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バンテリンドームで球場メシ 2024.3.23

 2024年3月23日。朝から大粒の雨が道を濡らし大気の熱を奪っていく。なんで平日ずっと晴れてたのに、お出掛け予定のある休日に限って雨天なんだろう。これって……マーフィーの法則? あるある探検隊? 「あるあるネタ」のかっこいい言い回しを探したけど見つからず。英語だとcommon thingsとかcommon storyとか言うらしい。

 それはさておき名古屋ドーム前矢田駅で地下鉄を降りて、イオンモールナゴヤドーム前へ向かう。地下から抜ける前の通路はドラゴンズロードと名付けられており、監督からコーチはじめ、各選手の笑顔が大きな写真でズラッと並び、それぞれのサインも描かれている。昨日3月22日に2024年版のお披露目がおこなわれたばかりである。

 お気に入り選手の写真をスマホで撮りながら進む。こういった写真はあまりSNS等にアップしない方が良さそうなので、日記やnoteには添付しない。だからまぁなんとなく撮っているだけで。

 各選手の写真ゾーンを抜けると、中日ドラゴンズの歴代2,000本安打達成者の記録や、マスコットキャラであるドアラの2023シーズン活躍シーンダイジェスト、2023のハイライト写真などが見られる。2023ハイライトには、僕が観戦に来た時に生で観たサヨナラ勝ちシーンが含まれていて胸熱だ。そういやあの日も兄貴のアニィと一緒に観戦してたっけ。

 思い出した途端、兄貴であるアニィ・ホースメン(仮)からラインが送られてきた。あと10分ほどで駅に着くということだった。

 10分とはまた微妙な。ドラゴンズロードに留まって待つのもいいけど、ちょいとばかし喉が渇いたでやんす。よってさっさとイオンへ入り、スタバのカプチーノでも飲んで待つことにした。スタバはフードコートの端っこにある。11時過ぎでフートコートはほぼ満席。座るのを諦めて、立ちカプチーノをする。

 今からオープン戦を観るはずの、中日ドラゴンズやロッテマリーンズのレプリカユニフォームを着た人たちでごった返すモール内。ぼうっと突っ立って人々の様子を観察する。人待ちの気持ちを表現するにはどうすればいいんだろうと考える。考えた結果、ぼうっと突っ立って人間観察をする、でいいやって思った。

 ライン着信があり、『我、到着セリ』とのこと。場所を訊ねるとショッピングモールの反対側だったので、『こちらへ来るのだ』と返信してカプチーノを減らしながら待つ。

「あっちに行くんだからお前が来た方が早いだろ」

 と小言を放ちながら、アニィはテクテク歩いて来た。
 髪の毛が硬くチリチリで、中肉中背。仕事柄、顔がよく焼けており、眼つきが鋭い。昔は気難しかったが、体格と一緒に随分と丸くなった。季節が変わるたびに服を買い替え、一度も着ていないものを含めて300着以上の服を持っていたり、高っかい靴をどんどん買い替えてしまう。外着を2着しか持っておらず靴は底に穴が空いても使う僕とは真逆な考え方の持ち主である。

「めんどくさくて」
「いやどっちみちあっち行くんだぞ」
「そうかい……」

 などという不毛な会話をし、ふたりはアニィが歩いて来たルートを逆戻りする。

 スーパーのレシートを集めて応募する懸賞に当たり、中日対ロッテのオープン戦プラチナシート(バックネット裏の席)招待チケットをいただいた。筋金入りのプロ野球ファンである娘のモッさんは部活のイベントで来られず、友人のユージーンや飲み友のポニーを誘ったけれど土曜日は無理ということで、仕事が休みのアニィと共に観戦することとなった。アニィは長いこと中日ファンを続けており、拙作「ひいきが勝てません!」という小説における主人公のモチーフにした人物だ。

 本日の開場は12:00、試合開始は14:00。
 アニィはガチャを回しに行くという。以前はドーム内コンコースで開かれていたガチャコーナー、現在はドーム外6番ゲート付近にある。当日入場券を係員に見せてガチャコーナーへ立ち入る。

