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No.970 叱~ら~れて~、叱~ら~れ~て~♪

一昨日、お線香を上げにS先生宅を訪問しました。
今年83歳になるという奥様は、私の顔を見るなり、開口一番、
「遅いっ!」
と少し声を荒げられました。へ?なんで??
 
「今年は、主人の7回忌だったんですよ。お供養の祥月命日の1月8日に、いついらして下さるんだろうかと、私、楽しみにしてずっと待っていたのに…。もう、遅いじゃありませんか!」
とご立腹なのです。
 
S先生は、私が在職中に教頭だった敬愛する大先輩です。博学で研究熱心でした。田舎教師として委縮することなく、文部省の指定教育研究開発の主務についたり、日本私学教育研究所の研究員として従事したりしたこともありました。お話が巧みで理路整然としており、機関銃のように矢継ぎ早に言葉が飛び出します。一言反論すれば3倍、いや5倍になって跳ね返ってくるので手がつけられません。一体、この人の奥方は、この猛獣(いや、猛烈先生)をどう手なずけているのかと言うことが私にとって七不思議の一つでした。
 
S先生は、1994年(平成6年)3月に定年退職されました。その後は、専門学校で教壇に立ったり、地区の老人会の会長として長く活躍されたりしてきましたが、大病を患い、手術後は入退院を余儀なくされました。
 
7年前の2016年(平成28年)、臓器癒着の為に手術再入院しました。見舞いに行った私たちを待っていたのは、カモを待ちかねていた病床の猟師でした。「長居は禁物!」と見舞いの挨拶もそこそこにおいとまする予定でしたが、目の前のカモをやすやす逃してなるものか(?)と、病状の詳しい内容から、なぜか仏教観まで、ほぼ30分間S先生の独壇場となりました。

すでに、80歳を過ぎています。年明けには復帰し再起を図る思いを力強く述べておられたのに、年明けに誰一人として予想できぬまま、ついに帰らぬ人となりました。この世の無常を強く感じました。
 
毎年1月8日にお参りをしてきましたが、今年は、私に都合が出来て断念していたところでした。ところが、もう丸6年が経っていたのです。
 
叱られはしたものの、親しく奥さんと息子さんとお話をさせて貰いました。その帰りしなに、
「先生から忘れられたら、私、もうおしまいだと思ってます。」
と強気だった奥さんが仰いました。こんな者でも話し相手の当てにしてくださっているんだなと思うと、申し訳なさと有り難さが同時に押し寄せてきました。
 
「これ、先生の分です」
といって別れの挨拶の時に7回忌の折の「引き物」を与えてくださいました。半年がたっていました。奥さんの言ってやりたい気持ちが増幅するのに十分すぎる時間だったようです。今年、古希となった私ですが、来年は叱られないようにしたいと思います。
 
「古希になお叱ってくれる母が居る」
渡辺良平(奈良、73歳)
2007年(平成19年)「第7回有老協・シルバー川柳」より


※画像は、クリエイター・キッシー(かんたん英会話・筆ペン・ひらめくカード)さんの、タイトル「デジふでことば『おかえり・ただいま』」をかたじけなくしました。S先生と奥様の言葉のやり取りのように思えてきました。お礼を申し上げます。