見出し画像

【はじまりはここから⑩】初めての夏山合宿を振り返る

大雪山黒岳ロープウェイ乗り場の5合目駅構内には電光パネルで大雪山の四季が大きく映しだされていた。
すごいところに行ったものだと感慨無量になった。

先生が人数分のロープウェイ券を買ってくれ、あっという間に層雲峡に下り着いた。
たかが数日であるが、とても懐かしいアスファルトである。
アスファルトがこんなにも心地よかったなんて。
公衆浴場の黒岳の湯にみんなで入り、汗を流す。
生きかえる心地がした。
ザックの底にビニル袋に包んで背負いつづけてきた短パンTシャツに着替えた。心身が軽くなった。

層雲峡からバスで上川駅へ向かった。
左側から昼の夏の日差しが車内に届く。
途中、〇〇の村というキャンプ場か何かの看板が行き過ぎる。
「怪しいなあ」と、H先生が言う。
そういうものなのかなぁと聞いていた。

ツバメ行き交う上川駅で列車の来る時間までしばらく過ごした。
駅前の地面のアスファルトの上で伸びたり、座ったり、撫でたり。
しょっぱいラーメンが食べたい。
食堂でみんなごちそうになった。
駅から見える大雪山の峰々を記した看板があり、少しだけ誇らしい気分になる。

ナナハンを買って飲み、その炭酸は身体中の隅々を駆け巡った。
ナナハンとは、ペプシの750mlのビン入りコーラのことだ。量の割に130円と安く、部活の際にもよく十亀商店で買って飲んでいた。
それも空き瓶を返却すると、30円戻ってくる。
いまでも、コ○コーラよりもペプシが好きなのは、この原体験によるものかも知れない。
ほかの仲間たちもそうかも知れないな。

こうして、ようやく無事に夏山合宿は終わった。

ほんとうに初めてのことだらけだった。
重たいザック、決死のジャンプ、長い沢登りと滝登り、焚き火、渓流釣り、O君の戦慄、たおやかな源頭や北沼、天上の楽園、長い一日、風雨濃霧の強行軍、悪天候下の炊事などなど…
まだまだあどけない少年だった。
初めてのことは、やっぱり忘れないものだなあ。

K先生のミスリードは、あの一件?以外、一度たりもなかった。ほんとうにすごい。

本来、登山とは自分(たち)が、登りたい山の対象を決め、研究し、想像し、計画し、準備し、実行中の判断を安全に連続してゆく創造的なものではあるが、
先生たちが連れていってくれた大雪山は教えてくれた。
「自分の時間の価値がわかり、仲間たちと生きる意欲を大事にできるような感触、うまく言葉にはできない淡く繊細な、でも力強い自信のようなものを与えてくれたような気がした。
生涯忘れ得ない初めての夏山合宿だった」

顧問先生、先輩や仲間のみなさん、素晴らしい青春のページの扉を開けてくれて、かけがえのない高校一年生の夏を刻むことができ、ほんとうにありがとうございました。

(帰宅後、3日間、足が筋肉痛で寝たきりになりました)

 誰も彼も 通り過ぎて
 二度とここに来ない
 青春は壊れもの 愛しても傷つき
 青春は忘れもの すぎてから気がつく
 一人で紅茶飲みながら
 絵葉書なんか書いている
 お元気ですか みなさん
 いつか会いましょう
 無邪気な春の語らいや
 華やぐ夏のいたずらや
 笑い転げた あれこれ
 思う秋の日
(思秋期/岩崎宏美)

失礼もあったかと思いますし、上手には書けませんでしたが、これらが高校入学し、山岳部に入り、最初の夏山合宿までの4ヶ月、人生の中でもっとも濃かったと感じる時間の様子たちです。

全10話、最後までお読みくださいまして、
ありがとうございました!

またいつか、思い出たちが恋しくなったときに、つづきを書きたいと思います。

Oくんがすすめてくれたレコードの名曲🎵

第一話へ戻る↓



この記事が参加している募集

山であそぶ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?