
 「別に、なんも言ってねえよ。いきなり攻撃してきやがって……」

彩乃
 「じゃあ、愛理にとっては信じられない光景を見ちゃったんですねぇ。駄目だめですよ。あの子のは純愛なんですから」

悠真
 「来るなって言ってたのに来るから、見たくないもの見ることになっただけだろ? それで殺されてたまるかよ」

彩乃
 「ほんと、清々すがすがしいですね。センパイ。あ、着きましたよ」

悠真
 「ここは?」

彩乃
 「ひとまず、私の別荘べっそうです。実はあのキャンプ場の近くに一棟ひとむね持っていまして、それであの場所のことも知ってたんです」

悠真
 「そうだったのか……」

彩乃
 「きっと、朝になれば事態じたいも丸くおさまってますよ」

悠真
 「ああ。そうだな。
 はぁ……もう……どっと疲れた……」

彩乃
 「すぐ、あったかいお茶でもお持ちしますから。センパイ、ソファで待っててくださいね」


   <間>
   <翌日の朝>


悠真モノローグ
 ん……あれ? 朝……?
 俺……ソファで寝落ちてたっけ……。
 別荘に着いた後のこと、思い出せないな……。
 ん? ちょっとまって?
 なんで……手枷てかせ足枷あしかせがついて、柱にくさりつながれてんの……?

悠真
 「ま……まさか……アイツがここまで⁉︎ おい! 彩乃! 無事か⁉︎」

彩乃
 「センパイ? どうしました?」

悠真
 「はぁ。よかった。お互い生きてたな。
 ……あれ? 彩乃は拘束こうそくされなかったんだな」

彩乃
 「私が? どうして拘束されるんですか?」

悠真
 「は? 夜の間に彼女が来たんじゃないのか?」

彩乃
 「ああ。それ、やったの私です」

悠真
 「は?」

彩乃
 「愛理がここに乗り込んで来てたら、私たち今ごろ生きていませんよ」

悠真
 「それも……そうか……。
 ……え? じゃあ、これ、何?」

彩乃
 「外は危ないですから。しっかりここに、いてもらおうと思って」

悠真
 「うん……それはありがたいけど、このかせは、いらないでしょ? なに? そういうプレイしたかった?」

彩乃
 「プレイだなんて。エッチなんだから。でもこれはそうじゃなくてね。うーん……そうだな……。下着みたいなもの? つけているのが自然っていうか」

悠真
 「何……言ってんの?」

彩乃
 「博愛主義なセンパイも好きだし、センパイほど素敵な人が、私だけに時間を使うなんてもったいないと思うし、今まで言ってたことも全部本心なんですけど……。
 けど、本当は私だって、ずぅっとあなたのことひとめしたかったんですよ?」

悠真
 「独り占めって……は……?」

彩乃
 「ああ、やっと私のモノになった。これからはずっとずっとずっとずっとずっとずっと、一生、ここで私と暮らしましょう?」

悠真
 「いやいやいや。一生って。
 大学どうすんの? 他の女たちも友達も、うちの家族だって、行方不明となれば探すだろうし、警察に言うだろ。そんな何日ももたねぇぞ。こんな、監禁かんきんみたいな……」

彩乃
 「センパイったら、心配性なんですね。大丈夫ですよ。そんな些細ささいなことは、ぜぇんぶ、ちゃんと解決済みです」

悠真
 「解決……? 何を……? 何が……?
 お前、そんな感じじゃなかったろ? 俺のやること全部許してくれて、たまにかまってやればそれで満足だったろ?
 ていうか、そんなありのままの俺を愛してたんだろ?
 何、今になって……」

彩乃
 「愛してますよ? センパイの全部!
 私はこんなに狂おしいほど愛しているのだから、愛した分だけ返してくれる先輩と私の愛を等しくするなら、この形が一番かなぁって、ふと、思ったんですよね」

悠真
 「う……うわぁあああああ!」

彩乃
 「しぃっ! 大声だしたら、ご近所迷惑になりますよ」

悠真
 「ご近、所……?
  うわぁあああああああああ! 誰かぁああああああ!」

   <彩乃、タオルで悠真の口を塞ぐ>

悠真
 「んんっ!んぐぐぐぐ……っ!」

彩乃
 「もう。センパイと楽しく会話したかったのに!
 そんなことするなら、くちふさぐしかないじゃないですか!
 今はタオルしかないんで苦しいかもしれないですけど、自業自得ですからね?」

悠真
 「んっぐぅううう!」

彩乃
 「じゃあわたし、お腹すいたので、ちょっと朝ごはん買ってきます!
 イイコで待っていてくださいね。センパイ?」


悠真モノローグ
 俺は……いったいどこで間違ったんだろう?



  end


【台本のPDF】

縦書きのPDFファイルを用意しております。
ご入用の方はこの先の有料記事をご購入ください。
メンバーシップの方はメンバー特典でご利用いただけます。
(ランチタイム以上)

※有料記事部分にはPDFファイルしかありません。
※PDFをご購入頂かなくても、無料で台本はご利用いただけます。
 お間違えのないようご注意ください。

PDFサンプル

A4用紙横向き25枚

ここから先は

0字 / 1ファイル
この記事のみ ¥ 300

サポートは、記事ごとにちゃりん✨とクリエイターを応援できる機能です。 記事や作品がお気に召しましたらちゃりん✨としていただけたら大変 励みになります🎁 活動資金として大切に使わせていただきます。