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JLAU AWARD2022新人賞を終えて


春の陽気がただようあたたかな週末。

今年初の試みとしてランドスケープアーキテクト連盟が主催する「新人賞」が5名のプレゼンテーターの8分間のプレゼンと、5名の選考委員との10分の質疑によって議論されました。

ここには、どういう論点があったのかというのを少しでも残しておくことで、次にこの機会をめざす人や、これからランドスケープに携わる人たちの背中を押すような言葉が見つかればと思います。何より会場で抱いた感情をじぶんの中にだけ留めておくにはあまりに抱えきれない気持ちがあります。
以下は私の覚書なので、本来の意味と違っていたり、取りこぼしていたりする部分もあるかもしれないのですが…私の視点でのお話です。

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[ 総評 ]

三谷徹さん
・デザインの論理性
・その人の提案する空間が社会にどのような影響力を持つのか
・勇気をもらい、インパクトのあった人物

石川初さん
・このまま進んだ先に知らない風景が現れる開拓者の庭をつくってゆく人
・希望を持って世界を変えてくれるミッションと風景像
・ランドスケープアーキテクトとしてどういう生き方なのか
・後輩にどういうメッセージをデリバリーしていくのか

伊藤香織さん
・選考委員も候補者も方向性がまるで違う
・越境する人、分野の広がりを感じる人
・都市・地域・環境を考え影響を及ぼそうと考えている人

山崎亮さん
・若手の建築家は見つけれても若手のランドスケープアーキテクトは中々見つけられなかった 仕事を頼みたいと思える人
・形に落とし込んでくれる人
・対話の柔軟性があること

戸田芳樹さん(選考委員長)
・将来この人は何をやってくれるのだろうか?という期待感
・賞をとった人が5年後にどうしているのか知りたい
・心意気も含めたその人自身のこだわり


[ プレゼンター ]

1.髙木里美:石川初賞
「物語にすること」
・目の前の対象を突き詰めた先に普遍性を見つけること
・日常へのまなざし

□施主との関わり方の工夫やデザインのきっかけ
→とりとめのない手紙・施主の癖や大切にするものをひたすら集め分析する
□展示や本をつくることはランドスケープという文脈でどう位置づけるのか
→(どう答えたのか覚えておらず…今の答えを書きます)
物言わぬ自然や大地の声が人の暮らしに現れると思う
そういうものを観察し記録することも私たちの仕事の延長にある
□ランドスケープは広いところからものを見ることから始まるのに対し、人の物語にズームインした別の見方を獲得している。


2.山田裕貴さん:伊藤香織賞

「骨格と余白のある寛容な公共空間」
・排除しない・リユースブル・多様性
・手入れするように設計する

□設計施工のプロセスを問い直すときの障害は何か
→管理が存在しないとき施工で変える余地を残す
→制度を使いつつ乗り越えてゆく/仲間をつくっていくこと
□設計者は永遠には関われない あなたのオリジンは何か
→何に影響されているかはまだわからない、恩師の影響はある
→古いもの何百年と変わらないものには、変わらない理由があると思う


3.古家俊介さん:山崎亮賞

「アイソメ的設計思考」
・自然、アート、都市、まちづくり、土木、建築、造園とランドスケープの職能は幅広くその中でも建築との関わりを考える
・ニュートラルでフレキシブルな中間領域
・強さは賑わいや恣意性

□建築からランドスケープへの転機
→父がランドスケープの事務所をやっていたことは大きく影響していると思う
ある日突然というよりは段々と建築から移行した
□じぶんの設計がひどい使われ方をしているという悪夢を見る
あなたはどういう状態をそう感じるか
→愛されていない場所になっていたとき


4.大野暁彦さん:三谷徹賞

「自然のダイナミズムをおおらかに受けとめる」
・触れられる空間をつくる
・小さなよりどころをつくる

□大きなものに対して人の入口をつくっていると感じた
都市や自然にどう働きかけることができると考えているか
→サードプレイスがない場所で派生的な役割を持つこともある
→まず人の関心から変えてゆくこと
□ランドスケープアーキテクトとして学生に教えていることの中で大切なことは何か
→自然との対話
→建築を学ぶ学生が捉える時間との向き合い方
□「ぶるーむ」はどう林を読み取り線を入れたか
→3Dスキャンや根の表層を避けるなど結果的に生まれた
□今後やりたい分野や仕事はあるか
→大きな大地の操作・河川や流域を読むデザイン


5.丹部一隆さん:最優秀新人賞

「Landschaft」(shaft=集合体)
・技術と経済、網目のような構造体に対して横繋ぎする職能
・いつもどおりに異国の仕事をすること
・職能の力の大きさを自覚する
・困っている人に私たちの職能を

