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【職歴エッセイ②】退職のきっかけはマスカット。2週間で辞めた冠婚葬祭業



 私がピカピカの「新社会人」だったのは、2007年。就職氷河期が終わり「売り手市場」といわれていた時期です。
とはいえ、第一志望だったマスコミ業界は倍率が高く全滅。なんとなく取得したウエディングプランナーの資格を生かそうと考え、冠婚葬祭業を主とする企業に就職を決めました。
 全国に結婚式場・葬儀場・貸衣装スタジオなどを展開している会社ですが、県ごとの事業所単位の採用で、同じ事業所の同期は30人ほどでした。

 地元では名の通っている会社だし、何よりウエディングプランナーには興味があったので、良い会社と縁があったと喜んでいましたが、内定後「聞いていなかった」という話が続出。「もう少し頑張ってみなよ」「絶対に後悔するよ」という反対の声を押し切り、2週間で退職しましたが、今でも全く後悔はしていません。

【聞いていなかった話①】入社前のアルバイト

 私がその会社に内定通知をもらったのは、大学4年生の春――GW前のことだったと思います。
 その後、秋口に開かれた内定者説明会で、採用選考時には全く聞いていなかった「入社前に、結婚式場でアルバイトをするように」とお達しがありました。「義務ではない」「参加するかどうかも、回数も個人に任せる」とも言われましたが、「するように」という言い方だったし、ゼロというのはまずいだろうと思い、3回ほど参加しました。

 入社後に周りに聞くと、3回という数は30人ほどいる同期の中でかなり少ない方でした。中には、ほぼ毎週アルバイトに行っていた人もいたようです。
 ただ私は、内定が出た段階で、そこから入社するまでの1年弱で、あれもしておきたい、これもしておきたいという計画を自分なりに立てていたし、そのときお世話になっていたアルバイト先にも「3月末までガッツリ働ける」と伝えていたので、3回でも正直憂鬱で。せめて、内定前の面接のときか、内定通知や最終の意思確認面談のときには、アルバイトの話を伝えておいてほしかったなと不満を抱きました。

 恋愛に例えると、交際前はそんなことをおくびにも出していなかったのに、付き合い始めた途端、「毎日電話するように」「自分(彼氏)との用事を最優先するように」と言われたような気持ちで。
 いくら私にとって恋愛が重要なものでも、恋愛だけを優先することはできないので。
 私が我儘すぎるのかもしれませんが、デートのとき(仕事でいうと、入社後の勤務時間)は、あなたを最優先にするから、それ以外の時間は私の自由にさせてという気持ちでした。

【聞いていなかった話②】3月に行われた入社式

 勝手に思い込んでいた私が悪いのかもしれませんが、一般的に入社式は4月1日だと思っていました。それが、2月に入ってから「入社式を3月末に行う」という連絡が。しかも全国の系列の結婚式場で持ち回りで行うことになっているらしく、その年の会場は飛行機でないといけない場所。移動日も含めて、2泊3日の日程が組まれていました。

 最悪なことに、その日付が大学時代夢中で取り組んだサークルの卒業イベントとかぶっていて。入社式を欠席するわけにはいかず、泣く泣く、卒業イベントへの参加を諦めることに。
 100人超えのサークルなので、私だけのために卒業イベントの日付を変えるのは難しいし、早く通知されていたからといってどうにかなる問題ではないけれど、せめて面接や内定者説明会など、どこかのタイミングで「入社式は3月末になる」「遠方なので泊まりになる」ということを示唆してくれていたら。卒業イベントの準備を始めた時点で「自分は出られないから」と諦めて一歩引くこともできたし、一生懸命用意したり、私の代役を探したりすることもなかったのにと、会社に対して不信感を抱きました。

 彼氏の突然の思い付きにふりまわされて、友達との大切な予定をふいにされたような気分です。

【聞いていなかった話③】そもそもウエディングプランナー採用ではなかった

 私の配属希望はもちろんウエディングプランナー。就職サイトの「ウエディングプランナー採用」のページからエントリーしたし、履歴書の志望動機欄でも、面接の受け答えでも、結婚式場での業務以外の話は全く出ておらず。採用試験や内定者説明会の段階では、葬儀場の「そ」の字も、営業の「え」の字も出なかったため、私はウエディングプランナーの採用試験を受験し、ウエディングプランナーとして採用されたと信じていました。