寒いけどガチャ結果はホットだった

 アクリルミニスタンドのガチャを回そうとしたアニィに、眼鏡・顎全体を覆うヒゲ・分厚いモッズコート・50代くらいと見られる男性が声をかけてきた。

「大島ある?」

 ダンディな声だ。アニィはたじろぐこともなく冷静に返答する。

「今からガチャ回すんだけど。大島欲しいの?」
「大島。大島出たら欲しい。お兄さん何狙ってんの?」
「根尾の7。それ以外は要らないかな」

 アニィは1回400円のガチャを5回遊ぶために、百円玉を20枚用意してきたようだ。1回、……2回。大島選手の背番号「8」アクリルユニフォームスタンドが出た。ダンディヒゲ眼鏡さんが色めき立つ。

「大島だねぇ。大島、頂戴な」

 アニィがカプセルごと手渡すと、彼はガチャ1回分の百円玉4枚をアニィに返還した。なるほど、これなら狙ったものだけ手に入れられるし、相手に損もさせない。ガチャコーナー内に居るということは本日のチケットを持っているわけで、何も悪いことはしていない、はず。

 その後、アニィは3回のガチャを引いた。根尾選手の「7」は出ず。
 またヒゲ眼鏡のダンディが近付いて来る。

「見せてよ。……ふぅん。19番、貰っていいかな」

 高橋宏斗選手の「19」を、アニィがカプセルごと渡す。ダンディさんは1回ガチャ分を補填。なんとも不思議な光景だ。
 そしてアニィは最後のガチャに挑む。僕と、ダンディな男と、ダンディさんの横でずっと黙っている男性は、アニィの手元を注視する。

 ガチャガチャ……。

 ……「7」だ!

『うぉぉぉおおおおおお!!』

 3人は拍手喝采。アニィがカプセルを天へ突き上げ喜ぶ。
 ……なんだこの状況。

アニィの手は職業柄、ボロボロである

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 遊んでいるうちに、ゲートが開く時間となった。

プラチナシートはこっから入る

 手荷物検査を終え、チケットを提示してドーム内へ入場する。ショップで球弁なる球場内弁当を見て周るも、選手考案の新作弁当は見当たらず。そうしているうちにアニィが「チーズタッカルビ丼」に目をつけた。「ハングリードラゴン」というお店で、ついでに僕の分も買ってもらう。あと「明太たこ焼き」と「ポテト」、「ハイボール」も。

恰好良いシート。座面が柔らかい

 プラチナシートは本革風の赤いシートで、ある程度クッション性があるため長時間座ってもそれほど疲れない。シーズンシートだから自ら単発チケットを購入する場合には指定できない席。昨年もスーパーの懸賞で2回当選し、このシートに座って観戦した。近所のスーパーマーケットありがとう。

チーズタッカルビ丼うまし。ハイボールによく合う

 ロッテのバッティング練習を見ながら、丼やら、たこ焼きやらを食べる。チーズタッカルビ丼は最初にチーズの甘みから始まり、次第にコチュジャンの辛さが口腔内に広がっていく、ひと口で二度おいしい丼だ。明太たこ焼きもちょい辛で、ハイボールを呷るためのおツマミとして最高デス。まだ塩味強めのポテトもあるじゃないかすごいな。しかしアニィはお酒を飲んでいない。

「アニィはアルコール、取らずに観る?」
「いや。店で買うと800円だけど、売り子さん(正しくは立売スタッフ)から買うと750円なんだよ。50円も安いんだぞ」
「ほぇぇ。知らんかった。いっつも売店でしか買わないし、他の人たちのやり取りも見てないからなぁ」

 50円安いのを気にするわりに、売店での支払いはアニィもちだった。よく分からない人だ。セコイけど良い人? 奔放な節約家? 彼を表現する言葉が見つからず。
 昼食を取り終えても、まだ試合開始まで1時間あった。

 中日の選手が出てきて、ウォームアップを開始する。アニィはX(旧Twitter)でリアルタイムなつぶやきというかポストを眺めている。球場内にてガチャで出たグッズの交換を求めるポストとか、新しくコンコース内に出店したポテト屋の行列写真を載せたポストなど。しばらく眺めて、彼は席を立った。

