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No.1019 信号待ち

在職の頃の、まだ我が頭皮が完全に見えなかった頃のお話です。

愛用の50㏄のバイク「セバスチャン」にまたがり、帰宅途中のことでした。交差点の赤信号で止まっていたら、右側の車線に外国車に乗ったきれいなお母さんが、小さな子供と一緒にこっちを向いて笑顔で手を振っています。

「へっ?なに?私?僕?俺?」
と自分の胸を二、三度指さすと、「うんうん」とうなずきます。
「はて、誰やらん?」
と、よく見ると、ウン年前の卒業生(教え子)でした。本当に久しぶりで、前回会ったのは彼女が独身の頃だったから、もう8年近くたっています。道の真ん中では立ち話も出来ず、信号はすぐに変わってしまいそうです。
 
それにしても美しい女性になったもんだなと感心して、人が見たら呆れそうな精一杯の微笑み返しをしたら、信号が変わってしまいました。ほんの十秒足らずの事でしたが、「なにやらゆかしき」思いがしました。
 
高校を卒業すると、女子は本当に美しくなります。男子は逞しさを感じるようになります。言葉遣いもしっかりしてきます。隣の仲良しのオジサンに話しかけるような高校時代とはエライ違いです。社会が育てる力というのは凄いなと思わされます。
 
高校時代に化粧なんかしても美しく見えないのは、慣れないからなのではなくて、内側が整っていないからではないかと想像します。社会のある種の厳しさが、身なりや心や言葉や化粧までも整わせるのではないかと思います。「ととのう」のは、サウナだけではなさそうです。
 
もちろん、化粧を必要とするものではない中高生の頃の肌の美しさには、一種の「畏れ」さえ感じます。


※画像は、クリエイター・あんころうさんの、タイトル「まいにちてがき絵日記 | No.241 | 夕方の信号待ち」をかたじけなくしました。やわらかく語りかけるような信号機です。お礼申し上げます。