 が、3月末に入社式を終えた後、4月1日に初出社したときに驚きの通達が。
 「3カ月の研修期間の終了後、配属を決定する」と言われたところまでは、「どこの結婚式場に配属されるかという意味だろうな」と思い、うんうんと聞いていたのですが、「ここにいるメンバー(同期入社の約30人)を、結婚式場1:衣装部門1:葬儀部門3:互助会営業5の割合で配属する」と言われたときには耳を疑いました。
 「最初どこに配属されたとしても、その後の頑張りしだいで異動希望が通るから」とも言われましたが、もう「話が違う」としか思えず。
 周りもザワザワしていたので、私だけでなく多くの人が初耳だったのだと思います。

 その後、それとなく周りの話を聞くと9割超は結婚式場希望のよう。
 中には、ウエディング関連の専門学校出身で、「同じ会社先輩がいるので聞いていた」「だから、入社前の結婚式場でのアルバイトも頑張っていた」という人もいて、自分が狭き門を潜り抜けて、結婚式場に採用される可能性は低いだろうなと初日からあきらめの境地に。入社前の結婚式場アルバイトを3回しかしなかったことを悔やんだりもしました。

【聞いていなかった話④】退職の引き金になった特注の制服とマスカット

 結婚式場への配属を絶望視しながらも、入社初日には「せっかく就職したんだから」という思いもあった私。いったんは「研修だけでも頑張ってみよう」と気持ちを切り替えました。

 最初の研修は座学が中心。ウエディングプランナーの専門学校や、大学のサービス業関連の学部が出身の同期にどんどん差をつけられたり、研修担当者に「あなたは営業が向いているかもね」と、希望職種以外への配属を示唆されたりして、どんどんやる気がそがれていく毎日でした。

 昼食時には、結婚式場で出されているフルコースの料理を食べながらのテーブルマナー講座。それは割と得意だったし、おいしいお料理がタダで食べられてラッキーというくらいの気持ちで参加していたのですが、研修が始まって2週間が経過した日、退職の引き金となる出来事が。

 デザートにマスカットが出た日、私は皮ごと食べ、種も小さかったので飲み込んでしまったのですが、皆が食べ終わったとき、講師が全員に聞こえるくらい大きな声で「あれ? 小此木さん、〇〇さん、××さん! 皮も種もちゃんとナイフとフォークで取り除いてから食べないと!」と後出しで。
 そこまでは私以外にもやらかした人がいたし、「確かに、テーブルマナー講習だし、しまったな」と思えたのですが、講師からさらに「小此木さんは、さすが制服が特注なだけあって、食いしん坊さんだから」と言われたときには、殴られたようなショックが。
 内定者説明会のときに細かく制服の採寸をしたので、制服はオーダーメイドのようなものだと思っていたのですが、それはあくまでも、7号から13号までのどのサイズが合うかを見るだけのものらしく。上着はぎりぎり13号が入っても、タイトスカートは入らなかったリンゴ体型の私は、規定外で特注の制服を支給されていたようです。

 マスカットの皮のことも、特注の制服のことも、同期の中にもっと仲の良い人がいれば、ネタにもできたかもしれないけれど、「みんながライバル」という雰囲気の中、そんなこともできず。
 かねてから心の奥底に抱いていた「辞めたい」という気持ちが一気に噴き出して、その日の終わりに会社に退職の意向を伝え。数時間、研修の講師をはじめ、入れ代わり立ち代わりいろいろな社員から「もう少し頑張ってみなよ」「絶対に後悔するよ」という趣旨のことを言われ続けましたが、最終的には、「一晩考えてみて、気持ちが変わったら明日待っているから」と解放され。
 翌日になっても気持ちは変わらなかったので、総務に問い合わせ、退職関連の書類をそろえ、提出しました。

最後に

 今考えると、自分でも「そんなことくらいで」と思う部分もあるし、「どうしてそんなにウエディングプランナーにこだわっていたんだろう」「ウエディングプランナーはウエディングプランナーで大変だろうし、ほかの部署でもよかったのかも」とも思いますが、早々に退職したことは後悔していません。
 その後、もっと良い仕事に出会えたからこその結果論かもしれませんが、あのまま続けていても、最初から信頼できない、自己中な彼氏と付き合い続けるようなもの。マスカットが引き金にならなくても、いつかきっと爆発していただろうなと思います。

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