「串カツかなんか買ってくるけど、要る?」
「必須、ですね。3本は欲しいかな」
「分かった」

 のっしのっしと歩いて行った。アニィの帰還を待つ間、僕は古~いデジカメで中日の選手たちをパシャパシャ撮影する。球団公式サイトのガイドラインを読むと、試合中の選手の映像は、個人的な用途であっても許可なくSNS等にアップすることを許可されていない様子。広島と横浜は個人で自ら撮影したものに限り許可しているようだが、他の球団についてはグレーな感じだ。よってこの回のテーマは「球場メシ」とした。

 というようなことをスマホのメモアプリに入力しているうち、アニィが戻ってきた。

アニィに「ちょっと持ち上げて!」と言って撮影。ブレてるワ

 串カツ2本と、豚串1本。ありがたくいただく。
 味噌ダレがサクサク揚げられたカツによく合う。ひと串食べてハイボール、ひと串食べて、ハイボール。選手のアップを見ながらの飲んだくれは楽しい。豚串は大ぶりのよく焼かれた豚肉5つが連なった串で、おそらく醤油ダレかなにかに漬けられた状態で焼かれており、これもハイボールのかさを減らすのにもってこいだ。

 試合が開始される頃には、ハイボールの入っていたコップは空になっていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 中日のベテラン涌井投手とロッテのエース格である種市投手の投げ合いとなった前半、ロッテも中日もヒットがなかなか出ない。ロッテはポン、ポンとヒットを放ち何度かチャンスメイクするも決定打に欠き、中日の方は3者凡退が続く。

 3回裏、中日の攻撃中にトイレへ行った。思った通りトイレは空いていて、戻るついでに売店を廻る。「BigDogs」というアメリカンな品揃えの軽食店が面白そうで、吸い込まれるがごとく、気付けばカウンターの前に立っていた。

 てりやき味のホットドッグを買い、席へ戻る。アニィはビールを立売スタッフさんから買っていた。

「アニィ、それどこのビール?」
「アサヒだよ。ビールはやっぱアサヒだろ」
「いいや、ビールはキリンが良いと思う」
「キリンは甘くないか?」
「それがいいんだけどなぁ」

 という会話をしながら、4回も中日が三者凡退になる光景を観ていた。中日は現在オープン戦2位と絶好調のチームだ。ここ数試合はちゃんと点を取っていたはず。なぜ僕らが観戦する日に限ってこうなってしまうのか。

写真ではわかりにくいが、デカイ。アメリカンなサイズである

 それはともかく球場メシ。ホットドッグを食べつつ、キリンビールを立売スタッフさんから購入する。アニィの言う通りキリンビールは若干甘いが、それが好きなのだ。

 5回表、ショートゴロの間にロッテは1点を取った。ヒットの数を着々と積み増しているものの、1点止まりだ。1本のヒットも出ない中日のファンと、ヒットの数と得点が比例しないロッテのファン、どっちが……どっちもガッカリな展開だろう。
 アニィが悲しそうな顔で言う。

「中日にホームランが出たら、もう一杯ビールを飲むんだけどな」
「今日はそんな雰囲気じゃないよ。諦めるんだね」
「とほほ……」

 7回裏に高橋周平選手の初ヒット後、カリステ選手の三塁ゴロからロッテ側の1プレー2エラーにより中日が1得点。球場内全体を見渡せる位置から観ていたのに、何が起きたか分からなかったし、なんならおそらくフィールド上の選手たちも分かっていない様子だった。
 一塁走者のみの状態から三塁手の暴投により二塁手の足はベースから離れセーフ、二塁手も一塁へ暴投し、その間に走者は三塁へ。暴投によってボールがカメラマン席に入り、テイクワンベースというルールによって三塁走者となっていた高橋周平選手は本塁へ進塁した。というところかな。珍プレーってやつですな。ちなみに球審からの説明は無く、球場内は歓声でなくどよめきに包まれていた。

 あとは何事もなく、1対1の引き分けに終わった。オープン戦は引き分けの状態でも9回までで強制終了なのだ。地味な試合だったけど、バックネット裏からの観戦は1つのプレー毎に変わる球場全体の雰囲気がビシビシ伝わってきてすごく楽しかったし、球場メシだってとっても美味かった! ヨシ!

 以上、オープン戦・観戦記でございやしたー。

※NOVELDAYSに掲載している日記からの転載です。

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