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ネタバレ無し・十三機兵防衛圏を進めて気が付いた音の演出

こんにちは、クレスウェアの奥野賢太郎です。今回は、前回の記事の続きを温存し、タイムリーな話題として2019年11月に発売されたゲームタイトル『十三機兵防衛圏』についてです。

ネタバレ無しの定義について、ゲーム公式サイトのプロモーションにて触れている要素ならセーフという扱いにしますが、その情報自体を避けたいという方はここまでにしてください。

どんなゲーム?

13人の高校生がロボットに乗って怪獣と戦う、SFを描いた作品です。ゲームジャンルはRTS(リアルタイム・ストラテジー)で、攻めてくる敵をロボットに乗った主人公たちが倒していくという、RPGに近い雰囲気の作品。

と、ここまでなら「ふーん」といったところで私は食指が動かなかったのですが、2019年末に、リツイートだったかで「崎元仁氏が音楽を担当した」というツイートを見かけて、興味を持つようになりました。

崎元仁氏は『ファイナルファンタジー12』や『伝説のオウガバトル』といった往年の名作の音楽を担当されている作曲家です。私はけっこうな数のサントラを買っているレベルには、崎元氏の音楽を聴き込んでいるほうで、今回も自分のケースでよくある「作曲家から買うゲームや観るアニメを決める」という形から入っています。

じわじわと口コミを感じる

今作は、ドラクエやポケモンのようなキャッチーな略称もない『十三機兵防衛圏』というやや難解なタイトル。それを目にしたのは、正直そのリツイートが初めてでした。

社会人になって、そこまで潤沢に可処分時間があるわけでもないので、PS4で腰を据えてゲームというのもちょっと億劫に感じていたのですが、2020年が明けてからTwitterのタイムラインでしばしば『十三機兵防衛圏』というタイトルを目にするようになり、気になり始めました。それも、一人や二人どころではない勢い。

これは流行っていると踏んで3連休中に買って一気にプレイ。現在のプレイ時間は10時間程度で、まだかなり序盤とは思いますが、正直やめどきが見当たらないくらい熱中しています。

というのも、ひたすら続きの話が気になるつくりになっており、シナリオが非常によくできている。まだエンドロールを見たわけではないので、ここからどう進むのかは期待したいところですが、今のところ、中だるみや蛇足を一切感じることのない展開で、大変唸っています。

怪獣ロボットものかと思いきや、タイムリープの要素も入っていたり、スペースオペラの風味やスリラーの風味も入っており、前評判で見かけた「SF全部盛り」は、まさにその通りといったところ。

この手のジャンルは、中だるみや蛇足、回収されない伏線といった詰めの甘さが評価に繋がりやすいですが、見かけた他者のレビューによると、かなり期待値が高くても大丈夫な様子で、そこは安心しています。『大乱闘スマッシュブラザーズ』や『星のカービィ』の作者でもある桜井政博氏も絶賛したとのことで、間違いなさを感じます。

RTSのゲーム性についても、まだ序盤なので判断しにくいですが、ボタン連打で勝てるバランスよりは厳しめになっており、適度なジリ貧を感じつつ頭を使わないといけないレベルデザインが、なかなか絶妙です。シナリオ優先でゲームパートのデザインが大味になっていないところがよい。

令和に生まれてしまった、とんでもないゲーム

1990年代のゲームを多数遊んできた私は、近年のゲームからはしばらく遠ざかっていたのですが、『十三機兵防衛圏』からは正直90年代の香りがしました。

主人公を操作してシナリオを読み進めるアドベンチャーパートは2Dグラフィックで表現され、敵と戦うRTSパートは3Dではありつつも粗めのポリゴンで表現されるという、一見PS1世代の90年代後半作品のような雰囲気を感じる…、のですが、演出の細部が現代機でしか表現できない、非常に繊細なものであることがわかります。

たとえば美術面。2Dではありつつも水彩画タッチで、まるで動くイラスト。登場人物もモブも全員ぬるぬると動くし、背景もリアルな描写で細かく動き、なにより窓から差し込む光がリアル。影や床の反射といった演出も当たり前のようにされており「2019年にあえて採り入れる2D」という良さを感じます。

この2D表現は、キャラクターの立体的な動きが脳内補完されることになり、これは1990年代にドット絵やローポリゴンで作られたゲームを遊んでいたときの脳内補完の感覚に似ている気がします。

BGMが与える安心感と緊張感

BGMの制作は崎元仁氏を筆頭に、有限会社ベイシスケイプの方々が手掛けているそうですが、ゲームの舞台が1985年の日本だからといって、変にレトロ感に寄せない、とてもモダンな音作りになっています。

シンセサイザーに、アコースティックギターやピアノといった軽快で鮮やかな組み合わせの、2019年の現代っぽいサウンド。木管楽器やソロの弦が牧歌的な雰囲気を出しつつも、昭和日本への郷愁を感じさせない、どこか緊張感を保った明るさをしています。さわやかなんだけどミステリアスというか、ちょっと不安がよぎるというか。

10時間ほどプレイしていて気付いたこととして、シナリオの起伏と使われるBGMの雰囲気の起伏が、微妙にズラされているような気がしています。楽しいシーンには楽しい曲、悲しいシーンには悲しい曲、という安直な選曲ではなく、描写は明るいけどちょっと不穏とか、緊迫しているけど悲しい曲とか、そういった若干のズレが意図的に起こされている気がするのです。

