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Q.下腹部、陰部の浮腫ってどうしたらいいの?①

下腹部や陰部の浮腫は術後オナカのぼこっと感を出している一つの原因と考えられます。
セックスするときに一番隠せないこれらの部分、正しい浮腫への対処法について知りたい方も多いと思いますので記事にまとめます。

本日の記事は自由が丘にあるリンパ浮腫専門のサロン「青い森」のリンパ浮腫療法士である山下牧子さんよりお話を伺いました。
フェルディ式リンパ浮腫ドレナージを臨床で実践され、その経験から現在のサロンを立ちあげられています。
リンパ浮腫施術を包括的にアドバイスしてくださいますので、お困りの方はぜひサロンに足を運んでみてくださいね。
下に連絡先と参考資料も書いておきます。

まず術後リンパ浮腫がでる理由を、みなさん勉強されているでしょうから簡単に。
リンパはリンパ節とリンパ管、その中を流れるリンパ液から成ります。
みなさんが郭清した骨盤内リンパ節や傍大動脈リンパ節は下の図の位置にあります。
病気が見えるvol9より引用
(持っていた資料のため〇は気にしないでください)

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通常下半身のリンパの流れは、皮膚の浅い部分にある表在リンパ管を通って鼠経リンパ節に集まります。そこから体の深いところにある骨盤内リンパ節や傍大動脈リンパ節を通り胸管という太いリンパ管に集合して心臓に戻っていきます。
これらのリンパ節が切除されると胸管へと流れていくための入口が少なくなってしまいます。

しかし下肢にたまったリンパが全く道をなくしてしまったというわけではありません。
婦人科がんの手術ではどの病気でも基本的に鼠経リンパ節は摘出されず残っています。(上の図をご参照ください)
鼠経リンパ節から広がる表在リンパ管が鼠経リンパ節から腋窩リンパ節までを繋いでおり(鼠経⁻腋窩リンパ連絡路)、ここにリンパが流れてくれます。
参考文献より

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ただこの連絡路は本来通っていた深部リンパ管ほどの太さがなく、リンパの渋滞がどうしても起こり、リンパ浮腫となってしまうことがあります。

みなさんが受けた手術は、解剖学的に太ももの内側や下腹部、鼠径部、陰部が非常にむくみやすくなっています。

●なぜ太ももの内側や下腹部や鼠径部はむくみやすいのか
鼠経リンパ節から出る深部リンパ管を失ったことによりその周囲(鼠経、下腹部、陰部)に行き場のなくしたリンパがたまり、むくみに繋がってしまいます。
●浮腫はいつまで続くのか
術後一過性に浮腫が現れることがあります。これは必ず引いてきます。
しかしその後発症してしまった場合「リンパ浮腫が完全に治るのは難しい」と言われています。早期に変化に気づき、セルフケアを開始して悪化しないようにすることが大切になってきます。

浮腫への対処法の柱は4つあります。
スキンケア、圧迫療法、ドレナージ、運動
です。
もし現在の浮腫の状況が挙上だけではほとんど改善せず、圧痕がみられたりむしろ皮膚が硬くなってくるようなことがあれば、これらを合わせて行うことが大切になってきます。

陰部や下腹部に関しても圧迫療法前にまずドレナージで皮膚を柔らかくすると効果があがりますので、解説していきたいと思います。

●リンパドレナージの原理
表在リンパ管の細胞の表面にはフィラメント(糸みたいなもの)がついており、これは周囲の組織にくっついています。
ドレナージをするとフィラメントが引っ張られて細胞の間に隙間ができ、リンパ液が吸収されていきます。この隙間の開閉運動を促すことで通常の10倍~20倍リンパ液の流れを促すことができます。これがドレナージの原理です。
そのため大切なのは皮膚を直接動かすこと。
コツは「皮膚を引っ張り(隙間があいているのを感じて)、その後重みを抜くように円を描くようにマッサージすること」です。

参考文献より

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※ただこの力加減というのは非常に難しく、もしリンパ浮腫を発症された方は一度リンパ浮腫療法士さんにしっかり指導してもらうのがいいと思われます。
●下腹部と陰部のドレナージの方法
ドレナージをする場合必ず前後に下記に示す前処置、後処置を行う必要があります。
前処置:今からリンパを流す両腋窩リンパ節までの流れを促します。
① 肩回しします(10回) 
② 腹式呼吸をします(3~5回) 
③ 脇の下の皮膚を円を描くようにマッサージします(20回) 
④ 脇から骨盤を約5等分し、上から下へ円を描くようにマッサージし(各5回)その後骨盤から脇にリンパを流します(5回) 
参考文献より

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下腹部及び鼠径部のマッサージ
(下腹部)
① ウエストと恥骨を3等分し外側、真ん中、内側をそれぞれ円を描きながらマッサージします(各5回)
② 恥骨から骨盤にかけて流します(5回)
③ さらに骨盤から脇にかけて流します(5回)

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(陰部)
① 軽く股を広げて直接手を陰部に当てます。
② 陰部を約3等分し、両手で陰部を包み込みながら手前から奥に一回ずつ円を描くように皮膚をずらしマッサージします。(各5回)
③ 奥からそのまま下腹部に流します。(5回)
参考文献より

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動画をよければ参考にしてください。太ももを陰部に見立てています。
https://drive.google.com/file/d/141sI1WsaWqGvuvIHG9anV9zKh3yhNz7I/view?usp=sharing

後処置
① 脇から骨盤を約5等分し、今度は骨盤から円を描くように脇までマッサージします。(各5回)
② 脇の下の皮膚を円を描くようにマッサージします。(20回)
③ 腹式呼吸をします(3~5回)
④ 肩回しをします(10回)
参考文献より

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●ドレナージ回数の目安は?
陰部などは効果的に圧迫しにくい部分であり、なるべく多く出来たらいいですが、陰部まで裸になれる回数は1日でなかなかに限られていると思います。
リンパ浮腫療法士の山下さんがおっしゃるには4~5回程度できれば十分と言っていました。しかし無理のない範囲で行いましょう。

ドレナージで流れを促したあとに圧迫療法を行うことでより圧迫の効果が高まります。
次回記事では圧迫療法を中心にご説明します。

※日本リンパ浮腫学会が出している2018年度版リンパ浮腫ガイドラインによると「続発性リンパ浮腫に対して用手的リンパドレナージは標準治療として勧められるか」という問いに対してグレードC1(行うことも考慮していいが十分な科学的根拠はない)と結論づけられています。どれもドレナージに加えて圧迫療法を行った研究であり、なおかつドレナージはMLD(専門家によるドレナージ)からSLD(上記に説明したような患者によるドレナージ)に移行している事例です。
もし下肢挙上などで状態が改善せずセルフケアに行き詰まっているようであれば、専門家に相談することが必要と考えられます。

山下さんのサロン
自由が丘 青い鳥

TEL:070⁻6478⁻4053
EMAIL:aroma-aoimori@willcom.com

参考文献
佐藤佳代子著 リンパ浮腫治療のセルフケア 真興社 2006

活動、研究資金とさせていただきます。