□できなかったことを話すプレゼンはとても良かった
□建築・土木と横断し仕事する上での秘密兵器
→良い提案・さまざまなスケールでのリサーチ、微細な勾配に含まれた魅力
□社会の仕組みに感じること
→業界の女性の少なさ、子どもや弱さに寄り添う視点が増える
□ランドスケープはどこにいてもできると思うか?
→関わりしろ(余白)をたくさん残す
□ドイツでできて日本でできないこと・日本で活かすと良いこと
→ドイツはデザインコンペで仕事をとるため、民間発注は少ない
→プロポでも敷地境界を超えた提案はあるが、日本ではほとんどできない
→ダイアグラムだけでもシートがA0サイズなど、空間の骨格への定義に重きがある


プレゼンテーターは、公平性を保つためプレゼンを控えた人は別室にて待機。
トップバッターだった私は唯一皆さんのプレゼンを聞けた候補者でした。
選考委員も、造園や建築、都市、まちづくり、コミュニティデザインと様々な評価軸を持つ方々がいるなかで、方向性の全く異なるプレゼンテーター5名から1番を決めるというのは、どういう指標が用意されるのか、セッショントークはほとんど心がここに無い状態で何を話していたのか覚えていません。。

総評を発表する際に、選考員の方々がおっしゃった
「希望」「その人自身の姿勢」といったキーワードはこの新人賞の評価軸であると感じました。
だからこそ、事務所を主催していなくとも
大きな組織や企業に属する人も
どんな人にもこの賞は開かれてるのだと感じました。

会場で直接感想を伝えてくださった方や、オンラインで聞いてくださった方々、
この会を準備するにあたって尽力してくださった方々
本当にありがとうございました。

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今回終わってからずっと考えてきたことは、「賞ってなんだろう?」ということです。

生き方を肯定してもらうため?
それを糧に前に進むため?

今回用意したプレゼンテーションは、これまでの自分で煮え切らなかった部分をある意味振り切らせた発表だったので、自分のなかでこういうことが大切と思ってずっとやってたのかぁと気づく瞬間があり、そういう【自分のなかの自分と出会い直すような機会】だったようにも思います。自分と死ぬまで隣合わせなのだから、自分を引き受けてやっていくことはこの機会で自覚的になれた気もします。
(質疑は本当にうまく答えれなかった。あんなにずっとお正月から、何をきかれるだろう、何を伝えようと考えてたはずなのにいざとなったら出てこなくてじぶんにがっかりもした…。)

そして、最後に選考委員長の戸田芳樹さんがおっしゃった
「5年後もその人の活躍を見ています。」という言葉は、賞と引き換えにもらう責務なのだと感じました。
こうしてプレゼンテーターとして壇上に上がった人たち・選考委員の方・プレゼンを聴いていてくれた人たちとあの場所で交わした「約束」なのだと思います。
ランドスケープといっても、ひとりひとりの捉え方、戦略、向き合い方は5人いたら5通りの道筋があるのでした。

そして私にとっての一番の幸運は
私以上に私を評価して、可能性を信じてくれるひとと、働けていることだと思います。
これまで携わってきた土地、ひとに誇れる自分で居たいです。

「物語」というのは、知らない世界の入り口であり伝えるということです。
ともに仕事をする人たち、これから仕事を頼んでくれるであろう人たち、そういう人たちに向けて、伝えたいことを受け取りやすいかたちに仕立てておきたいという思いがあります。


今回いただいた石川賞は、自分にとって初めてこの業界でいただいた賞です。

このまま建築を学んで仕事にするのか揺れていた学生時代
石川先生が学校で講演に来てくださったことがあり、その時に聞いたお話から
「じぶんの考えたい時間の尺度がランドスケープにはあるんだ!」とどきどきして眠れなかった日を境に、大野研究室に飛び込み今に繋がっています。
そういう自分にとってこの仕事に携わるきっかけとなった先生から
評価の言葉と賞をいただけたこと、本当に特別な思いがあります。。

JLAUの新人賞自体は、大野さんが応募するのに際して準備をしていたら
「高木さんも出せるじゃん!」とふわっと言ってもらったのがきっかけです。
それまで、ランドスケープを学問としてきちんと学んでいないことにどこか負い目があり、そういう自分が手の届くところなのか…?と訳もわからないままに、ポートフォリオを作っていました。
これまで社会に出てからの3年間、大学院にいった2年、椙山にいた4年
空間をつくる・考えることを生業にしている時間は9年も経っているんだと思い
改めて質疑や皆さんとの議論のなかで、自分自身とまた出会い直すことができたと思います。

本の中でしか知らなかった人たちが、じぶんの話を聞いてくれた時間があったこと
この会をきっかけに出会えた同世代や少し先の未来をつくってゆく先輩たち
仕事に向き合っているだけでは見えなかった横に並んで走ってゆく人たちを知れたこと
夢みたいにあっという間のじかんだったけれど、忘れられないような一日でした。

帰り道に見た枝垂れ梅

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