例えば、シナリオが「日常風景」「不穏・疑念」「急展開・衝撃」という3つの波を行き来してるとすれば、音楽は「安心」「緊張」の2つの波を行き来している、という感じ。

もちろんドンピシャなシーンも多いのですが、その波の周期が微妙にズレていることによって、あえて波を相殺させている演出もあれば、波を増幅させている演出も感じます。その波の周期がつねに一致しないからこそのドラマチックさというか、カタルシスが生まれていると感じます。

ただの深読みかもしれません。

音声を聴かせることに主眼をおいた音響設計

『十三機兵防衛圏』はフルボイスです。「やぁ」とか「うん」だけ喋って、あとは文字を読む部分的フルボイスの作品も多い中『十三機兵防衛圏』は隅から隅までフルボイス。

ただ、他のゲームと違うのは、画面下部に字幕が出てきて長々と喋るのではなく、20文字程度の短めのセリフが繰り返される形式で、2Dのキャラクターの頭上に字幕が表示されます。ここはちょっと新鮮でした。

で、このゲームは、ひたすらキャラクター同士の会話を聴き眺めることによって、シナリオの解釈を深めていくものなんですが、音声に対する配慮がかなり細かいことに気付いてしまったので取り上げます。

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本作では、クラウドシンクというゲームシステムを活用して物語を進めていきます。これはよくできていて、従来なら「アイテム」や「キーワード」といった項目でまとめられそうなものが、すべてここに集まります。手に入れた道具を使うのも、重要な単語を問いかけるのも、すべてクラウドシンクから。

これが世界観をかなり決めるGUIになっており、かなりの回数このメニューを開くことになるわけです。そのメニューを開いたとき、写真のように主人公の周りにはノイズの混じったモヤモヤが掛かるのですが、このときBGMには高音域を削るフィルター処理が掛かります。

例えばマリオが海に潜ったときに、BGMが籠もった音になるなど、この手のインタラクティブ・ミュージックの表現は、現代ではなんら珍しいものでもなくなったのですが、驚いたのはそのフィルターの掛かり方について。

どうやら、様々なシーンのBGMで聴き比べを繰り返した結果、曲ごとにフィルタ量が違っているようなのです。もしくは2 Mixではなくステムデータ単位(LRステレオではなく楽器単位)でフィルタを掛けているか。ハイが多めに削られる曲もあれば、シリアスな雰囲気のBGMではほぼフィルタが掛かっていないなど、どうやら一曲一曲でクラウドシンク時のフィルタ演出が異なるようなのです。

そしてもうひとつ面白いのが、これらはリアルタイムに処理されているというところ。クラウドシンクを開く△ボタンを何度も押すと気付きやすいですが、フィルタのオンとオフではなく、フェードインとフェードアウトをするようになっているのですね。こういった音楽・音響の演出は現代のゲームらしさという感じがします。

他にも、キャラクターが喋っているときにBGMを少し小さくするダッキング処理も、フェーダー調整ではなくダイナミックEQのような掛かり方をしている気がするし、メニュー画面を開いたときはLowがちょっと減らされている気がするし、詳しい実装はわからないですが、BGMの音量を絞るだけではない帯域単位での凝った制御が詰まっているように見えます。

豊富な戦闘BGMが盛り上がる

RTSゲームパート「崩壊編」の戦闘BGMが豊富なのも、ぜひ挙げておきたいです。シミュレーションRPGやRTSの類のゲームなので、戦闘BGMが1種類じゃないというのはもはや当たり前ですが、その演出がうまい。

シナリオが濃密である以上、キャラクターたちが戦闘中にもそれなりにドラマを展開するわけですが、 それらの会話シーンでは、まずBGMのイントロがループ。それから実際にプレイヤーが操作する戦闘が始まるとイントロを抜けてBGM前半をループ。さらに戦局が進んでくるとドラマを挟んでBGM後半がループするようになっています。

こういったインタラクティブ・ミュージックの手法も、さほど珍しいものではなくなり、備えていて当たり前くらいになりましたが、本作のようにキャラクターたちのセリフの掛け合いと音楽の進展が一致していると、やはり盛り上がりを感じます。良い演出です。

なにげに、すべての戦闘BGMごとに勝利ジングルも異なっているようで(それぞれの戦闘BGMごとにエンディング部分が用意されていて)そういった芸の細かさや抜かりのなさも、シナリオの濃密さと合わさって説得力に繋がっていると思います。

21世紀に生まれるとは思わなかったクオリティの作品

まだ10時間程度のプレイですが、かつてのSF RPG『ゼノギアス』を思い出すかのような、隅々まで散りばめられた伏線の多さに懐かしさを感じるとともに、予算を理由にそこまで風呂敷を広げなくなった21世紀によくこんな大物を出せたな…という感心があります。企画に6年近く掛かったという話も納得です。エンディングを見たら、またネタバレ前提で記事を書く、かも。(追記:書きました

シナリオ、声優、美術、音響、ゲームバランスどれをとっても、かなり満足できるタイトルになっていると思いますので、もし知らない方はチェックされてみてはと思います。

それでは、また。

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