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No.607  ね! ね?

私の若かりし頃、下世話に、
「結婚式のテーブルスピーチと女性のスカートは短ければ短いほど良い」
などと言われました。今では人権侵害とやり玉に挙げられるところでしょうが、その昔も、これに猛然と異を唱えた人物がいます。作曲家の團伊玖麿氏(1924年~2001年)です。「パイプのけむり」シリーズにあったと記憶するのですが、彼は言いました。
「むしろ、ない方がいい」
 
無い方が良いのは「スピーチ」か?「スカート」か?おそらく前者でありましょう。しかし、少々長いスピーチでも、良いものは良いとしか言いようがありません。
 
今から38年前、私はカミさんと結婚しました。恋は盲目です。私もその例外ではありません。その時、大学の恩師が少し長めのはなむけのスピーチをして下さいました。その中でも印象深かったのは、次の言葉でした。
 
「私たちは、爪先立つと不安定になります(※そう言って恩師は革靴のまま爪先立ちになりました)。しかし、これは『妻が先に立つ』、つまり『出過ぎ』ますと、このようによろけて、バランスがとれなくなります。又、逆に、今度はカカト(踵)のまま立っていようとしても、これまた不安定になります。これは『カカ(内儀)があト(後)』つまり『後れる』のも宜しくないという身体からの教えではないでしょうか。
 『妻は出過ぎず、さりとて遅れず』、夫婦相和し、共に同じ方向を見、足並みをそろえて生きて行って欲しいと思います。」
 
実演付きの恩師のそのスピーチは、洒落が効いていて温かみもあって、緊張気味の新郎新婦だけでなく披露宴に集まった人々や会場全体を和やかなムードにしてくれました。
 
私は「夫婦相和し、共に同じ方向を見、足並みをそろえて生きよ」のフレーズに大いに感激しました。後年、その言葉は、『星の王子様』の著者であるサン・テグジュペリ(1900年~1944年)の随筆集『人間の土地』(1939年出版)に拠るものではなかったかと思うようになりました。彼の言葉に、
「愛とはそれはお互いに見つめ合うことではなく、いっしょに同じ方向を見つめることである」
とあるからです。そのことを、八重樫一氏の「今週の名言」に教えて頂きました。
 
恩師は、いつ私がその謎掛けに気づくかを辛気な思いで待っていて下さったかもしれないのですが、先生が2011年に95歳で隠世されるまで気付けませんでした。
 
さて、同じ方向を見ていたつもりだったのですが、どこで、なにを、どうまちがえたものか、私の男心をくすぐった「奥ゆかしさ」はタンスの奥にしまい込んで鍵をかけ、私は「引き籠りがち」、妻は「出ずっぱりがち」のガチ同士になり、それぞれ好きな方を向いています。
 
「重くなるとも 持つ手は二人 傘に降れ降れ 夜の雪」
の句に文字がかすみます。いい都々逸ですね! ね?